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柚木 月菜の心情

家に帰ってきた私は頭を悩ませていた。なぜ悩んでいるのかって?それはもちろん緋月のことについてである。



なぜ緋月の態度が急に変わったのか…正直全く心当たりがない。気にならないと言えば嘘になるが私から聞くのはなんか癪に触るから聞きたくない。それに今の緋月はなんだか気持ち悪い。これなら言い争っていた時の緋月の方がマシだ。


「はぁ…どうしちゃったのよ緋月…」


私は誰もいない家で1人呟いた。緋月とは小さい時かはずっと一緒に育ってきた。だからこそお互いの言いたいことを直接言えていた。まぁそのせいで言い争いが頻発していたわけだが…だが今の緋月は何か…壁を感じるような気がする。別に緋月に本音でぶつかってきて欲しいなんて思っていない。うん、思ってない。本音でぶつかってきたら鬱陶しいだけだし。


「…はぁ」


でもどうしてかさっきからため息が止まらない。まぁ今日は疲れたのだろう。今夜は早く寝よう。そんなことを思いながら私はお風呂場に向かった。



-------------------------------------------------------

お風呂に入ってさっぱりした私は壁にかけてある電子時計を見た。


「あ、もうこんな時間…緋月の家に行かなきゃ…」


いつもはあいつの顔を見なきゃいけないのかと憂鬱になるのだが今日はなんだか…違う意味で憂鬱だった。その感情は自分でもよく分からない。だだ、なんだか嫌な気分だ。



歩いて5分、私は緋月の家の前に立っていた。そう、この家の近さが理由で私は小さい時に緋月と仲良くなった。それはもうずっと遊んでいた。お互いの家を行き来していた。たまに遅くまで家に居すぎてどちらかが泊まっていくなんてこともあったっけ…私は小さい時のことを思い出して自然と笑みがこぼれるのを自覚した。



あの頃は本当に楽しかったな…自分を偽ることなんてしなかったし常に本当の自分で居られた。だが今はこのザマだ。緋月とは喧嘩ばかりだし私自身も自分を偽っている。



そんなことを考えて立ち止まっていると緋月の家の玄関が開いた。そしてそこから緋月が顔を出した。


「ん?なんだ月菜。来てたのか」


やはりいつもと違う緋月だ。いつもの緋月は私の顔を見るなり嫌なものを見たかのような顔になる。だが今の緋月はケロッとしていて何も考えていなさそうだ。


「う、うん」


「来てたなら入ってれば良かったのに。ほら入ってろよ」


本当にどうしたと言うのだろうか?なぜ急にこれほどまでに対応が変わったのだろう。


「あ、あんたはなんで外に出ようとしてたのよ」


私は何故か緋月との会話を続けようとしていた。いつもなら話すのも嫌で早く会話を終わらせようとしていたくせに。でも、何故か今は緋月との会話を終わらせないようにしている自分がいた。


「俺か?俺は今から晩ご飯の買い物に行くんだよ」


「そ、そう」


まずい。会話が終わってしまった。何故か焦燥感がある。会話を続けなくてはならないという焦燥感が。なぜ自分がこんな感情を抱いているのかなんて分かるわけもなかった。


「月菜も一緒に行くか?」


私が次に繋げるための言葉を探している最中に緋月がそんなことを言ってきた。


「え?」


「あぁ、もちろん嫌なら家の中で居てくれても構わないが…」


「いく」


いつもならなんであんたなんかと、と言っていたはずだ。でも今日はそれじゃあダメだと思った。だから口から自然とそんな言葉が出た。ダメだ。緋月は絶対に嫌な顔をしている。と恐る恐る緋月の顔を見てみると…全然そんなこと無かった。緋月はさっきとなんら変わらない表情で私を見ていた。


「そうか。じゃあ行くか」


緋月はそう言うと歩き出した。私は緋月の後ろを無言でついて行った。そしてその沈黙は私に苦痛を与えてきた。前までは緋月と喋ることですら嫌だった。でも今は何故か会話がないと嫌だった。


「あ、あのさ…」


「なんだ?」


前を歩いている緋月は振り返らずに声だけを返してくる。


「今日の晩ご飯ってなに?」


もっといい話題は無かったのかと自分を問い詰めたい気分になった。


「今日はお前の好きなオムライスだ」


「え、覚えてたんだ…」


そう、私は小さい時からオムライスが好きだった。でもそんな話をしたのは小学生の中頃だったはずだ。そんな時の話を覚えてくれているのか…


「まぁな、一応は幼馴染な訳だしな」


「そっか…」


何故だろう。こんな会話がもっと続いて欲しいと感じるのは。何故だろ。続いて欲しいと感じているはずなのに()()()()では無いと感じるのは。


「…ねぇ、最近何かあったの?」


我慢できなくなった私は緋月にそう聞いていた。だがハッキリと聞くのは怖くて濁して聞いてしまった。


「なんだそれ。特に何もないぞ?」


「…そう」


やっぱりこんな聞き方じゃダメだった。すると緋月が足を止めた。


「ついたぞ」


そこは駅前のスーパーだった。


「じゃあ行くか」


私は心にモヤモヤとしたものを抱えながらも緋月と買い物をした。卵とケチャップ、鶏肉を入れ終えてレジに向かう。また無言の時間がやってきた。何か、何か話さないと。


「なぁ月菜」


不意に緋月から声がかけられた。


「な、なに?」


突然の事でびっくりして声が少し裏返ってしまった。


「なんか無理してないか?別に無理して話そうとしなくてもいいんだぞ?」


なんで…なんで私のことを分かってくれるの?私のことなんて嫌いなんじゃないの?居なくなって欲しいんじゃないの?


「べ、別に無理なんかしてないわよ」


「そうか?」


「そうよ」


「まぁ、無理してないんだったらいいんだけどな」


やめてよ、優しくしないでよ。そんな壁のある状態で優しくしないでよ。自分の言っていることがおかしいことだというのは自分でも分かっている。いつもの緋月は嫌いなのに今の緋月も違うなんて意味がわからない。でも、それでもこの緋月は違う。



もう自分の感情がよく分からない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 歩いて五分だと結構な距離なのでもっと短い時間でよいかも?
[良い点]  以前は話すのも嫌だった癖に主人公大人バージョンでは話を続けていないと不安て‥‥‥。  幼馴染視点からは相当自覚の遅いタイプかと思われますね。  気付くのが遅くなればなるほど取り返しがつか…
[気になる点] 今の主人公を「気持ち悪いから嫌」と感じてる内はどうしようもないでしょう。 確かに以前より心が離れてるでしょうけど、以前の方が異常なのだから。 [一言] 真面目な話、常に本音ぶつけ合って…
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