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6話目:魔法少女への誘い

硫黄と肉の灼ける強い臭いが辺りに漂っている。

うつ伏せに倒れたリリの背の上には、燃えさかる柱が彼女を熱と重みで苛んでいた。さらに崩れた瓦礫が身体の至る所に突き刺さり、床に血溜まりが広がっていた。その血溜まりを戦闘員となっていた沓野輪から流れ出した銀の液が浮き出ていた。


(”願い”はあるかい?)



「……うっ、っ。……?」



 床に広がっていた銀の液体の一部がリリの裂けた背中にくっついていた。

霞む視界と濁る意識の中でリリは”誰か”に再度問いかけられる。それも耳で聞こえた言葉ではない。頭の中に直接流し込まれたその声は、リリには一切聞き覚えのない声であった。



(可哀想に。こんな傷ついて。背骨も折れて、酷い火傷も。あーあ、こんなに血が流れ出てる。もうすぐ君、死んじゃうね?)



「し、にたく、ない……」



 銀の液体の、”奏矢”の問いに蚊の鳴くような声でリリは答える。

問いかけた奏矢自身もまた、半ば混濁した意識の中で己がリリに問いかけたことに驚きを感じていた。溶け落ちて流れ出た銀の身体が流されるままになっているほど消耗し弱った奏矢だったが、不思議と自分が何をするべきか、()()()()()()()



(君の願いは”死にたくない”。本当に、ただそれだけ? 本当に? 聞こえないかい? 君のお友達の叫び声が。君の家が焼ける音は。君の園長先生の吐息が、ほら、聞こえないかい?)



「……」



(違うんじゃない? 君の”願い事”は、本当にそれだけで良いの? ねぇ、本当に? )



「……し、かえ……し」



(んん? 良く聞こえないな。もっとはっきり言わないと、ねぇ?)



「仕返し、したい……!」



 リリは今にも消え入りそうな視界と混濁した意識の中で”願う”。

混濁した意識の中でリリはふと『”願い事”を叶えるなんて魔法みたい』とぼんやりと考える。



(良いよ、そのお願いを叶えて上げる。その代わり……)


 

「……?」



(その代わり、お前の身体を、よこせ)



 その声がリリの頭の中に流れ込むと同時に、開いた背の傷に銀のスライムが一気に入り込む。

傷口から入り込んだ銀のスライムが全身に広がっていく。リリの皮膚の下が隆起して蠢き、灼けた皮膚を覆っていく。体内では真っ二つに折れた背骨の間に銀のスライムが入り込み、骨と骨が銀のスライムによって再結合される。さらには身体のあちこちに出来た切り傷や擦り傷にも身体の内側から傷口を覆うように銀のスライムがにじみ出てくる。



「冷、たい……」



 リリは身体の内部を走る冷たさと不愉快さをひしひしと感じていた。

だが一方で先ほどまで感じていた痛みと熱さが引いていく。



「あ……」



 とうとう耐えきれなくなった天井がリリに向かって崩れ落ちてくる。リリが居た場所が一気に黒煙に包まれるが、崩れ落ちた瓦礫を吹き飛ばして黒煙から立ち上がる影が1つ。

ふりふりのフリルのスカートにふわふわしたピンクの衣装を着たリリが、銀に染まった眼光で孤児院を出て行こうとする犬型怪人(ヘルハウ)を射すくめるのであった。

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