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印刷室

俺は動揺を抑えて太田に言った。


「たまたまだろ。たまたまそばにおんなじような服装した人がいただけだろ?

俺彼女なんかいないよ」


「そうなのかな?」と太田は首を傾げた。


「それに俺は太田のこと恨んでもいないし、みんなに許されて一人でいるわけじゃないよ。

ってか俺一人でいるように見えるんだ?

まあ確かに大勢で騒ぐのは好きじゃないけど。


俺、それなりに技術を持って人と付き合ってる。

誘いを断るときはうんと慎重にしてるし、相手を不快にしないように多少の嘘もつく。

それでも集まるメンバーによっては気取ってるとか、ノリが悪いとか言われることあるよ。

でもここのサッカー部は暑っ苦しい奴が少ないから楽。


大田もここでは上手くやってじゃん。

もう前のことは忘れて気楽にやんなよ」


太田はふふっと笑って「そうだな」と言った。




大田と別れて、俺にはやっぱりまだククさんが憑いてたんだなと考えながら自転車を走らせる。


やつには昨日ククさんの姿が見えたに違いない。

きっと霊感が強いんだ、大田。


ククさんがまだ付いてるとハッキリわかった時の、怖いような嬉しいような複雑な気持ち。


自分にとってククさんってどんな存在なんだろう。

少し嬉しく感じたのは魅入られてる証拠なのかな…


次の新月の夜までに、自分の気持ちの整理もつけなきゃ。

強い気持ちでククさんと対峙しなければ。




実はここのとこ俺と佳祐の関係が変わってきている。

少し、ほんの少し距離ができた。

そのわけは最近佳祐がクラスの女子に囲まれ始めたからだ。


どこから話が漏れたのか、まあ自分で話したんだろうけど、転んだ和子さんを助けて、付き合って、振られたことがやつのクラスで話題になった。


異変が起きたのはその後だ。


かわいそうに佳祐デブだけどいいやつなのにね、まあ男としては見れないけど、と言いつつも昼休み、女子が佳祐の相手をするようになった。


なんだかんだ言っても、一瞬でも佳祐と付き合おうとした女子がいたことがやつの評価を上げたんじゃないかな?


かわいくない女は女じゃないとか言ってたのに、ふつーの女子に囲まれて、結構ご機嫌だ。

ほんの少し顎の下の肉が減ってきてるようにも見える。


やつめ。

ダイエットをしてるな…


そんなわけで最近佳祐は昼休みあんまり俺のクラスに遊びに来なくなった。

なんだか寂しいと言えば寂しい。

が、まあいいや。


外野がいないほうが貧乏神退治に集中できる。

…と思ったんだけど俺を煩わす佳祐絡みの出来事が起こった。


俺は印刷室で偶然であった和子さんに、突然告白されたのだ。


告白と言っても「好きです」とか「付き合って下さい」とかのたぐいではない。


それは佳祐と付き合うのをやめた真相の告白だった。




サッカー部がボランティアでマンツーマンで行う幼稚園生対象のサッカー教室の募集のプリントを印刷してきてくれと部長の斉木さんに頼まれて俺は印刷室にいった。


ドアを開けると、コピー機を使ってる女子がいた。

図書委員のお知らせを刷りに来ていた和子さんだった。


「あ…ども」と思わず口ごもる。


和子さんもあ、と小さく声を出してから「すぐに終わるから」と言った。


ほんとにすぐに和子さんのプリントは終わった。


刷り上がったものをトントンとまとめて部屋を出ていこうとした和子さんはパッと振り返り「あの…林くんは佳祐くんの親友だよね」と言った。


なんか改めて他人様に親友と言われるとひどく恥ずかしい感じがする。

親友という言葉にはひどく押し付けがましく暑苦しい響きがある。


「あ…親友かどうかは…仲はいいですけど」


和子さんには人を敬語にさせる雰囲気がある。


「わ、私佳祐くんに悪いことしちゃって」


知ってます知ってますとは言えないから「はあ」と受け流す。


「わ、私嘘ついちゃって」


ん?

嘘?


なんのことだ。


そこで和子さんはわっと泣き出した。


えっ、なに?

何が起きた?


「嘘なの、幼なじみに告白されたって」


「私、佳祐くんがこの学年の有名人だって知らなかったの。

ただ陽気な優しい人としか思わなくって。


だから…

クラスの女の子たちが、よくあのお調子者のデブと付き合えるねってヒソヒソ話しているのを聞いちゃったら…

そんな風に言われたら急に付き合うの嫌になっちゃって。


それで幼馴染に告白されたなんて嘘ついて付き合いを白紙にしてもらったんだけど、後から考えたら馬鹿なことしたなって思って。

転んだ私の脇を何人か自転車漕いで急いで通り過ぎて行くなか佳祐くんだけが止まって助けてくれたのに。


ほんとにいい人だなと思って、放課後付き合ってって言われた時は嬉しかったのに。

告白されて男の子と付き合うなんて華やかな機会は二度とないかもしれないのに私ったら世間体を気にして…」


ああ、なるほどそういうことだったのか。


「あの、和子さんはそれでどうしたいんですか。

佳祐に謝りたいんですか?

よりを戻したいんですか」


「あ…そういうわけじゃないんだけど。

ただ誰かに打ち明けたくって…」


ふーん。


「あの…

この話佳祐にしてもいいんですか?

それとも黙ってたほうがいいですか?」


少し冷たい言い方になる。


「どっちでも。林くんに任せる」


はあ?


ここで印刷室に人がはいってきた。


「じゃあ」と言って和子さんは泣き顔を入ってきた女子に見られないよう、そそくさと部屋を出ていった。




おいっ!なんと判断の難しい選択を俺に押し付けてくれるんだよ!!

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