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第16幕 任務を遂行します

「速度、軌道きどう、共に良好です」


「船内、どこにも異常は見られませんでした」


「点検ご苦労、君達ももう休みなさい」


「失礼します」


「リーダーも早く休んでくださいね」


 二人は笑い話をしながら自室へと戻って行った。


 転生してから三年の月日が経った。

 記憶喪失だった俺は、行く宛も無く彷徨さまよっていた所を、警察に保護された。


 戸籍が無く、その上記憶喪失だった俺は、都合のいい存在だったのだろう。

 なかば強制的に、宇宙船の搭乗員を育成するための施設に収容されていた。


 知識の吸収が人よりも優れていた俺は、その優秀さを認められ、とある極秘プロジェクトのリーダーに任命されるほどに成長した。

 そしてその極秘プロジェクトの内容を知り、酷く驚いたことを昨日のように覚えている。

 その内容とは、他の星への移住計画。


 増加していく人口に対し、地球のエネルギー資源は減っていくばかり。

 このままだと近い未来、エネルギー資源は枯渇こかつしてしまう。

 人類の未来のために移住予定の星を偵察しに行ってくれとの事だが、要するに捨て駒だ。


 今回の任務は知的生命体の調査、そしてエネルギー資源の発見。

 もし、自分達に敵対する知的生命体が存在した場合、抹殺しても良いとのことだ。

 こんなの略奪りゃくだつだ、極秘なのも頷ける。

 

 自分達より遥かに強そうな知的生命体が居たら真っ先に逃げよう、もし死んだらまたイシスに会えるのかなどと考えながら、俺は自室に戻り、就寝した。


 ◆


「そういえばリーダーの下の名前ってなんですか?」


 とある日の食事の時間。

 メンバーの一人から突然話しかけられた。


「すまない、未だに思い出せないんだ……」


「記憶喪失って大変っすね。俺と初めて話した時なんて東京タワーってなんだ……? とか言ってましたもんね」


「それなのに今では俺達より遥かに博識はくしきですよね。俺もリーダーみたいに頭が良かったら親に売り飛ばされなかったのかなー」


「リーダーって超イケメンだし超頭良いし、記憶喪失になる前もさぞ女の子にモテモテだったんだろうな〜。羨ましい」


「リーダーは気になる子とかいないんですか? メンバーの中にも一人くらい好みな子が……」


「一応メンバーの顔は全員把握してるが……好みな女性は居ないな」


 どんなに可愛い子がいても、全くなびく気がしない。

 まるで心に決めた人がいるような、そんな感覚があった。

 もしかしたら前世で相当惚れ込んだ人がいたのかもしれない。


 結局、前世の俺は何者だったんだろう。

 オビナタという人間を調べて見た所、


天才高校生帯向虎鈴おびなたこりん、自宅に黒い焦げ跡を残し行方不明。部屋には時間旅行タイムトラベル計画と書かれた大量の計画書とタイムマシンと思われる装置とその設計図が?!』


 という記事が出てきた。


 俺の事かもしれないと思い調べて見たが、顔が全く違った。


 記憶が戻る日は来るのだろうか。


 ◇


 オベイが姿をくらませた後、俺はひとまずオベイと住んでいた家を見に行くことにした。


 予想してた通り、家は無惨むざん瓦礫がれきの山になっていた。

 何か残っていないかと漁っていると、所々ボロボロになり穴が開いたオベイの日記帳が出てくる。

 俺はその日記帳を読まずに持って帰ることにした。


 読んでなくても、不思議と何が書いてあるか分かるような気がした。


「オベイくーん……どこ行っちゃったのぉ……」


「リリィさん、泣きすぎですよ。もう丸一日ずっと泣きっぱなしじゃ無いですか」


 リリィは一人じゃ危ないからと一緒に着いてきてくれたのだが、崩れた家を見た時なんて号泣しすぎて、むしろ近くの魔物を呼び寄せていた。


「コリン君は寂しく無いの?」


「そりゃ寂しいですよ。たくさん聞きたいことがあったのに聞きそびれましたし。そもそもなんですか。国民守って、転生して、長い間復讐のために努力して、最後は復讐をげてって、完全に主人公じゃ無いですか! 主人公は俺なはずなのに……」


