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第8幕 武器を作ります

「おい、早く起きろ! 布団にしがみつくな!」


「ぜ、全身が痛い……。もう少しだけ寝かせてくれぇぇ……」


 エルフの店で豪遊した次の日。

 俺は案の定、筋肉痛と二日酔いに襲われ、ベットの上でうめいていた。


「全く、また人の金で豪遊しやがって……」


 オベイがやれやれと溜息を吐きながら、強引に俺と布団を引きがした。

 寝起きで体温が下がった俺の体に早朝の肌寒さが襲ってくる。


「寒い寒い! 分かった! 分かったから布団だけは返して!」


「分かったのなら布団は要らないだろ」


 オベイは慈悲じひ容赦ようしゃもなしに布団を遠くに投げ捨てると、今度は手を俺の首筋に当て。


「このまま駄々をこねるのなら、今から氷魔法を発動する」


「起きました」


 陸に打ち上げられた魚の様に跳ね起きた俺は、寝起きで冷め切った体を震わせながら、その場で縮こまる。


「ほら、さっさと顔洗って身なりを整えてこい。そんな寝癖でボサボサの状態でいると後悔するぞ」


「後悔? 何で?」


 俺が首を傾げていると突然、ドアがノックされた。


「お、割と早かったな。入っていいぞ」


「お邪魔しまーす」


 聞き覚えのある声だった。

 ドアが開き、特徴的な尖った耳が見える。


 俺は誰が来たのかに気づき、せめて寝癖だけでも治そうと洗面所にダッシュしたが、時既に遅く。


「あら、その様子だと今起きた様ね、コリン君」


 そこには、いつものバーテンダーの制服ではなく、ラフな服装に身を包んだリリィが立っていた。

 なぜこんなところにいるのかという疑問を抱きつつ、俺は急いで顔を洗いに行った。


「じゃあ今日はよろしく頼む」


「本当にいるだけでいいの?」


「あぁ、いるだけでいい。それだけで効果覿面(てきめん)だ」


 二人が何か話しているが、急いで顔を洗いに行った俺の耳には届かなかった。

 髪や顔をタオルで拭きながら、俺は恐る恐るリリィに質問する。


「あの、何でリリィさんがここに……」


「なんかオベイ君に、君が面白い事するから観に来ないかって言われてね」


 オベイグッジョブ!

 よし、良い所見せるぞ!

 などと息巻いていたのもつかの間、ふと、重大な問題に気づく。

 俺はオベイに近寄ると、リリィに聞こえない様に耳打ちをする。


「なあ、このままだと俺が異世界人だってリリィにバレないか?」


 焦る俺を見て、オベイはキョトンとした顔で。


「ん? あぁ、お前が異世界人って事ならもうとっくに話してるぞ」


「え、まじ?!」


 俺が驚いてリリィの方へ振り向くと、リリィは首を縦に振った。


「別に異世界人を見るのは初めてじゃないわ。ほとんど知られてないだけで異世界から来た人って結構いるのよ? 前の魔王を討ち取ったパーティの一人もそうだったわ」


 それもそうか。

 イシスも度々、人間を異世界に転生させているって言ってたしな。

 もしかしたら地球にも、異世界転生してきた人間はいたのかもしれない。


「でも、異世界から来たって事はあまり口外しない方がいいわ。未知の存在を恐れる権力者、異世界人を解剖かいぼうしたがるマッドサイエンティスト、異世界の知識の悪用を試みる闇組織とか、そういう奴らから狙われることになるし、他にもリスクがいっぱいよ」


「肝にめいじて墓まで持っていきます」


 まあそうなる可能性はあるなと思ってはいたのだが。

 エルフとお近づきになりた過ぎるが故に、いざとなったら異世界出身というステータスを利用してやろうかと考え始めていたので危なかった。


「そういえば、リリィさんが見た事ある異世界人って今どこにいるんですか?」


 同じ境遇の者として、是非一度会って話がしてみたい。

 同郷どうきょうではないかも知れないが、せめてイシスの愚痴で盛り上がりたい。


「もうこの世にはいないわよ? だって最後に見かけたの三〇〇年くらい前だし」


「……へ? どうやって見たんですか? タイムリープ?」


「エルフは長命種だぞ。知らなかったのか?」


 オベイに言われて俺はハッとする。

 そういえば北欧神話に出てくるエルフにもそんな設定あったな、完全に忘れてた。


「私はハイエルフだからね、他のエルフよりもさらに長命なのよ。こう見えても一五〇〇は超えてるんだから」


 誇らしげに胸を張るリリィ。

 なるほど、一五〇〇歳ということは普通の人間にとっては超熟女だ。

 だからオベイはリリィに気が……。

 などと考えていると、二人から同時に頭をはたかれた。


「痛い! 何で?!」


「「何か失礼なことを考えていた気がして」」


 こいつらエスパーか?

