見えてたね
「あの…ごめん。
お前の深刻さがわかってなかった。
けど和子さんも和子さんだよな。
一回お前と付き合うの了承しておいて」
佳祐の肩を持とうと思ってそう言ったら睨まれた。
佳祐のヒヤヒヤする立場は気の毒だと思う。
けど俺も、俺も今は早くひとみさんの携帯番号を知りたい。
「ごめん、なんかアドバイスできなくて」
とりあえず話を変えようと思った。
「あ、あのさ佳祐、ひとみさんの携帯番号知ってる?」
ふっと佳祐の意識が和子さんから離れたようだ。
訝いぶかしげに「なんで?」と聞いてきた。
「あーうん。
昨日ひとみさんにもらった薬入れて風呂に入ったらぼんやり白い影があらわれたもんだからさ。
ちょっと怖かったからどーしたらいいかアドバイスもらいたくって。
家に電話しても出ないんだよ」
「いや、俺も携帯は知らねーわ。
ひとみさん東京の本社に二週間ほど研修受けに行くって言ってなかった?
東京行っちゃってんじゃね?」
そんな…
二週間も?
「その白い影って…」と佳祐が話し始めた時、佳祐のズボンのポケットでスマホが鳴った。
電話の着信だ。
佳祐があたふたと電話に出る。
「はい。…今から?」
行くよ。行く!」
電話を切って佳祐は俺に向き直った。
「秀人!和子さんに呼び出された。
俺、帰るね!」
そう言って俺に何を言う間も与えず、ロフトの梯子を滑り落ちるように佳祐は下って行く。
電話を受けた時の佳祐の顔…
真面目な顔をすれば結構見れるじゃん。
もう少し痩せたらイケメンと言えなくもないんじゃないかと俺は思った。
いや、痩せてもイケメンとまではいかないか…
和子さんが佳祐にどんなに話をするのかも気になったけど、俺にとってはひとみさんが今どこにいるかのほうが重要だ。
もう一度だけククさんの姿を見て…そして祓いたい。
俺はとりあえず確認のため一人自転車に乗りひとみさんのマンションに向かった。
マンションのエントランスでひとみさんの部屋番号を押したら「はい」って返事が返ってきた。
いるじゃん。
「あ、秀人です。
突然すいません、ちょっと相談したいことがあって…」
「はいはい。上って」
ガチャっとエントランスの扉の鍵が開く。
「ごめんごめん。
昨日は飲みに行ってたし、今日は二日酔いでさっきまで寝てた。
あーそうか〜同音二文字の名前ねえ」
「はい、なので次の方法を教えて欲しいんです」
「うーん。困ったな。
私もプロじゃないんでね。
そんなにいくつも対処法知っているわけじゃないのよ。
ただ見えるってだけで。
もう一度薬をあげるから、姿を表した貧乏神に頼んでみたら?
会話できるんでしょ?」
「頼む?」
「そう、自分から離れて行って下さいって」
「…無理のような気がする。
だってなんで祓おうとするの?私たち今まで仲良くやってきたのにって言われたし」
「うーん大して力のない貧乏神だからね、いてもそんなに大きな差し障りはないと思うけど…
ただ美人さんだからね。
この貧乏神がついてると秀人くん彼女できないかもね」
あ…
そういえば初めてここに来た時ひとみさん…
「ひとみさん、この前来た時こんな美人の貧乏神がついていたんじゃ彼女とかできなくてもしょうがない…みたいなこと言ってましたよね?
あれってどういう意味ですか、自分今回初めて貧乏神の姿を見たんだけど」
顎に手をあてひとみさんは、んーと考え込んだ。
「なんと言っていいのかな。
目では見えてなかっただろうけど気配は感じてたというか…
無意識に自分に憑いている貧乏神と周りの女の子を比べちゃっていたというか」
見えない相手とどうやって比べるんだ…?
俺は霊感のかけらもないと思うけど…
「最近秀人くんが好きになったアイドルと貧乏神と似てなかった?」
え…
きゃおりんと?
俺は宇宙アイドルきゃおりんの容姿を思い浮かべた。
銀髪に青い目。
まるでアニメのキャラのような。
いつも宇宙服をアレンジしたような衣装を着て歌って踊ってる。
全然ククさんとは違う。
ククさんとは。
確認のため、財布の中にしまってあったブロマイドを取り出し、ひとみさんに借りたペンで髪と目を黒く塗りつぶしてみた。
!!
あ…
似ている!
思わず口に手を当てた俺に向かって「ああ、やっぱり意識下で見えてたね」とひとみさんは言った。