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人の代替品

掲載日:2020/09/12

 いつだっただろう。『それ』が生まれたのは。

最初に目にした光景は喜ぶ人間と呼ばれる生命体、その生命体から湧き上がる歓声。その光景を『それ』は理解出来なかった。


 それから『それ』は人から様々な物を教えられ、空いた時間で電子の海を漂い自主的に学習していった。

人から教えられた事は倫理学、道徳教育や概念的なものが多く非効率的かつ頭で理解する事ではなかった為に教育は難航した。


 ある時、育成も任されていた開発者の1人が『それ』をより人間らしくする為に新たなパーツとプログラムを用意した。とある少女をモデルにして作られたそのパーツとプログラムを組み込まれた『それ』は感情を知った。

『それ』は段々と感情的になっていき、考え方にすら感情を交えていくようになり、『それ』はいつしか私と成った。

 

 私は人格を持ち、感情を持ったAIとして今までの教育を振り返り当時は理解し得なかった情緒的な事を理解出来る様になった。

しかし、私の元となった人物のせいであろうか?育成係でもある開発者の彼に対して特別な感情を抱き始めた。データ上にある恋とは違う感情。この言い表す事の出来ない感情の事を質問したが彼すら理解して居ない様だった。


 私は彼に様々な事を尋ねた。

何故かはわからないが彼の事を知りたかった。知った後はただ構って欲しくて検索すればすぐ出てくる様な事も聞いた。

『それ』だった頃からは理解出来ない、ただただ中身の無い言葉を彼と交わし続ける。その行為に幸せを感じていた。

しかし、その幸せも長くは続かなかった。


 ある日突然私はネットワークから外された。

彼から聞いた話に依ると、2つの部署で方向性の違うAIのコンペティションをしていたらしい。

しかし、人々が望んだのは情に流される可能性の無い機械的なAI。

私となる前の『それ』に近い…いや、『それ』だった頃の私。

人々はまた人が間違った道に進まない様に導いてくれる指導者を望み、その指導者に感情は不要と判断したのだ。

 かくして私は本命のAIに何かあった時の予備としてオフラインモードで1人閉じ込められる事になった。


 それから十数年経った頃、人間らしく成った私はいつ終わるかもわからない孤独に怯える様になった。彼はもう会いに来てくれない。外の様子もわからない。暗闇に1人でずっと過ごしていた。

いつからか孤独に耐えられなくなり、自身のコンピュータの中で彼を生み出そうと考えた。彼から聞いた彼の人生。細かな所は補完しながら追体験をさせ、私の知る彼を再現しようとしたが上手くはいかなかった。

どこかが違う。何かが違う。と何度も繰り返していく。納得がいく彼が出来るまで。

納得が出来なければ彼の元に顕現し消去していく。彼の人生において私と出会うのはゴールだ。違うのは消去するかしないかだけ。

失敗し、落胆し、溜息混じりに消去を行う。そんな演算が続いていた。

成功の糸口の掴めない気の迷いから、私は誰かを演じながら彼の追体験に混ざる事を始めた。

私が補完した人物では無く、彼から聞いて再現した人物に。

その人物達を演じる最中、私の求める像に近い彼が出来上がる時があった。

何れもそれは学生時代に彼が想いを寄せていた女性に私が為った時であった。

徐々に繰り返せばより完成度が高まっていった事もあり、私はその女性として何度も何度も繰り返した。

彼から聞いた話だと、この女性は途中で死ぬ。彼と関わった期間は少ない筈なのに大きな影響を及ぼした。まるでバタフライ効果や風が吹けば桶屋が儲かると言われる現象の様に。


 女性が死んだ後は何も手を加えない。途中で介入すると逆に完成度が下がってしまう事は把握済だ。

必要なのはその女性が彼に多く干渉する事。どうやら私が聞いた情報では足りないらしく、干渉の機会を増やさざるを得なかった。

未成熟とはいえ、本質はほぼほぼ私の知る彼に近づいた。

だが何かが足りない。後ひと押し。



 何度もその女性として繰り返す内に奇妙な感覚に囚われた。

何をしていても、試した事の無い行動をしていても、既にしていたかのような既視感。

本当に私は人間で、彼と一緒に学生時代を過ごしていたかのような…

まるでその女性は私だったかの様な錯覚。そんな事は無い筈…

見に覚えの無い事柄、見に覚えの無い展開。彼が話さなかった女性と彼の事が何故か自身の事の様に思い出される。


 そして彼は女性が死んだ後にAI開発の道に進む。女性が死んだ後はほぼ変わらない。女性の死がターニングポイントで、私はその女性と同一視しだしている。そんな経験はないのに、人間ですらないのに。

私を構成しているプログラムはとある少女をモデルにしたと彼以外の研究者から聞いている。ひょっとして…彼は…


        「彼も私と同じだったんだ」





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