表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/53

1話目:棄てられたもの同士

 臭い、ヘドロの底。”ダストボックス”と呼ばれたゴミ溜の中で銀に光る液体が丸まっていた。

真っ暗な、小さな空間で奏矢だったものは身動き1つできず、生ゴミやメスや注射器、何かの死体などがごちゃごちゃと腐った水の中に沈んでいた。



(……お、れ)



 銀のスライムと化した奏矢。

自分の意志で動くことは出来ず、ゴミの間を漂うばかりであった。真っ暗なその空間に突如、光が差し込まれる。その光の元は天井部につけられたごみを捨てるためのダストシュートの蓋であった。そしてそこから真っ黒な人型、戦闘員(シャドウ)と呼ばれたものが降ってくる。



バシャンッ。



 汚水に水が大きく跳ねて、波紋を作る。そしてダストシュートの蓋が閉められて、差し込んでいた光が消え失せる。

再び真っ暗となったゴミための中、ぷかぷかと戦闘員(シャドウ)は汚水に浮かぶ。所々深い切り傷が身体に刻まれて、見るも無惨な状態であった。



(あ、れ……?)



 奏矢の銀の身体がゆっくりと水の中を動き、そして触手のように身体を伸ばす。

まるで明かりに引き寄せられる蛾のように、銀の触手は戦闘員(シャドウ)の身体へと触れる。その瞬間にまだ息があったのか、びくりと戦闘員(シャドウ)の身体が跳ねる。



『……か、えり、たい』



(……?)



 奏矢が戦闘員(シャドウ)に触れた箇所から、戦闘員(シャドウ)の考えが頭の中に流れ込んでくる。今にも死にそうな相手の『帰りたい』という気持ち、それが理解出来たときに相手へと自然に問いかける。



(帰りたい? どこに?)



『い……え。いえに、帰り、たい』



(願い事を叶えて欲しいか?)



 奏矢が考えてもいないことが、不思議と浮かび上がる。

それが当たり前のことのように”願い事を叶える”と引き替えに、相手に”要求”をする。



(願い事を叶えて、やる。だけど、その代わり)



『……あ、あ?』



(その代わり、お前の身体を、よこせ)



『……あ……ア』



(さあ、願え!)



 コクンと戦闘員(シャドウ)ゆっくりと肯定するように頷く。奏矢自身にも分からなかったが、動揺している心とは裏腹に言葉を紡ぐ口と身体が一気に動き出す。

奏矢の銀のスライムと化した身体が戦闘員(シャドウ)の傷口へと触れる。次の瞬間にはその傷口の中から戦闘員(シャドウ)の体内へと入り込む。皮膚の下で蠢く銀色のスライムが体内で暴れて、汚水が大きく跳ねる。時間にしたら数十秒後、水面は静かになっていた。そして静かなその水面で痛々しい切り傷が銀の膜に覆われてて”修復”された戦闘員(シャドウ)が、じっと己が落とされたダストシュートの入り口を見上げていた。



「……かえ、る。うちに、帰る」



 そう小さく呟く。

そして漆黒の背中から銀色の翼を生やすと、外へ出るために一気に羽ばたくのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=302501307&s
― 新着の感想 ―
[良い点] ホラー部分はさすがすぎる描写!いつも圧巻です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