「ごめん後半何を言っているのか全然分からなかったんだけど……」


「まあでも、また会える気がするんですよ。根拠も何も無いですけどね。」


 もしまた会えたその時は、初めて会った日の夜みたいに朝まで酒を飲み明かそうぜ、相棒。


 ◆


 オベイが消えてから三年半の月日が経った。

 魔王が消えてからも、残った魔物と人間の戦いは続いている。

 魔王との戦いの最中、手薄になっていたガーナピットは魔物の軍勢に占領されていたらしく、ガーナピットと隣国であるヴァレッタは、間にあるタイタン大森林で日々戦闘を繰り広げていた。


 そんな大変な状況の中、俺は……。


「ナナシロさ〜ん。今日もエルフのお店に行くからお金ちょーだい!」


「またかい?!」


 完全にニートと化していた。


 俺もヴァレッタの力にはなりたい。

 だが、ほとんどの魔物に対して、俺の作った武器は何の役にも立たなかった。


 身体強化をしていなくても銃弾を通さず、電気も化学物質もほとんど効かない鋼鉄の肉体を持つ魔物達。

 その中でも数こそ少ないものの、人型で会話ができる魔物、通称【魔族】。

 シンラほどではないが、奴らも化け物揃いで俺にはお手上げだった。


 俺が倒した猪型の魔物って、めちゃくちゃ弱かったんだなと実感し、俺は諦めて自堕落じだらくに生きる事にした。


「全く……世界を救った勇者が、ただの金食い虫に変貌へんぼうするとはね」


「勇者だなんて照れるなぁ、あはは」


 皮肉を完全に受け流されたアレシアは大きく溜息を吐く。


「コリン殿、タイタン大森林の最終防衛ラインが突破されたら、この国は魔物に侵入され、あなたの大好きなエルフの店も無くなってしまうかもしれませんよ?」


「……その脅し、オベイにもされたぞ。やっぱりアンタら親子だな」


 そう言われたナナシロは、何故か少し嬉しそうにほおく。

 エルフの店が無くなったら悲しいよね、そうならないように少しは手伝って! と言いたいんだろうが、俺の知識とこの世界にある素材では、銃火器を作るのが限界だ。

 切り札も、もう二度と使わないってオベイと約束しちゃったしな。


「今の俺にはどうしようもないよ。でも魔王もいなくなったし、人類の勝利は決まったようなものだ。あとは消化試合だろ」


「それが……魔王が居なくなってから、開いた玉座ぎょくざを狙う魔族達が活発化してだな。それに、捕らえられたガーナピットの国民を盾にして狡猾こうかつに立ち回ってくるものだから、戦況はかなり厳しい状態だ」


 なんでだよ。


 普通魔王が討伐されたら魔物の凶暴化きょうぼうかが解けたり能力が低下したりとか、お決まりな展開があるだろ?