 もしかしたら思考を読み取れる魔法とかを使っているのかもしれない。


「どうせ張っても胸無いなとか思っていたんでしょう?」


 そんなことは無かった。


「いや全くそんなこと思っていませんけど。というか自分は貧乳派です、安心してください」


「あ、あらそう……ごめんなさい。勘違いした私が悪かったわ」


 真剣な眼差しで想いを伝えると、やや表情を引きらせながらリリィが距離を取った。

 何故だろう。


「とりあえず飯を食いに行くぞ。あと、もうここには戻らないから忘れ物するなよ?」


「泊まる宿、変えるのか?」


「違う違う。お前専用の施設しせつを用意したからな。だからここに泊まる必要はもうない」


「施設?!」


 さらっととんでもないこと言いやがったぞコイツ。


「衣食住はもちろん、必要になりそうな環境や設備は一通り完備しているはずだ」


 こいつ本当に何者だよ。

 

「移動して時間すら勿体ないからな」


「フフフ。オベイ君、随分コリン君に期待しているのね」


「こいつの持っている知識には無限の可能性があるからな。ガーナピットの兵どころか、この世に蔓延はびこる魔物すら殲滅せんめつできるかもしれない」

 

 オベイの発言を聞いたリリィが、期待の眼差しを向けてくる。

 ……めちゃくちゃハードル上がってるじゃないか。


 昨日戦った猪型の魔物。

 戦ってみた感想は、車だ。

 車並みの装甲と突進力。

 魔法で身体を強化をしていなければ、攻撃を避けることも装甲そうこうを貫くことも困難だっただろう。


 アレでも魔物の中では最弱レベルらしい。

 魔力有りと無しでは戦闘能力に天と地の差がある。

 正直銃程度の物を作ったところで、どうにかなるとは全く思えないのだが。


 とはいえ、ここまでされたら出来ることを精一杯やるしかないな。

 俺を助けてくれた、この世界でたった一人の親友の期待にこたえるために。


「任せろ!」


 一肌脱ぐとしますか。


    ◆


「これが銃か」


 両手で丁寧ていねいに持ちながら、銃を物珍しそうに見るオベイ。


「とりあえず貫通力重視の単発銃を作ってみた。これならあの猪にもかなり効くと思う」


 半自動作動方式の回転式拳銃。

 打った時の反動はかなりのものだが、これならあの硬い装甲も貫通できるだろう。


「早速戦闘訓練室で試してみるとしよう」


「何でもあるな、ここって」


 工作室に素材管理室、実験室に食堂、他にもたくさん。

 この施設の全体的な大きさをはっきり把握しているわけではないが、下手したらヴァレッタ闘技場くらいの大きさはありそうだ。

 どうやって用意したのか、はなはだ疑問である。


 などと思っていると、戦闘訓練室と書かれたドアが見えてくる。

 オベイがドアを開くと、そこにはテニスコートが余裕で四面入るほどの大きな空間が広がっていた。

 天井も、高校の体育館くらいの高さがある。


「ここには衝撃吸収魔法と自動修復魔法が常時張り巡らされている。ここなら銃でも爆弾でも魔法でも打ち放題だ。このレバーを押して、ここを引っ張ればいいんだな?」


「あ、あぁ……」


 余りの広さに唖然あぜんとしていると、ドンッという音が鳴り響き、遅れて薬莢やっきょうの落ちる音が響いた。


「ふむ。聞いた通り、かなりの反動だな」


「魔法を使わずに、あんなに高速で鉄の弾を飛ばせるなんて。本当にチキュウの武器って凄いのね」


 リリィが銃に対して目を輝かせている。

 だがオベイはあまり満足していなさそうな表情をしていた。


「うーむ、この程度なら、身体強化した兵士なら避けるのも難しく無いな。被弾してもほぼ無傷だろう」


「嘘だろ? マッハは出てるぞ?」


「試しに俺に打ってみろ」


 そう言い、オベイは俺に銃を渡してきたが、はい分かりましたと打つわけにもいかない。


「待て、俺は銃なんて打ったこと無いからどこに飛ぶかも分からないし、当たりどころが悪かったら普通に即死だぞ」


「大丈夫だ。当たっても虫刺され程度にすらならん」


 一応日本なら持っているだけで逮捕されるレベルで危険な代物なんだが……。

 まあそこまで言うなら大丈夫な気がしてきた。


 深呼吸をし、覚悟を決めて、引き金に引っ掛けた指に力を込める。

 次の瞬間、放たれた弾丸はオベイの身体に………被弾するはずだった。


 銃の反動で視界が揺れた一瞬の内に、オベイの姿が俺の視界から消える。


「ほらな」


 薬莢が地面に当たる音よりも早く、背後から声が聞こえた。

 驚いて振り向くと、そこには放たれたはずの弾丸を握りしめたオベイが立っていた。


「……冗談だろ? 高速回転している弾丸を素手で止めたのか?」


 ある程度は覚悟していたが、まさかここまでとは。

 これ本当に核とか作らないと勝てない気がしてきたんですけど。


「いや、これは本当にオベイ君がおかしいだけよ。普通の人はこんな事できないわ。避けるので精一杯よ」


 いや、避けれはするのかよ。


「なあ、オベイが戦っている姿とか全然見たこと無いんだけど、お前ってどれくらい強いんだ? リリィさんの反応を見るに、かなり強いんだろうけど」


 俺の質問にオベイは間髪かんぱつ入れずに。


「この国で一番強いな」


 澄ました顔でそう言った。


 即答かよ。

 どんだけ自信家なんだこいつ。


「それじゃあ俺はこれから用事があるから失礼する」


「え? あとは俺一人でやれっていうのか?」


「別に一人じゃ無いだろ。アシスタントとして二人ほど呼んでおいたし、リリィもいる」


「そうだよ、私を忘れないでよ」


 ……なん……だと?!


「リリィさんと二人っきり……、エルフと二人っきり……」


「いや、他にも人はいるからな?」


 オベイがなんか言っているが、気分が高揚した俺の耳には届かなかった。


 よおおおおおおし!

 リリィにいいところを見せるチャンスだ。

 俄然がぜんやる気が出てきた。

 今ならなんでも作れる気がする。


「任せろオベイ。この国は俺が救ってやる」


「な、こいつチョロいだろ」


「オベイ君が私を誘った理由がよく分かったよ」

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