いまはむかし――
むかし、昔。まだこの国の心臓が京の都にあった頃のこと。
雅やかな都の片隅に、憂き目を堪え忍ぶ一人の姫君がおりました。
中納言の父君とやんごとなきお家柄の母君をもつ姫君でしたが、父君は姫の物心もつかぬうちにお隠れになり、母君も間も無くして幼い姫君ひとりを残して髪を下ろして仏道に入られてしまったのです。
たった一人で俗世に取り残された姫君は、なんと心細く寄る辺ない思いをしたことでしょうか。
実際には姫君は父君の弟の家に引き取られ、それなりに大切にもてなされて寝食に困ることはなかったのですが、それでもやはり、たいそうお気の毒なことでございます。
それに上辺こそ恭しいもて扱いであれ、実のところ叔父君のお屋敷での生活は辛いものでした。
叔父君は姫君にまるで関心がなく、北の方に全てを任せていましたが、北の方は輝くように美しい姫君を内心で疎ましく思い、姫君を離れ屋に押しやった上で何かにつけて小さな意地悪をしてきます。その心を汲み取ってか側にお仕えする女房どもなども姫君を冷たくあしらいます。
一方では北の方の実の娘には世に希なる愛情が注がれるのを見て、姫君はなおさらに寂しい気持ちを思い出しては夜な夜な袖を濡らすのでした。
姫君の味方は乳母とその子だけ。されどその二人もまた、北の方の策略によって姫君から遠ざけられ、周囲の人々からは白い目で見られがちで、おいそれと姫君に近寄ることもできないのでした。
そんな不遇の姫君。しかれどいずれ、不幸は幸に、悲運は好運に変わるときが訪れるというもの。
彼のお人がいかにして至上の幸せを手に入れたのか、その顛末を今から語っていくことといたしましょう。
――これが、私が考えた物語の設定。