 何で敵将を倒したら逆に敵にバフがかかるんだよ、おかしいだろ。


「……まあとりあえず、エルフのお店でお酒でも飲みながら策でも練ってみるよ」


「……はぁ、頼むよ勇者様」


 ナナシロはあまり期待していない表情で、俺にお金の入った袋を渡してきた。


 ◇


「あと一時間で目的の星に着く。ペア同士、しっかりとバディチェックを済ませておくように」


「「はい!」」


 さて、俺も配給された装備の最終確認でもするか。


 超高速で振動し、大抵のものはバターの様に切れてしまう高密度粒子の剣。

 危険を感知した瞬間、自動でシールドを貼ってくれる防護服。

 分厚い鉄板も容易く貫通する指向性しこうせいエネルギー銃。


 どういう原理なのかは分からないが、どうやら天才高校生、帯向虎鈴おびなたこりんが作り出したものらしい。


 帯向虎鈴の自室に残っていた、時間旅行の計画書。

 そこに記載きさいされていたタイムマシンの使用方法と仕組み。

 幾多いくたの科学者がその内容の解析を試みたが、ほとんどできなかったようだ。


 だが、かろうじて解析できた一握りのデータを参考に、時間遡行(そこう)等を利用して光速以上の速さで移動できる、この宇宙船を作る事に成功した。


 帯向虎鈴、その名前にどこか懐かしい感覚がする。

 生前、こいつとは兄弟だったのかもしれないと思い調べてみたが、兄弟はいなかった。

 もしかしたら、苗字が同じだったから仲が良かったとか、そんな感じなのかもしれない。

 もし会えたら、一度話がして見たいものだ。


 ◇


「うーん、何も思いつかん」


「どうしたのコリン君、悩み事なんて珍しい」


 お酒を飲みながら頭を抱えていると、いつものネグリジェ姿のセラフィが声をかけてきた。


「……魔物に色仕掛けって効くのかな?」


「……え、何? 好きな魔物でもできた?」


「そんな訳無いだろ。魔物が活性化して、このままだとヴァレッタが危ないから何か策を練ってくれってナナシロさんに頼まれてな」


「やっと仕事ができたのね、良かったじゃない」


 まるでニートの息子に仕事ができた事を喜ぶお母さんの様な反応をするセラフィ。


「今日はお祝いね、これはサービスよ」


 話を聞いていたリリィが透明な液体が入ったワイングラスを出してきた。

 いやこれどう見ても水だよね。


「それ飲んで頭冷やしなさい。お酒ばっかり飲んでいたら、策なんて練れないでしょ」


「異世界転生してきた勇者様をナメてもらっては困りますよ」


「今のあなたはただの穀潰ごくつぶしじゃない。とても勇者には見えないわよ」


 リリィは酔っている俺を見てため息を吐きながら、カウンターの奥に消えていった。


「オベイ君が今の君を見たら泣くよ〜?」


 セラフィは俺のお酒のグラスを取り上げると、水の入ったグラスを勧めてくる。


「いや、オベイに一生遊んで暮らして良いって言われたし……」


「限度があるでしょ、そんなんじゃいつまで経っても彼女できないぞ〜?」


「……悪い男に騙されまくってるセラフィさんはいつ彼氏作るんですか?」


「……昨日も気づいたら給料袋盗まれてた。グスン……」


 セラフィは取り上げたグラスのお酒を一気飲みすると、悲しげな背中を見せながら何処かへ行ってしまった。


 見た目は良いんだけどなぁ、リリィと比べて出るとこ出てるし。

 中身がかなり残念なのがなぁ……。


「コリン君! ちょっと来て!」


 リリィが店外に聞こえるほどの大声を上げながら、青ざめた顔でこちらに走ってきた。

 店内の客や従業員がなんだなんだと一斉にこちらに目線を向ける。


「え、どうしたんですか急に」


「酔っ払ってる場合じゃないよ! ほら早く水飲んで、外来て!」


「ガボボボボ」


 無視やり水を口に突っ込まれながら外に引っ張り出される。

 リリィがこんなに慌てるなんて、何があったんだろうか。


 ◆


「うーん、どう見ても映画とかで見る、宇宙人が侵略しにきた状況だよな」


 外に出ると、辺り一体を影でおおい尽くすほどの巨大な飛行物体がただよっていた。

 リリィによると、空を眺めていたら突然空から飛んできたらしい。

 周りの人々が、不安そうにそれを見つめている。


「コリン君なら何か知ってるんじゃないかと思ったんだけど……」


