プロローグ
「ねぇ!あんた私のジュース飲んだでしょ?!」
「はぁ?知らねぇよ」
自分の家のソファーで寝転がっている俺にそう突っかかってきたのは幼馴染の柚木 月菜だった。
「そんな訳ないでしょ!だって私ちゃんと冷蔵庫に入れてたもん!」
「…あー、あのリンゴジュースか?」
確かこいつが来る十分前くらいに飲んだ気が…
「そうよ!」
「…」
「やっぱり飲んだんだ!」
「名前書いてない方が悪い」
「はぁ?普通ジュースに名前なんて書かないでしょ!」
まぁ普通はそうだろう。でも俺の家の冷蔵庫に入ってるジュースなんて母さんが買ってきたものかと思うだろ。
「そんなの知らねぇよ。書いてなかったから飲んだだけだ」
「じゃあ新しいの買ってきなさいよ!」
「なんで俺がお前のために買ってこなきゃいけねぇんだよ」
はぁ、とため息を着く。
「なに?なんでため息なんてついてるの?」
「いやいや、わがままな幼馴染がいると大変だなと思ってな」
「は?それはこっちのセリフなんだけど」
「俺のセリフだ」
「私のセリフよ」
「…」
「…」
うぜぇ…なんなんだこいつぅ…
「買ってきなさいよ」
「だから行かないって言ってるだろ?」
「もう!なんでそんなにあんたはウザイのよ!」
「それはこっちのセリフなんですけどぉ?」
わざとらしく語尾を伸ばす。
「あー!イライラする!」
月菜が顔を真っ赤にして怒っている。イライラするのは俺の方だ。小さい時は仲良かったんだけどな。
「なんでお前俺の家に来てんだよ」
「私だってお父さんが居たらこんなところ来てないわよ」
そう、月菜には父親が居ない。だから月菜の母さんは遅くまで働いている。その間月菜のご飯を作る人が居ないから俺の家に来て一緒にご飯を食べている。
「はぁ」
「だからなんなの?なんでため息ついてんの?」
目ざといなぁ。鬱陶しいなぁ。
「なんでもねぇよ」
「じゃあため息つくのやめてくんない?目障りだから」
「…はぁ」
「いい加減にしてよ!わかったわよ!帰ればいいんでしょ?!」
月菜はそう言って玄関から出ていってしまった。母さんは夜ご飯の買い物、父さんは仕事から帰ってきていなかったから家にはいなかった。
はぁ、いつからこうなったんだろうな。
小さい時は本当に仲が良かった。いつも一緒に遊んでいたし、どこに行くにも一緒だった。それがいつだったかな。些細なことで月菜と喧嘩したことがあった。たしか原因は俺が月菜のプリンを勝手に食べた時だったかな。その時にさっきみたいな会話になった。
その時は何とか仲直り出来たがそれ以降頻繁に喧嘩するようになった。今になってはあったら喧嘩する仲になってしまった。犬猿の仲と言うやつだ。
「もっと可愛い幼馴染がよかったな…」
誰もいなくなったリビングで一人呟いた。
いや、月菜は可愛い。サラサラで艶のある長髪の黒髪。出るところは出て締まるところは締まっているモデル顔負けのスタイル。切れ長のまつ毛に全てを見透かすように澄んでいる目。
シミやニキビひとつ無い真っ白な肌。
これだけ聞いてもとんでもない美少女だと分かるだろう。それに加えて成績優秀でスポーツ万能。おまけに人当たりもいい。俺以外だけにだが…
俺以外のやつに接しているみたいに俺に接してきたら多分好きになってたんだけどなぁ。まぁそんなこと言ったってあいつの性格は変わるわけない。
そう思って思考を辞めた俺は母さんが買い物から帰ってくるまで寝転がっていたソファーで目を瞑った。
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「はぁ…どうして私はいつもあんな言い方しか出来ないのよ…」
売り言葉に買い言葉。勢いよく緋月の家を飛び出した私は誰もいない自分の家のベッドで寝転がっていた。
「確かに私も悪かったけどあいつもあんなふうに言わなくてもよかったじゃない!」
思い出すだけでもイライラしてくる。なんなのよ!子供の時はもっと可愛げがあったのに!
最近は緋月と会う度に喧嘩している。どうしてだろう。確かに昔は仲が良かったはずなのに。
分からない。もうそれが私たちの日常になってしまったせいか答えは分からない。
「はぁ、なんなのよあいつ…」
私はさっきまでのだるそうにソファーに寝転がっていた緋月の姿を思い出していた。
「…ばか」
好評だったら続くかもしれません