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アイドル

そういえば俺がきゃおりんのファンになったことに最初佳祐は首をかしげていたっけ。




「きゃおりん美形だけどちょっと色物っぽいいだろ?

俺はあの感じが好きだけど、秀人の好みじゃないなと思ってた。

まさかこんなにどハマりするとはね〜」


「何言ってんだよ。

こんだけ何回もDVD見せられりゃ刷り込みで好きになっちゃうよ」


「いや、秀人も人の子かと思って安心するよ。

あ、もともとお前は人の子かぁ〜

自分のパソコンの履歴汚したくないってわざわざ俺のパソコンでエロ画像見に来るもんな〜」


「うるせぇ、バーカ!」


佳祐とそんな会話をしたことを思い出した。

ついでに佳祐、和子さんとどうなったかなと少し気になった。




「はぁ〜」


思わず大きなため息が出る。


そんな俺を見てひとみさんははははと同情を込めた笑い方をした。


「それにしてもこの前、貧乏神はなんで秀人くんと同じ服着てんだろう?」


少しギクッとする。

裸で現れたことはひとみさんにも話していない。


「あの…貧乏で服持ってないらしいです。

それで俺の服を借りて着てるって」


「あはは〜そりゃまた貧乏だね」


「今日も、同じ服着ていますか?」


「うーん。

実は昨日飲み過ぎて何も見えない、今日は。

なんか鈍っちゃってて」


「あの、ひとみさんの携帯の番号って教えてもらえませんか?」


「悪いねえ、この手の話しで私生活が煩わされるの嫌なのよ。

きりがないから。

秀人くんが一緒にお酒を飲める年頃になったら教えてあげるよ、携帯番号。

あと薬ももう一回分あげるね。


これで失敗したら諦めて。

貧乏神が言うように今まで仲良くやってきたんだろうからこれからも仲良くやって行くってのもありかもよ?

縁遠くなるかもしれないけど」


「そんなぁっ!」


「いや、もしかしたら案外もう離れているかもよ?

だって一応名前を逆さに読んだわけだし…」


ところで、今日佳祐は?というひとみさんの質問に俺は「突然のロマンチックな出会いがあって瓢箪から駒で彼女が出来たんだけど、速攻振られそうになってテンパって彼女の許に駆けつけてます」と答えた。




ひとみさんの家から帰ってきてからすぐに自分の部屋のポスターを壁から外す。


姉ちゃんにこんなの貼るなんて秀人らしくないと笑われたきゃおりんのポスター。

机の前の壁とベッドの横の壁に貼ってあったのを。


そして学習机のビニールシートの間に挟んであった生写真も取り除く。


なんとなく、怖くなったからだ。

ククさんと似ているきゃおりんが。

いや、違うな。

ククさんに似ているきゃおりんを好きになった自分のことがだ。

自分でも気が付かないうちにククさんに魅入られていたような気がする。


俺はククさんの姿をもう一度見たいという思いより早く祓いたいという気持ちのほうが強くなった。


何か、何か方法はないだろうか。

ククさんの名前を逆さに呼ぶ。


ひとみさんは名前を逆さに呼べば悪い物は上手にはがれると言っていた。

名前の漢字を探り出しそれを逆さに呼べばどうかなと提案したら貧乏神は文字を持たないと言った。

だから退治の方法を紙に書いて渡したらしい。

貧乏神字が読めないから。


説得…

ひとみさんの言うとおりお願いするしかないのか?

自分から離れてくれるように。


待てよ…

気休めかもしれないけどひとみさんは案外もう離れているかもよと言ったよな。


ひとみさんも今日はククさんの姿を見ていない…


そうだよ、一応逆さに名前を呼んだわけだし。

時間差で退治できた可能性もなくはない。


次の新月の夜、あの薬を入れて入浴するまでははっきりしたことはわからないのか…?




新月の日まで待てない気がした。


俺はいるのかいないのかわからないククさんに語りかける。


「ククさんどうか自分から離れて下さい。


俺はあの時ばあちゃんとサッカー見に行きたかった。

部活でも試合に出たい。


どうして、今までの努力を認めて試合に出してくれた杉山監督の後任に、お前は性格自体がサッカーに向いていないって言い放つ加納さんがなるんだ!


クラス役員を決めるときのあみだくじで選ばれたりも、もうしたくない!

なんで毎回席替えの度に前の席が体の大きいやつばかりになるんだ?!

遠出をするとき、なぜいつも雨なんだっ!」


だんだん声が大きくなって最後の方は叫んでいた。


なにか一つ一つは大したことはない誰にでもありそうなことだ。

けど俺はそういうことが多すぎる。


小さなアンラッキーの積み重ねは地味に人の精神を蝕む。

落ち着いている、思慮深い。そうじゃない。


気力がないんだ。

大声で笑えないんだ。


楽しい、嬉しいと思った次の瞬間いつもがっかりすることが起こるから。


夏休み前、俺に告白してくれた娘は可愛かった。

ククさんやきゃおりんみたいな美人じゃないけど、ふつーの女子高校生として可愛かった。


けど告白を受け入れられるわけないじゃないか。

もし、もし彼女を受け入れていたら佳祐みたいに…


今日の佳祐みたいにがっかりしなければならない事が起こっていた。


絶対!




「秀人、あんたなに叫んでるの」


ガチャっとドアが開いて母さんが部屋にはいってきた。


「ねぇ、エネルギーが有り余ってるならコンビニ行ってマヨネーズ買ってきてくれない?

ポテトサラダ作ってるんだけど、ちょっと足りなくなっちゃったのよ」


「いいよ」


俺は叫び声を聞かれた恥ずかしさで母さんから逃げるようにコンビニに向かった。




その日はもしかして佳祐からなんらかの報告があるかなと思い、遅くまでスマホを気にしていたんだけど、佳祐からの連絡はなかった。

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