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第9章 この世界の人間みんな化け物なんだけど

 単発銃だと避けられてしまうのなら、弾数を増やしてしまおう!


 ということでアサルトライフルを作ってみた。

 数打てば当たる大作戦だ。

 この世界なら大きな反動も身体強化で対応できる。


 ちなみに手榴弾などの爆弾系統も作ろうと思っていたのだが、この世界には既に魔力起動爆弾というものが存在していたのでやめた。


「完成しました。性能チェックの方、お願いします。」


「うむ、承知した」


 腕を組んで部屋の壁にもたれかかっていた強面こわもての男が返事をする。

 オベイに無理な要求を押し付けられた男、フィグナルである。

 回復術士のライドルと共に、オベイに頼まれ手伝いに来てくれた。


「先程の武器よりえらくゴツいのができましたね」


 ライドルがアサルトライフルを持ち上げながら言う。


「なんか強そう、これは期待できるわね」


「弾速もさっき作った単発銃の倍以上、さらに一秒に十発近く発射される連発銃です」


 オベイ相手でも結構やれるかも?

 などと期待していたのだが。


「それじゃあライドルさん、試しに打ってみてくれませんか?」


「私がですか?」


「俺程度の身体強化じゃ多分この銃の反動には耐えられないと思うので、お願いします」


 分かりましたと頷くと、ライドルは遠くの壁を目掛けて引き金を引いた。

 数十発の銃弾が発射され、それを見たフィグナル達が驚く。


「おおっ、これは凄い! 魔力を使わず、これほどの殺傷能力が出る武器を作れるとは!」


「チキュウという星の人間の技術はすごいな。魔力がなくとも生きていける理由が分かった気がするぞ」


 もちろん、フィグナルとライドルも俺が異世界人だということは知っている。

 俺と初めて会う前から、オベイに聞かされていたらしい。


「さて、ウォーミングアップ程度にはなりそうだな。ライドル、私に向かってそれを打ってみろ」


「分かりました」


「え? 流石に危ないんじゃ……」


「こう見えて俺はヴァレッタの将軍の地位を任せられている身。安心して見ていてくれ」


 自信満々な様子で上着を脱ぎ、軽いストレッチをするフィグナル。

 隣に居るリリィも心配する様子は全くなく、それどころか楽しそうだし私も行こうかなとつぶやいていた。


 この世界の人達、怖いんですけど。


「それじゃあ行きますよ!」


 掛け声と共に、ライドルが発砲する。

 フィグナルはそれを、目にも止まらぬ速さで避け、受け止め、さばき、ジリジリとライドルに近づいていく。

 そして手が届く距離まで近づくと、手のひらで素早く銃先つつさきを握りつぶした。


「あ、すまん! ついうっかり壊しちまった!」


 ついうっかりじゃねえよ! 

 薄々分かってはいたが、この世界にいる奴はどいつもこいつも化け物か?!

 節分の豆まきじゃないんだから、もう少しひるんでくれてもいいじゃないか。

 もうこいつらが人の皮を被ったサイボーグゴリラにしか見えない。


「あーあ、私もやってみたかったのに。コリン君、もう一つ作ってくれない?」


 リリィが残念そうに先端を潰された銃先つつさきを見る。

 遊び道具じゃないんですけど……。

 