「少なくとも、僕が居た頃の地球の科学力じゃこんなもの、作れないと思います」


 謎の飛行物体から、エンジン音や駆動くどう(おん)が全く聞こえない。

 不気味なほど静かに浮遊している。


「なんでずっと空を飛んでいるのかな?」


「多分どこか降りられる場所を探しているんじゃないですかね」


 などと話していると、空気が揺れ、重低音が響き渡り、飛行物体が加速し始めた。


「あっち方角は……タイタン大森林の方ね! 私達も行きましょう!」


「あ、ちょっと待ってリリィさん!」


 宇宙から来た相手の方が、明らかに文明レベルは上だ。

 相手の目的が占領や略奪りゃくだつならまずい。

 そうでない事を願おう。


          ◇


「あれは……人間です! この星にも人間が存在しています!」


「マジか……おいおい! あの耳が尖った人間ってエルフじゃないか?! あの低身長で長いひげの男はドワーフか?! すげえ、本当に存在してたんだな……」


 最悪だ、知的生命体……しかも我々と同じ人類がいるとは。

 意思疎通いしそつうは可能だろうか、地球より文明は発展していないようだが……。

 それに、なぜか懐古かいこしている自分がいる。


 もしかして俺はこの場所を知っている……?

 そんな訳無いか。

 

「なあ、抵抗する知的生命体は好きにしていいって任務だったよな」


 メンバーの一人がエルフを性的な目で見ながら舌なめずりをする。

 その瞬間、俺の中でその男への明確な敵意が湧いた。

 それと同時に、地上にいるあの人間達を守らなければという意志が芽生えてくる。


 自分の故郷のために、心を鬼にして侵略しなくてはならないのに。

 俺は一体どうしてしまったんだ。


「リーダー、どうしたんですか? 体調悪そうですけど…」


「すまない、少し頭痛がしてな。もう治った」


 俺は故郷の星のために。

 立ち塞がる障害は、どんな手段を使ってでも排除する。


 ◆


 タイタン大森林とヴァレッタの城壁の間。

 木々の生えていない開けた場所に、巨大な宇宙船は着陸した。

 追いかけてきた俺達は、目を丸くしながら宇宙船を見ているフィグナル達を見つける。

 フィグナルもこちらに気が付き、慌てた様子で近寄ってきた。


「何だこれは。コリンの作った新兵器か?」


「違います、多分宇宙人です」


「はぁ? ただでさえ魔物との戦闘で手一杯なのに、このタイミングで第三勢力に来られたら一溜りもないぞ」


 他の兵士たちも、巨大な宇宙船を見て呆気あっけに取られている。


 着陸した宇宙船の扉が開き、顔にはガスマスク、全身を戦闘用スーツで包み、銃や円筒状えんとうじょうの棒を装備した人間が三十人ほど降りてきた。


「コリン君みたいな黒髪黒目の人ばっかりだね……」


「この星に黒髪黒目の人間はほとんどいない、宇宙人で間違いなさそうだな」


 フィグナルとリリィが俺と宇宙人を交互に見比べて確信したように首を縦に振る。

 二人ほど身体強化できない俺は遠くからなのでよく見えないが、先頭に立っている人間だけ髪色が白っぽいような気がした。


 宇宙人達は、武器を構えながら警戒をするようにゾロゾロとこちらに歩いてくる。

 そして、お互いの顔が見えるくらいの距離になった。


 相手の顔はガスマスクで隠れていてほとんどよく分からない。

 だが、一人だけ一際目立つ、先頭に立っている白、否、銀髪の男に視線を奪われる。

 その男は、俺達を見るとガクガクと震え出し、頭を抱えその場に崩れ落ちた。


「あ、あ、頭が……痛い!!!」


「どうしたんですか?! リーダー!」


 呼吸を荒げ、首を抑え、苦しそうにしている。

 どうやら過呼吸になっているようだ。


「ど、どうしたんだ彼らは……」


「凄い苦しんでいるようだけど……何を言っているのか全然分からないわ」


「え?」


 リリィの発言に、俺はハッとして気付く。

 そういえば、俺だけが彼らの会話を理解できている。

 それもその筈。


 彼らの使っている言語は……日本語だ。


「はぁぁぁぁぁぁ?!」


「どうしたのコリン君?! 急に叫び始めて」


「多分あいつら……地球人です」


「「はぁぁぁぁぁぁ?!」」

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