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頭痛

翌日の朝、ひどい頭痛で目が覚めた。

久しぶりに頭痛薬を飲んだけれどあまり効かない。

この頭痛、昨日湯あたりしたせいだろうか。

それとも自分を祓おうとしたククさんの復讐だろうか…


やっと頭痛が収まってきた10時頃、俺はひとみさんの家に電話した。


出ない…


日曜だからな。

出かけてしまったのかもしれない。

仕方なく佳祐に会話アプリでメッセージを送る。


「ひとみさんのケータイの番号知ってる?」


この問いかけに返ってきた返事は「今からお前の家に行ってもいいか」だった。


なんだろう。

佳祐の家に遊びに行かせてもらうことは多いけど、佳祐がウチに遊びに来ることは珍しい。


まあ、来てから番号を聞けばいいか…


そう思い「りょ」とだけ打つ。





「秀人、頭痛どう?ご飯食べれる?」


母さんが心配して部屋をのぞきにきた。


「あんたTシャツにパンツ一丁で寝てるから風邪ひいたんじゃないの。

それとも昨日の湯あたりのせいかしら。

あんたお風呂に何入れたの。

あんなヒリヒリするお風呂に入るから」


「あ、ごめん。

友達にもらったデトックスの入浴剤入れた」


「何がデトックスよ、色気づいちゃって。

風呂釜痛むんじゃないの?

もう変なの入れないでよ〜?」


「あ…ん…」


ごめん母さん、約束はできない。


「フレンチトースト焼いてあげるから10分くらいしたら降りておいで」


「ん」




母さんが部屋を出ていってからしばらくして俺はスエットの裾の締まったズボンをはいてダイニングに向かった。


家の食卓は割りと洋風に偏っている。

影で父さんと朝ごはんシャケとか食いたいよな〜と言い合ったりしている。

でも母さんには言えない。

この家は母さんが支配してるから。


フレンチトーストを牛乳で流し込みながら、昨日あんな不思議な目に会ったのに俺って冷静だなと思った。


昨日もし現れたのがおどろおどろしい婆さんだったりしたらもっと本気で気味悪がったりするのかな。

一刻も早くお祓いしてもらおうと画策するのかな。


貧乏で服を持っていないククさん、俺の服を借りていると言っていたな…


じゃあ飯は?

飯も俺と同じものを食っているのかな?

昨日の色味のない唇がこの黄色いフレンチトーストを食っているのを想像する。


ふ、似合わないな、ククさんにフレンチトースト。

っていうか貧乏神飯食うの?


あまりにもリアルな人の姿をしていたのでついこんなことを考えてしまうんだな…

ククさん、ただ不法侵入して風呂に入ってきた人だったりして。


そうだったらどんなにいいか…




朝と言うより昼に近い食事を食べ終わって二階に上がった時チャイが鳴った。


「あらっ、佳祐くん久しぶり、上がって〜」と言う母さんの声がきこえる。

俺も玄関に迎えに出る。


あれっ?

佳祐なんか顔色悪い…


俺の部屋に通したら佳祐はロフトに上がりたがった。

二人でロフトに上がった途端

「秀人、俺たちに突然危機が訪れた」と深刻な顔をした。


俺たちの危機?

なんだそれは?


「和子さんを狙うライバルが現れた」


ああ…俺達って俺とお前じゃなく、お前と和子さんって意味ね。


「本当は今日和子さんと図書館で一緒に勉強する予定だったんだ」


ぇ、佳祐が勉強?図書館で?はぁ?


「けど…行けなくなった」


「なんで?」


「和子さんと俺が付き合い始めたのを知った彼女の幼なじみが和子さんに急に告ったんだ」


へえ〜

和子さん、地味ながらもててんじゃん。


和子っていまどきの名前じゃないよねって俺が言ったら、親の知性がうかがい知れるよなって佳祐はのろけたっけ。

その時なんかコイツもういかれちゃってる感じと思ったんだよね。


「で、和子さんが…

付き合うの少し保留にして欲しいってっ!

少しかんがえさせてくれって!」


「ハハハ、和子さんって男と付き合うようなタイプじゃないもんな。

男女交際興味ありませんって感じで。

だから幼なじみも安心してたんだろうな。

けど、お前と付き合い始めたのを知って、焦って告白して来たんだなきっと」


「笑うなっ!!」


佳祐が怒鳴ったのに驚いた。

すごく真剣な顔をしている。


「…どうしちゃったのお前…?」


俺は小学生の時からこいつと付き合いがあるけど、こいつのこんな面を初めて見る。

こいつはいつもどこかふざけていて…なんとなく余裕のあるやつだ。




佳祐は部活に入っていないし、どのグループにも所属していない。

それでいてみんなと仲が良い。


小太りの割に足が速いのでたまに人数の少ない陸上部の大会に頼まれて出たりしている。

佳祐はその時々に興味のあることを話している人の輪にひょいと入っていく。

こいつの自由さをいつも羨ましく思う。

それに絶対俺より頭がいい。


俺は自分の運の悪さがわかっているから高校受験に対してすごく用心してきた。

絶対合格ラインの何割か上回った実力じゃないと入れないと思って。

中一から塾に行き授業の予習復讐もサボらず。


けど佳祐は宿題もろくにやらずに地を這うような成績だったにもかかわらず、中三になったばかりの時、あ、秀人H高受けるの?じゃ俺もそうしようかなと言って、たった半年でビリに近い成績からほぼH校合格ラインぎりぎりの偏差値にまで上がってきた。


そしてするりとH校に入った。


H高はうちの市では偏差値的にトップ高のS高の次に位置する。

和子さんが席を置いている特進クラスはS高よりも偏差値が高いけど。


S高…行きたかった、本当は。

でも自分の運の悪さを考え、試験当日に実力が発揮できないことを想定してひとつ下の高校にした。


佳祐は高校に入った途端勉強しなくなったからよく追試を受けている。


佳祐は能力と運に恵まれている。

今ひとつ女の子にはオスとして見られないのが弱点と言えば弱点だ。


けど佳祐は無類のかわいこちゃん好きで、きゃおりんクラスのかわいい子じゃなきゃ女と付き合う意味がないと息巻いてきた。

そこらへんの女子なんてアウトオブ眼中だと。


それなのに…


和子さんは特別不細工ではないけど、かわいいとも言えない。

端正な顔立ちではあるけどすごく地味な印象を与える。

真面目さと頭の良さが顔に出てしまっている。

正直佳祐とは全然合わないんじゃないかなと思ってたんだけど、別れの危機に際して佳祐がこんな風になるなんて。


たった一週間会話アプリでやり取りをしただけの相手に対して…

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