安全な場所へ
「オヤジさん…?」
抱きかかえているオヤジさんを見ながら声をかける。
「うぅ…。お、俺の…。」
痛みに苦しみながらも声を漏らしている。
生きてはいるようで一安心するが、次に出血多量の心配が出てくる。
「俺の…、クーちゃんは…。」
オヤジさん?クーちゃんとは誰ですか?
唐突に出てきた名前に困惑しつつも、自分の服の袖を引きちぎり簡易包帯を作る。
「その…、クーちゃんっていうのは…?」
簡易包帯をオヤジさんの刺された肩を止血するために腰のポーチから神薬草を取り出し、それと共に巻き付けながら問う。
神薬草とは、薬草の一種。この薬草1枚で高級ポーションが五つは作れるほど濃厚な治癒液が葉に詰まっているのだ。
「おま、えさん…、も乗っ…てた、大鳥、だよ…。」
「あ、ああ。クーちゃんっていうのか、あの大鳥…。よし、と。」
大鳥の名前だということが判明したところで、包帯を巻き終わる。
貫かれているため前面と背面とに神薬草を1枚ずつ貼り付けながら包帯を巻いたため、1日もすれば傷は完全にふさがるであろう。
「クーちゃんは…。」
ケーンッ!ケーーーンッ!
と鳴き声を上げながらドタドタと走り寄ってくる。
「近くに来ているぞ。」
クーちゃんが横になったオヤジさんを見ながら心配そうな鳴き声を上げつつ寄り添う。
オヤジさんがクーちゃんを優しく撫でながら答える。
「ぐ、う…。ケーちゃん、大丈夫さ…。このニイちゃんが、処置してくれた、よ…。」
そういいながらこちらを見る。
「ありがとうよ…。薬草も使ってもらってなァ…。」
「大操鳥業者の人にはお世話になっているし、これくらい当然さ。」
そう答えながら立ち上がる。
ガーゴイルから逃れて降り立ったこの森は、夜になるとヌシが出歩いて危険だと言われているイノシヌシの森だろう。日はまだ高いが、魔物がいないとは限らないので周辺の警戒を行う。
武器もない状態で負傷した人員と大鳥もつれてとなると、下級の魔物に群れで襲われたら無事では済まないかもしれない。
「ひとまず、安全な場所に行きたいが…。オヤジさん、この辺の地理には詳しいかい?」
「へへ…。何年大操鳥やってると思ってんだ…、この場所なら…。」
オヤジさんは体を起こし、ゆっくりと周りを見る。
木々の影と太陽の位置を確認すると
「あっちだな…。あっちの方向に、この森に学者だか魔術師だかが住んでる家が、あったはずだ…。」
と言って指をさしながら答える。
そのさされた方向を見て、その家に向かうことを決める。
「とりあえず、今はその家に厄介になろう。武器もなし、空も飛べないんじゃあ、危険だ。」
「そうだな…。クーちゃんは賢い子だが、さすがに操鳥なしじゃあ人様を乗せて飛ぶことはできねえ…。」
そう悔しそうにオヤジさんが言うと、大鳥がオヤジさんの体の下へ頭を潜り込ませる。
そして頭を持ち上げることで首元にオヤジさんを担ぐように持ち上げた。
「ほら、な。賢い子だろ?」
移動する上で負傷しているオヤジさんが自力で歩くよりも、大鳥に担がれていたほうが速いという判断だろう。
なるほど、確かにな。と肩をすくめて態度で返答する。
しっかりとオヤジさんが担がれていることを確認してから、その家がある方面へ歩き出す。
大鳥は歩いても歩幅が広いため、人と並んで歩く場合は大鳥はゆっくりとしたペースで歩いても十分に追いつける。そしてオヤジさんが豪語していただけあって、このクーちゃんは担いでいるオヤジさんに極力振動が伝わらないようにと慎重に歩いているようだ。
それを横目に確認しながら周囲への警戒は怠らない。
するとオヤジさんが声をかけてきた。
「それにしてもお前さん、魔術師だったのか?大鳥に振り落とされないように『掴める』つったのは魔術の類か?」
…ん?何を勘違いしているのだろう?俺は戦士なのだが…。
「俺が魔術師だって?オヤジさんには、俺が魔術を使ってたように見えたのかい?」
「ああん?あれが魔術じゃなかったらなんだってんだ?短剣や石槍を宙に浮かせてただろ。それにガーゴイルが3体も1人で倒しちまったじゃあねえかよぉ!」
「いやいや、そんな魔術は聞いたことも見たこともないよ。」
笑いながら答える。
そう、俺は魔術や魔法を扱うための魔力を持っていないのだ。
「俺にはそういった才能がなかったよ。」
「んん…?じゃあどうやって短剣や石槍を扱ったんでぃ?それに包帯も巻いてくれたよなあ?魔術じゃねえのかい?」
「そうだよ。職種的には戦士…、だったさ…。」
戦士だった。
そうだ。腕を失って武器を持てないのであればもう戦士とは呼べない。
もちろん、身に付けた技も使えなくなってしまった。
「ニイちゃん…。ヤなこと聞いちまったな…。」
「いやいいさ。それで腕をなくしちまったから王国に帰るところだったってことさ。」
「とんだ災難に会っちまったけどな。」
「こうして生きているなら儲けもんだろ?なにより、オヤジさんとクーちゃんが助かって何よりだよ。」
「へっへっ…。感謝してるぜ、ニイちゃん。もしニイちゃんじゃあなかったら、俺ぁ今頃死んじまってたかもしれないんだからなぁ…。」
オヤジさんがそういうと、大鳥もこちらを向きながらケケケと短く鳴く。主人に続けてお礼を言っているようだ。
そして神薬草が効いてきたのか、話す言葉に苦悶が混じることはなくなってきている。
さすがに腕を動かそうとすると痛むようだが、この調子ならば一晩眠れば動かせるほどには回復するだろう。
そうしてオヤジさんと会話しながら歩いていること1時間ほどだろうか。
オヤジさんが話していた家が見えてきた。
「ほら、あの家だ。結界が張ってあるとかどうとかで、あの家の敷地内に魔物は入ってこれないんだとよぉ。」
想像していたよりも大きな家だ。三角屋根の2階建てで、木製の柵が家の周りをぐるりと囲んでいる。おそらくその木製の柵が結界の範囲を定めているのだろう。
玄関扉へと続く小さな門をくぐると
ぐにゅん
と柔らかいものが体を通過する。結界を通るときにこういった感触があるので、これで安全な場所へと入れたということになる。
玄関へと近づき、ドアについている金具を使ってノックして声をかける。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいますかー?」
家の中からバタバタガシャンバタンと騒々しい音がする。
そうして少ししてからドアが開く。
「いたたた…。どちら様でしょうか?」
開いたドアから、頭の上に本でも落ちてきたのか本が乗っている状態の女性…少女?が顔を出す。
ブレイドは170㎝あるが、この女性はブレイドよりも頭一つ小さく150㎝ないくらいだろうか、そして顔立ちは幼い。
この少女が、学者か魔術師…?その弟子なの、か?