「いや、そんな暇があるならもっと強い武器作れってオベイに怒られそうなので……一応聞きますけど、その武器で敵兵は倒せそうですか?」


 俺の質問に、実際に弾を浴びたフィグナルは首を傾げると。


「そうだな、一般的な戦闘兵にはまあ牽制けんせい程度にはなるかもしれん。だが将官クラスには効かないだろうな」


 俺は思わず黙り込む。


 今の俺の知識を総動員しても、この世界にある素材だけでフィグナルを倒せる武器を作れるビジョンが浮かばない。

 とりあえず対物ライフルや重機関銃も作ってみよう。

 それで無理なら別の方法を考えるしか無い。


「それにしても、コリン君。よくこんな複雑な構造の武器を一から作れるわね。元いた世界では武器職人でもやってたの?」


「実は元いた世界の自伝的な記憶がほとんどないんですよ。もしかしたらそうだったのかもしれませんね」


 知識は消えず、思い出だけが消えている。

 たまたまなのか、それとも意図的に消されたのか。

 真相は分からない。

 分かる日が来るのかも分からない。

 考えても無駄だ、いま目の前の難題に思考を費やそう。


          ◆


「うおっ! この威力と射程距離なら十分に実用性があるぞ!」


 対物ライフルの弾を受けたフィグナルが、嬉々とした声を上げる。


 対物ライフルの有効射程は一五〇〇メートルほど。

 この世界でそれほどの射程がある魔法はあまりなく、発動するにしても大量の魔力や下準備が必要であり、大抵は被弾する前に相手にバレてしまう。

 相手もまさか一五〇〇メートル離れたところから魔力を使わずに自分を殺せる武器が存在するとは思わないだろう。

 つまり、初見殺しとして使えるということだ。


 いくらこの世界の人間でも生身で食らえば即死はまぬがれない。

 どんなに強い相手でも、身体強化で防御力を上げていない状態なら撃ち殺せる。


 至近距離ならフィグナルですら多少は怯むレベルの威力。

 重さも反動もこの世界ではあまりデメリットにならない。

 やっと一つ、有用な武器が作れた様だ。


「お手柄だコリン! これならもしかしたら奴を……早速量産しよう」


「では待機してもらっている鍛冶職人の皆さんに伝えてきますね」


 ライドルは設計図を持つと、ダッシュで向かっていった。


「そういえばフィグナル君。ガーナピットはあとどれくらい位で攻めてきそうなの?」


「報告によりますと、今の進軍速度からして、あと三日ほどでヴァレッタに到着するとのことです」


「うーん、それまでにどれだけ量産できるかな……」


 部期の構造がかなり複雑なため、魔法を駆使しても製造にはかなり時間がかかってしまう。


籠城戦ろうじょうせんになりそうなら、狭間さまを作るのがいいかもしれません」


 他国との戦争をするにおいて、国を囲んでいるあの高く分厚い壁を利用しない手立てはないだろう。


「狭間? 何だそれは」


「城壁などにもうける、遠距離武器を使うための小穴です。地球ではその穴から外の敵を一方的に狙い撃ちする戦法がありました」


「なるほど。早速部下に命じて作らせよう」


 フィグナルは上着を羽織はおると、ダッシュで部下に指示しに行った。


「お疲れ様、コリン君。もう夜も遅いし、今日はここらへんにして、ご飯食べに行きましょ」


「そうですね、流石に疲れました」


 疲れた原因の半分くらいは感情の起伏きふくのせいだけどね。

 フィグナルが重機関銃をマッサージ感覚で使い始めた時は流石にドン引きしていた。

 

「あの、フィグナルさんってこの世界の強さ基準ではどれくらいの立ち位置にいるんですか?」


「うーん。この国の将軍だし、人族の中でなら五本指には入るんじゃないかしら? まあ私のほうが強いけどね」


「ハハハ、そりゃあすごいや」


「コリン君絶対信じてないよね」


 こんな華奢きゃしゃなリリィが、もしゴリマッチョなフィグナルよりも強かったら人間不信になるぞ俺は。


 とりあえずフィグナル並みの化け物がゴロゴロいるなんてことはなさそうだ。

 少し安心した。


「そういえば、オベイが自分はこの国で最強とか言ってましたけど、本当はどれくらい強いんですかね」


「さぁ? 本当に最強かもね」


「ハハッ、それは無いでしょう」


 弾丸キャッチをした時は本当にそうなのかと思ったが、今では、この世界の人間なら誰でもできるんじゃね? と思うくらいには、感覚が麻痺まひしてきている。


「そういえばリリィさんって、十数年前にガーナピットが襲来しゅうらいしてきた時、ヴァレッタにいたんですか?」


「勿論よ。今のお店は五十年前くらいから開いているもの」


「なら、その時の状況を詳しく教えてくれませんか?」


「あら、どうして?」


 オベイが以前にこの事件について話していた時の苦痛に満ちた表情。

 ただの興味でその原因を少しでも知れたらなどとは言えず、俺は黙る。

 そんな俺を見たリリィは、何かを察した様にやれやれと首を振ると。


「あの戦争はね。ガーナピットが勝ったのよ」


「え?」


「追い返しはしたものの、両国の損害は比じゃなかったわ。ガーナピットは死傷者ほぼ無し。それに対し、ヴァレッタの兵は八割が死亡、または二度と戦線に復帰できないほどの重症を負ったわ」


 遠い目をしながら、嫌な記憶を掘り返す様に話すリリィ。

 死傷者ほぼ無しだと?


「じゃあ何故、ガーナピットは引いたんですか。そのまま攻めていれば目的は達成出来たんじゃないですか?」


「そうね。でも断念した。一つの魔法が原因でね」


 リリィが腕を前に突き出すと、その腕を覆うようにあわい光の膜が現れる。


「先代国王、アシュランが自らの命を媒介として国民全員にかけた超魔法、通称『光の加護』。この魔法は付与した対象に殺意を向けてきた存在に対して、光の刃で自動反撃するの。壁を見て」


