大人になった俺
「失礼します」
はぁ、月菜が来てしまった。俺の家に。何故かと言うと前も言ったが俺の家にご飯を食べに来ているのだ。
「あら月菜ちゃんいらっしゃい。私、今から晩ご飯作るための材料買ってくるから緋月と一緒に家に居てね」
まじかよ母さん。行かないでくれよ!
「あ、それなら私が行ってきましょうか?」
ナイスだ月菜!とっとっと行ってこい!
「そんなの悪いわ。家でゆっくりしてて」
「そうですか…ではお言葉に甘えて」
おい!お言葉に甘えるなよ!そんなことを考えていると母さんが買い物に出かけてしまった。
「…はぁ」
月菜は俺の顔を見るなりため息をついた。
「なんだ月菜。俺に何か言いたいことでもあるのか?」
不機嫌さを隠すことなく月菜にそう問いかける。
「別に?あんたが居て最悪なんて思ってないわよ」
「思ってないやつはそんなことわざわざ言わないんだよ」
「あらごめんなさい。思ってたわ」
こいつぅ…
「そうかよ。俺もお前が来て最悪だと思ってたから相思相愛だな」
俺は嫌味ったらしくそう言った。
「ちょっと、冗談でもそんなこと言わないでよ。悪寒が走るでしょ」
「そうだな。俺も自分で言ってて気分が悪くなった」
ヤバい。日頃のストレスが溜まりすぎてそろそろ爆発しそうだ。爆発したら月菜に何をしてしまうか分からない。抑えろ…
「はっ、洗面台にでも行ってきたら?あ、そんなことしたら自分の醜い顔を鏡で見てもっと気分が悪くなっちゃうわね」
「…」
抑えろ…抑えるんだ…
「あら?自覚があるから黙ってるの?」
抑え、ろ…
「まぁあんたなんてミジンコ以下の人間だからそんなことも考えられないわよね」
ブチッ!俺の体の中で何かがちぎれるような音がした。それは堪忍袋の緒なのか何かは分からない。だがその音が合図かのように俺は月菜を口汚く罵った…わけではなかった。どういう訳かとても清々しい気分になった。さっきまで言い争っていた自分が酷く子供に思えたのだ。だから俺は月菜に向かってこう言った。
「悪かった。お前が来て最悪なんて口に出すべきじゃ無かった」
俺は素直にそう謝った。
「は?な、なんなのよ急に…」
月菜は訳が分からないといった顔をしていた。
「今までも悪かった。お前を不快にさせるようなことばかり言ってしまって…」
「だ、だからなんなのよ!一体何を企んでるの?!」
まぁ突然人が変わったような性格になったら誰でも怪しむよな。
「いや、なんか今まで月菜に突っかかってた自分がめちゃくちゃ子供に思えてな」
「何よそれ…じゃああんたに突っかかってた私も子供だって言ってるの?」
あぁ、そういうふうにも捉えられるのか。
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだ。気分を悪くしたなら謝る。悪かった」
「…も、もういいわよ」
「そうか」
あぁ、どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのだろうか。どちらかが大人になればこんな言い争いなんて起きなかったのだ。だったら自分が大人の対応をすればいい。そうすれば今まで起きていた争いを無くすことができる。
「…本当に何かを企んでるわけじゃないの?今のあんた、正直に言って気持ち悪いわよ」
月菜がまだ困惑したような顔でそう言ってきた。
「本当に何も裏はねぇよ。安心しろ」
「…なんで言い返してこないのよ。お前の方が気持ち悪いぞって…前までのあんたならそう言い返してきたでしょ」
「なんだ?言い返されたいのか?」
「そういう訳じゃないけど…あぁもう!なんでもない!」
「そうか?」
やっぱりそうだ。前までの争いはどちらも子供だったから起きていたんだ。これからは平穏な日々を送れそうだ。
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