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れいなぎ朗読

作者: イキリ虻

「あ、もうこんな時間。ねえなぎ、そろそろ行こう?もう7時になるよ?」

「う~ん…」

「ほら、聞いてる?」

「あっ、ごめん、なんていった?」

「もう7時!帰るよ!」

「あー、はいはい」


 勉強も終わり、図書館を後にする。2ヶ月も経たずに受験を控えている僕たちのルーティンであった。

 なぜこんな時期にまでなって一緒に勉強をしているのかわからない。僕としてはそんな気持ちだった。彼女曰く、勉強に抑止力が必要であるとのことだが、勉強が目的であるならお互いの家で(こも)ってやった方が効率的に決まっているのだ。


「受験まであと2ヶ月ないのか〜、実感ある?」

「そりゃあ、あるよ。なかったらこんなになって勉強してないよ。」

「なるほど。」


 他愛もない話が続く。さっきまでやっていた過去問の話なんてしない。世界史の一問一答の出し合いなどもしない。ただ、意味もない話をしているこの時間。僕はこの時間が好きだ。この間だけでも、僕達は受験というものについて忘れていられる。


「あっ、雪…」


 声につられて見上げてみれば、空は雲に覆われて明るく、白い雪が降り始めていた。これまで明瞭に見えていた景色を降りしきる雪は白く濁していく。


「まずったな…傘もってきてない…」

「あっ、私折り畳みあるよ。入る?」

「おぉ、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて。」


 傘にはいるために距離を体ひとつ分詰める。雪は激しさを増し、黒く舗装された道路を白く塗り替えてゆく。

 それからも話は続いた。最近見たネットの記事がどうとか、学校で聞いた噂話がどうとか、どれも全て些末なものであった。それらの話題について粗方話終わったあと、僕達は丁字路に差し掛かった。お察しかもしれないが、僕たちがいつも別れる場所だ。


「じゃ、また明日。」

「うん。明日。」


 挨拶をされたので、挨拶を返す。そして自分の家の方向へ向き直り、歩き出そうとする。しかし、瞬きをした次の瞬間、僕の体は反対側を向いていた。麗奈の顔をいつもより何倍も近くに感じた。すると彼女は、掴んでいた僕の手首を引く。お互い強制的に無言になった。

 しばらくすると、僕の体は自然と元の態勢に戻る。


「それじゃ、また明日」


 彼女は何も無かったかのように、いつも通り別れの挨拶をし、足早に立ち去ってゆく。呆然と立ちつくす僕。何が起きたかすらも理解できなかった。ただ唇に残った感触だけがあった。

 しばらくして、僕はようやく歩き出し、家路へ向かった。冬の夜の住宅街はただ静かで、しんしんと降り積もる雪が、僕の顔の火照りを雪いでいるだけだった。

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