プロローグ 少年と男の子
マリー・アルエットは市立病院の看護師である、マリーは昼前になると患者専用の食事を受け取り担当患者のもとへ食事を持っていく、病室までの廊下を汁物がこぼれないように慎重に足を進めた。
喧騒が聞こえる。
テレビを大きな音で流し、二人の歓声が部屋の前まできこえている、ちょうどニュースを見ているようだった、ニュースにはヒーローの戦闘場面がながれている。
病室にマリーが入っても二人の男の子は気づいた様子はなくテレビに夢中だ。
「ここは病院ですよ、静かにしてください」
マリーはテレビのリモコンをとりテレビの電源を切り責めるように二人の男の子に言った。
「今良いところだったのに!」
一人の男の子が座っていたテレビの前においてある丸いイスから立ち上がり文句を口にする。
活発な男の子だ、赤色のタンクトップのシャツと短パンを着ている、髪色は綺麗な金髪で短くきったその髪が少し攻撃的だ、赤色の目がこちらを睨んでいる。
この男の子は先月退院した子で、体を強くケガしていた。全治3か月のケガを驚くほどの早さで治し、わずか1か月で完治したビックリ人間である、笑顔が明るく太陽みたいな子。
名をアラン·ラッセル
「静かにしなさい」
マリーはピシャリと少し強めに言った。
手に持っている患者用の食事をベッドの上に設置されている机に置いた。食事を持っているのに無理にリモコンを取ったためか汁物が少しこぼれていた。
ベッドから上半身を起き上がらせているもう一人の少年がこちらをみて微笑んでいる。
「ありがとう、マリーさん」
透き通った声がマリーに向けられた、白色に染まった長く整った髪と色白の透明さを感じさせる肌、病室という白の空間が少年の存在を引き立てどことなく神聖さを感じてしまう。
名をラウス·クロークという。
幼少の頃から難病により入院しておりその頃からマリーの担当患者で慣れたもののはずだが年々増す神々しさにマリーは一向に慣れることはなかった。
ぼうっとしているマリーから立ち上がっていた男の子がリモコンを奪い取りテレビの電源をつける。
「あっ、コラッ!」
マリーは我に帰りアランを叱りリモコンを取り上げようとする、男の子はリモコンを抱え、渡さないようにして言った。
「今すごい良いところなんだ!」
テレビではヒーローが怪物と戦っている、もう終わる頃だろう、しかしマリーは躍起になってリモコンを取り上げようとする。
「僕も見たいんだ、もうすぐ終わるから、音量も小さくするから、あとちょっとだけ見させて、お願い、、マリーさん」
ラウスは声をあげた、マリーはギョッとした、それもそのはずラウスが「お願い」などというのをマリーは今の今まできいたことがなかったからだ。
それから少しの間マリーは固まったままだった。ヒーローは怪物を倒しニュースキャスターが中継を終わらせる、マリーは我を取り戻した。
「な!、カッコよかっただろ!」
アランはラウスのベッドの上に勢いよく座り自慢げに話しかけている。
「そうだね、アラン」
ラウスは満足そうに相槌をうった。アランは落ち着きがなく足をブラブラさせ興奮気味に言った。
「ヒーローは何度でも立ち上がるんだぜ、世界の平和の為に!」
アランとラウスは先ほどのヒーロー物の熱がまだ冷めないのか声を上げて話し合っている、といってもアランが一方的に喋り、ラウスは相槌をうつだけであったが二人は楽しそうに話している。
マリーは二人が話しているのを見て、静かにするように、ただ今度は優しく言ってその場を去った。
二人は空が赤くなるまで話し合った、少し疲れたのか話す声は小さくなっていたが話しはまだまだ続いている。
「俺はヒーローになって悪から世界を守るんだ!」
アランは言った。
「僕もヒーローに、、、」
ラウスは続けるように言おうとしたが自分の体を一瞥して言葉をつむいだ。華奢な体だ。
「大丈夫、お前もなれるよ、二人でなろうぜ!」
アランはラウスの背中を叩いて励ました、それから二人は話を続けようとしたがうまく続かない、アランは時計を見てベッドから立ち上がった。
「そろそろ帰らなきゃ!またな!」
風のように帰っていった、廊下で走るアランを叱るマリーの声が聞こえる。
「僕はヒーローに、、、」
ベッドの上にある患者用の食事はもう冷めきっていた。