4. まさかの出逢い
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次は西岳麓。西岳麓に止まります。
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2両編成の電車、ぽつりぽつり程度の乗客。
7人掛けロングシートの端に座り、足下に置いたリュックを開く。
「でかっ」
中を覗けば、おばちゃんから貰った岳麓レタスがコンニチハ。丸々1個、リュックのキャパシティをずっしり占有している。
……狭苦しくてごめんな、でも僕の旅はまだまだ始まったばかりなんだ。家に帰るまで我慢していてくれよ。
いやー、渓澄線の旅を始めて早々、ハプニングというかサプライズというか。まさかの出逢いだった。
レタスころころどんぶりこ、巡り巡って貰っちゃったし。おばちゃんの話も意外と面白かったし。なによりあの、朝露に濡れた畑の土の匂い……新鮮だった。冒険しに来た感が一気に加速した。
……知らない人と喋るのも案外悪くないかも。
一期一会、ってヤツか。
「……さて」
リュックを閉じ、車輪が刻むローテンポなカタンコトンをBGMに車窓を眺める。
岳麓新田駅から西岳麓駅、ここまで来ると岳麓市街地の建物群も遠く小さくなる。開墾された畑と田んぼの中を、単線の渓澄線が真っ直ぐ進む。
ゆったり流れる岳麓川、田んぼの中にズドンと構える大きな民家。踏切待ちの軽トラ、畦道を散歩する柴犬とおじいちゃん。
畑を挟んで並行する県道、時々現れる押しボタン信号。コンビニのロゴ付きトラックが追いかけっこ。
電車に驚いて飛び立つスズメの群れ、そっぽを向く案山子。仕事を終えて一服中のおじいちゃん。
んー、ほどほどの田舎。
言うても県内、家からそう離れている訳でもないが……遠くまで長旅したような気分。悪くない。
キィィィィ……。
「……ん」
身体に感じる慣性力。甲高い音を上げるブレーキ。
そろそろ駅が近いようだ。
さて、次はどんな所なんだろう。
どんな出会いが待っているのかな。