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パスコース

名前を逆さに呼ぶって書いてあるのを見た時、もしジュゲムジュゲムみたいに長い名前だったらどうしよういう考えは浮かんだ。

でも上から読んでもを下から読んでも同じということは迂闊にも想定していなかった。

充分あり得ることなのに。


してたら対処法をひとみさんに教えてもらっていたのに。

と、言うよりやっぱり心の奥底ではそんなもん現れるわけがないと思っていた。


一応ククと言う文字を頭に浮かべ逆さに呼んで見る、


「クク」


「はい」


涼しい顔をして湯船に浸かった女の人が返事をする。


「なあに?」


ひときわ白い喉元が微かに動く。


全く色味のないぽってりした唇を少し開いたまま貧乏神は俺の顔をじっと見つめている。


色味のない肌色の唇がこんなに色気を感じさせるものだとは知らなかった。


吸い込んだ光を逃さないような黒いヌメヌメした瞳、頼りなさを感じさせる小さな顎、顔や首にに張り付いた幾すじもの黒髪、全体的に色気のあるパーツで構成されているのに合わさると色気より可愛らしさを感じる。


左右対称の数学的な顔立ちが色気を押さえているからだろうか?

この綺麗な人が本当に貧乏神なの?


ああ、分析している場合じゃない。

最良のパスコースを潰されたら瞬時に次のパスコースを探す。

これは小学校の時お世話になったサッカーの監督の口癖だ。


残念ながら貧乏神を祓うのを失敗したことに気づいた俺はこの場における次の最良のパスコースを探して貧乏神に声をかけた。


「ククさん、服を着てください」


そうじゃなきゃ話もできない。




「私が今裸なのはあなたが服を着ていないから。

私は服を持っていない…貧乏だから…」


服持ってないって貧乏すぎるだろっ!


「あの…じゃあいつも裸なんですか?」


「ううん

秀人の服を借りている。

秀人が服を着てくれれば私も着れる」


「え…

そうなの?

ちょっと待ってて!」


俺は後ろを向いて湯船から出て体についた塩や赤い粉をシャワーで洗い流した。


で、ククさんに背を向け脱衣所に移動して急いでタオルで体を拭き慌ててトランクスをはく。


気がつけば背後にククさんが立っていた。


俺と同じストライプのトランクスはいて。


うっうわぁ〜


上半身裸で男物のトランクス。

しかも随分ウエストの位置から落として履いている。

なにその履き方。


あ、俺がそんな履き方してるからか。

慌ててヘソの上までトランクスを引き上げる。


ヤバ、心臓の動悸半端ない。

まるで体の中で心臓が反復横飛びをしているみたいだ。

なんかドキドキしすぎて気分が悪くなってきた。


は、早くTシャツを着なきゃっ。


急いでTシャツを着たらククさんの上半身もTシャツで隠された。


この時点で俺はヘナヘナと床に倒れ込んだ。


「ねえ秀人。どうして私を追い払おうとしたの?

私たち今まで仲良くやってきたのに…」


と言うククさんの声が聞こえてきた。


ああ、なんだか男女の別れ話のシーンみたいだと俺は遠くなってゆく意識の中でその言葉を聞いた。



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