フリマサイトの婚約者の出品履歴がぜんぶ俺のプレゼントだった
待ち合わせのコーヒーショップに先についていた婚約者の左手には、エンゲージリングが光って……いなかった。
頭皮がチリチリする。ぜったいこれストレスでハゲる前兆だ。
「指輪してないんだ。気に入らなかった?」
「ううん、『大事すぎて使えない』からまだしまってあるの。失くすといけないし」
いつもの笑顔に、ため息が出た。
「──いつもそうやって、『大事すぎて使えない』って言って何あげてもほとんどつけてきてくれないよな」
どんなアクセサリーも、ほんの数回つけたところを見られたらいいほうだ。
「ところで昨日なぜかお前のトモダチって子がお前のフリマサイトのアカウント教えてくれてさ。出品履歴がぜんぶ俺のプレゼントだったんだけど、これどういうこと?」
彼女に向けたスマホの画面に並んだ画像の背景は、見覚えのある出窓のカーテン。
最初これ見たときの俺も、今のお前と同じくらい顔真っ白だったよ。
端に見切れてるフォトフレームには俺と一緒に撮った写真が収まってるはずだけど、それも信じていいのかどうか分からなくなる。俺が部屋にいない時は別の写真だったりしてな。ははは。
俺のこと大好きだって言ってた彼女にこんなふうに裏切られるなんて想像もしてなかった。
真っ白い顔の婚約者が、いきなりコーヒーショップの床で土下座した。
「捨てないでください!!」
周囲の客はドン引き。
やめろ、俺が女に土下座させる鬼畜みたいじゃないか。
被害者のはずなのに、周囲から向けられる視線にいたたまれなくなる。
「いや、お前が俺のプレゼント捨ててんじゃん」
「捨ててない!」
売るのはもっと悪いだろ。
こういう場面でぼろぼろ涙流すとか、女ってずるいよな。泣きたいのは俺の方だよ。
「ぜんぶ取ってあるよ! プレゼントの箱も包み紙もリボンも一つたりと捨ててない! 使えないけどぜったい捨てたりしないよ!!」
「じゃあこれはなんなんだよ。落札済のやつとかあるじゃん」
「それはぜんぶ私が買った方!!」
「わたしがかったほう?」
わけが分からず、おうむ返しに彼女の言葉をなぞる。
駄々をこねる子供のように、唸るような抑揚をつけて婚約者が泣き叫ぶ。
「もらった物は『大事すぎて使えない』から! 使うために自分で同じもの買ってたの! お金が足りなくてフリマに流したけど、これが売れなくても一月のボーナスで婚約指輪は買うからもうちょっと待ってて!!」
「はい」
勢いに負けてつい答えたけど、いや俺があげたのつけてくれよ。