 リリィが魔法で壁に映像を投影とうえいする。


「これはその時の私の記憶、そしてこれが『光の加護』の効果」


 そこには足を怪我して動けなくなったヴァレッタ兵の姿が。

 ガーナピット兵の一人がその者に剣を振り下ろそうとした瞬間、ヴァレッタ兵をおおっていた光の膜から薄く伸びた光の刃に首を切断された。

 それを見ていた周りのガーナピット兵が、何が起こったか理解できず狼狽うろたえ、後ずさる。


「ガーナピットの兵達に、この魔法に対抗する術はなく退いていった。だけど発動してから十年以上経った今、この魔法の効力も失われつつあるわ」


「……残り時間は?」


「持ってあと三日ね」


 そういうだったのか。

 ガーナピットの王は、『光の加護』が消えるタイミングを見計らって攻めに来るつもりなのだ。


「でもヴァレッタは国土の三割を失った今も世界有数の大国なんですよね? 他国からの援軍も見込めるようですし、ガーナピットがまた卑怯な手で戦力を埋めてこない限り、こっちが負けることは無いんじゃないですか?」


「……あなたはオベイ君からどこまで聞かされているの?」


 俺はオベイから聞かされていたその時の話を、全てリリィに伝えた。


「ほとんど彼の言った通りね。でもおかしいと思わない? 戦力が十倍近く違う相手よ? 五割の兵士がその爆発に巻き込まれたところで、戦力差は全然埋まらないわ」

 

 確かにそうだ。

 あの時はオベイの重々しい雰囲気に気圧けおされて気づかなかったが、よくよく考えばおかしい、計算が合わない。


 つまり、ガーナピットは他にも所持していたのだ。

 圧倒的な戦力差を埋めるための切り札を。

 オベイは、ガーナピットの王が勝算もなしに突っ込むほど間抜けではないと言っていた。

 前回の様な搦手からめても警戒され、全く通じない可能性があるのにも関わらずだ。

 つまり。


「いるんですね……。圧倒的な戦力差をくつがえせる程の存在が」


「そういうことよ。『光の加護』が無くなってしまったら、もうアレを止められる手段は、現状、何もない」


 再び、壁にリリィの記憶が映る。

 そこには、血でよごれた長い金髪をたなびかせ、死体の山の上で高らかに笑う男がいた。


「将軍、シンラ・ゾルマート。今まで数々の国を潰し、ガーナピットでは神と崇める人もいるそうよ。十八年前の襲撃で、奴は一人で多くのヴァレッタ兵を鏖殺おうさつしたわ」


「……そいつはフィグナル将軍より強いですか?」


「少なく見積もっても百倍は強いわ」


「あー、それは……マジでまずいですね」


 俺は思わず頭を抱える。

 ソシャゲのインフレかよ。


「頭一つ抜けた魔法の才に加え、魔力量も規格外。そして根っからのサイコキラー。人を殺すために生まれてきた化け物よ」


 リリィの魔法で映し出された映像では、遠くでシンラが魔法を放っている姿が見える。


 風魔法を使えば辺り一帯はすべて吹き飛ばされ、炎魔法を使えば辺り一面が灰燼かいじんと化す。

 歩く自然災害の様な奴だった。

 どうすれば自然災害に勝てるんだ。


 俺が諦めかけていると、リリィが俺の後ろから優しく抱擁してきた。

 そして耳元で甘い声でささやく。


「もしコリン君がこの国を救ってくれたら……お店のエルフ総出そうでで大サービスしてあげるわよ」


 本来ならその場で燃える様にやる気を出すところななのだが、今はそれどころじゃない。

 俺は背中に全神経を集中させ、柔らかい二つの感触を……。

 あれ? 背中と背中がくっついているのだろうか?

 俺が思わず後ろを振り向くと、至近距離にリリィの顔があった。

 背中ではない……ということは。


「コリン君、今絶対失礼なこと考えたわよね?」


 リリィが抱きついた腕でそのままギリギリと首を絞めてくる。


「いや違います! リリィさんの色仕掛けが刺激的すぎて固まっていただけです!」


「誰の胸が硬いですって?!」


「言ってない言ってない! 誰か! 助けてえええ!」


「何やってるんだお前達」


 いつの間にか、そこには冷ややかな目線を向けてくるオベイが立っていた。


「早く飯食いに行くぞ」


 ナイスタイミングだオベイ!


「リリィさん、お腹も空きましたし早く行きましょう!」


「どうせ私はお腹の上がスカスカよ!」


 リリィはプンスカと怒りながら部屋を出て行った。

 どうしたものかと悩んでいると、オベイが安心しろと言わんばかりに俺の背中を軽く叩く。


「大丈夫だ、あいつは美味いもの食ったら嫌なことは忘れるタイプだからな」


 一五〇〇年も生きているのに、中身は割と子供の様だ。


          ◆


 食事と入浴を済ませた俺は、寝室のベッドに座りながら、頭を悩ませていた。

 シンラ相手にどうすれば対抗できるのだろうか。

 二十二世紀の地球の科学技術ですら、自然災害には手も足も出なかった。

 意思を持った天災みたいな相手にどうやって戦えばいいんだ。


 ……ここには色々な魔物の素材や鉱石があった筈、色々試してみるか。

 明日からもっと大変そうだ。













 そして、二日が経った。

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