ペアルック
次の日の昼休み佳祐はうちのクラスに遊びに来なかった。
別に今までだって毎日来ていたわけじゃないけど…
自分のクラスのやつとグランドに出たりすることもあったけど…
気になって隣のクラスを覗きにいくと佳祐は机に突っ伏して寝ていた。
「佳祐」と声をかけたらふっと顔を上げた。
「おお〜珍しい。お前が来るなんて」
「だって気になるじゃん」
和子さんとどうなった?とは聞きにくい。
俺は佳祐が口を開くのを待った。
佳祐は「んー、俺は秀人の白い影の話も気になるよ」と言った。
あ、ちょっと佳祐の気持ちが俺の貧乏神に戻ってきた。
「えっと…
和子さんとの話は白紙になった。
振られたんじゃなくて、白紙な」
そう言って佳祐は力なくへへと笑った。
らしくない、こんな佳祐。
「おっと、慰めたりするなよ?秀人。
別に落ち込んでいない。
冷静になってみれば和子さん全然俺のタイプじゃないし。
俺はやっぱりきゃおりん一筋で行く。
あ〜握手した時のきゃおりんの手の温かさが甦ってきた〜」
そう言って佳祐は自分の右手首を左手で握る。
「まあ、佳祐が元気そうでよかった。
それにお前が色ボケしてた一週間は俺もなんだか寂しかったよ」とふざけて佳祐の首根っこにかじりつく。
「ひいっ、らしくない」と言って佳祐はおえ〜と吐くふりをした。
まわりの女子数名がそれに気づいたらしく、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
その日の部活終わり、俺は同じ一年の大田に「帰り満月屋よっていかない?」と声をかけられた。
満月屋は帰り道、俺と大田が別れる交差点にあるたこ焼き屋だ。
学校を出てすぐの駄菓子屋にみんなでワイワイ寄ることもあるけど、大田は割と少人数で行動することを好む。
俺もだけど。
大田とは同じ中学だったけど、彼は中学の時はサッカー部に入っていなかった。
大田は地元のプロリーグの下部組織に所属していた。
だから入学したばかりのときはこの高校のサッカー部にも入っていなかった。
けれど4月の終わり頃なんかいざこざがあったとかでチームを辞めてこの高校のサッカー部に入った。
うちの高校のサッカー部員は少ない。
二年生九名、一年生八名。
三年はいない。
新入部員が入るとすく引退する。
進学校でもあるし、サッカー部弱いから引退が早い。
本気でサッカーをやりたいやつはこの学校に入らない。
野球部は強いし何回か甲子園にも出場しているので三年は夏の選手権まで在席する。
部活によって引退の時期はまちまちだ。
大田が入部してきたばかりの頃はまだ杉山監督だった。
杉山さんは飛び抜けて上手い大田ではなく俺を総体県大会の試合に出してくれた。
一回戦も突破できなかったけど。
けれど杉山さんの三年前の暴力事件が発覚して問題になり監督が加納さんに変わってからは、俺はスタメン外されて代わりに大田が入った。
大田が入ってから何回か練習試合があったけど一度もうちは勝ってない。
一人うまいやつが入ってもうちのチームにとっては焼石に水。
むしろ俺がディフェンスしていた頃より多い点差で負けている。
だから何って話じゃないけど…
満月屋でたこ焼きを買って表に置いてある椅子で食ってる時「俺は秀人が羨ましいなぁ」と突然大田が言った。
は?
「何が?」
「いや、お前は許されてるじゃん」
許されてる?
「何の話?」
「秀人はさ、一人でいることをみんなに認められてるじゃん。
それは仲間外れじゃなくて、みんなに許されて。
そんな奴めったにいないよ。
俺も集団で行動するの苦手だから、やんわり断っていたら誘われなくなって、仲間として認められなくなった。
ユースチームで癖のあるやつとちょっと揉めてさ。
そしたら全員そいつの側についた。コーチまで。
みんなそいつのこと嫌って影では散々悪口言ってたんだけど…
嫌われてはいたけれど、みんなにとってはやつは仲間だったんだな。
俺は仲間じゃなかったけど。
結局俺、その場にいられなくなった。
ハハ、ごめんな俺が来なければ、お前H校不動のディフェンスになれただたろうに」
不動のディフェンスって、H校のじゃ。
…スタメン外れたことでなにか恨みめいた雰囲気あったんだろうか、俺。
それを感じてこいつこんな話を?
「羨ましいのはそれだけじゃないけどね。
見たぞ、昨日。綺麗なお姉さんとペアルックでコンビニに入って行くとこ。
みんなには内緒にしてるけどちゃんと年上の彼女もいるんだ?」
あ…
あ!
やっぱり祓うのに成功していない。
ククさんはまだ俺に憑いている!!