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【番外編】早まっちゃった

短編として以前投稿したものを編入しました。

早まっちゃった。


「林って、けっこういいよね?」って他の女子が話しているのを聞いて。




隣のクラスの林くんはいつも一人でいる。

もしくは学年のお調子者の佳祐くんと。

彼は他の男子より少し無気力に見える。


サッカー部だけどサッカーが似合わないなと私は思う。

闘争心というものがなさそうだし、サッカーやるには少し脚が長くて細い。


うちの学校は美術部の先輩の松本さんや、バレー部の主将の姜さんや、教務の磯貝先生なんかが女子からの人気が高い。


見た目いいのに林くんはランク外。

私は入学式の時に講堂でちらり見たとき、なんかこの人いいなあと思ったのだけれど。

ほんの、少しね?


ほんとに好きになっちゃったのは5月、美術の授業で各々外に出て好きなものをスケッチをしていた時。


林くんのクラスはグランドでサッカーやってた。

私は水飲み場の隣の花壇のエンドウの花をスケッチしていた。

仲の良い絵梨花と一緒に。


そこにサッカーやってた男子がわらわらと水飲みに来た。

ギャーギャー騒ぎながら。

昨日早くも熱中症の生徒が出たから、二十分に一度水を飲まされるらしい。


林くんは列の一番最後だった。

うるさい男子がはけて、一人水を飲んでいるところをたまたま見た。

エンドウの花に集中してたんだけど、なぜかその時顔を上げちゃったんだよね。


上に向けた蛇口からの水を飲んでいる林くんの喉元に目がいく。

その動く喉元を見て、好きになっちゃった。

静かでおとなしい感じの林くんだけど、その喉元だけが、オスだった。


ふっと顔を上げて林くんもこっちを見た。


あ、視線感じたんだ、どうしょう。


「背、高いね」


目が合っちゃった私の口から出たのはそんな言葉だった。


「中三の時、12センチ伸びた」


林くんはにこりともせずそう言った。


そして二、三歩こっちに歩いてきて私の手元のスケッチブックをのぞき込んで、「絵、上手いね」と一言言ってグランドに走っていった。


走り去る林くんを見送る私を見て絵梨花が「おやおや〜」と言った。




あれ以来、絵梨花は朝礼に向かう廊下なんかで林くんを見かけると「ミーナ、林くんあそこにいるよ」って教えてくれるようになった。


ふふ、絵梨花よりよっぽど早く私は見つけているというのに。


私は好きになったけど、林くんとどうこうなりたいなんて野望はなかった。

なんか無理っぽいもん。

それに告白する勇気なんかないし。


ただたまに廊下ですれ違ったり、放課後グランドでサッカーやってる姿を見るのが幸せ。


平日は朝、目がパって覚めた時点で幸せ。


林くんの姿を一度も見れなかった日は帰るとき、学校に未練をかんじる。


私、土日いらないな…


でも、前髪の寝癖がどうしても直らなかった日に限って何回も会うのはなぜだろう。

今日はいつもより目がぱっちりしてるな、顔のコンディションがいいなって時は一度も会えないのに。


とにかく、私は林くんと同じ学校に通えるだけで幸せだった。

だけど、夏休み前の終業式の日。


さあ帰ろうと廊下に出た時、先にホームルームの終わってた隣のクラスの女子が数人たむろして話しているのを聞いちゃった。

「林ってけっこういいよね?」と言ってるのを。


胸がざわざわした。


そうか…私、一人でいる林くんを見ているから幸せなんだ。

もし、林くんが他の子と歩いている姿を見たら、それはきっと苦しみになる。

そんなことに今更気づく間抜けな私。


なんか油断していた。

林くんの良さをわかるのは自分だけだって勝手に思い込んでいた。


少し気分が沈む。

それでなくても夏休みの間は会えないのに。


そんな心理状況の時、靴箱のところで林くんにばったり会った。

絵梨花とは別れたばかり。

彼女生物部の水槽洗いに行ったので。


林くんは一人でいた。

私も一人。


私達の靴をしまう場所はほぼ向い合っている。

それは私を喜ばせる要因のひとつだったんだけど…


実はその時の周りの状況をあまりよく覚えてない。

人がいたのかいないのか。

多分遠巻きにはいたのかもしれない。


私は靴箱の前のすのこの上で林くんと背中合わせになった時、思わず声に出してしまった。


「私、林くん好きだなあ」


林くんが静かに振り返った気配がする。


きゃーどうしよう!

なに言うか私っ!


恐る恐る私も林くんの方に振り返る。


林くんは靴箱の靴に手をかけたまま上半身をひねってこっちを見てたんだけど、しばらくするとまっすぐ立って私のことを見下ろした。

そう、私背が低いんだよね。

近くで向い会うと大人しい林くんでも威圧感を感じる。


林くん、で?って顔をしているような気がする。


いや、ほんとそれだけなんですよ、私にあなたと付き合いたいなんて野望はありませんから〜って言えばよかった。

そう言って走り去ればよかった。


けど…


私の口から出たのは「好きになってはもらえないよね?」だった。


きゃあ!

図々しすぎる!

ここはせめて「付き合ってもらえないかな」でしょう!


耐えられない沈黙が続いた。

いや、もしかしたら一瞬だったのかも知れない。


「あの…

今はちょっと」と言いかけて「名前なんていうの?」って林くんはきいてきた。


「小林美奈です」と名乗る。


そうだよね、私の名前なんか知らないよね。


「小林さん、今は女の子と付き合う気とかない。

小林さんが嫌なんじゃなくて、そういうのめんどくさく感じる」


少し申し訳なさそうな林くんの顔。


「あの、でも、ありがとね。

じゃあ」と言って林くんは靴をトントンと履いて帰って行った。


スポーツバックを斜めがけした林くんの後ろ姿にはこれっぽっちの動揺もなかった。

思った通りの反応。


だから絶対告白なんしないって心に決めていたのに。

他の子が林くん褒めてるの聞いて早まっちゃった…




暗黒の夏休みが始まり、そして終わった。

夏休み前の私の楽しみは苦しみに変わった。


会いたくない。

林くんに。


だけど二学期になって夏休み前より林くんを目にする回数が増えてる気がする。

私の玉砕を知らない絵梨花が、林くんいるよ?とか言ってくると、うるさい死ねっとか思っちゃう。


あー辛い…

学校に来るのが。


辛い…辛い…


思い足取りで校門を入った私の横を自転車に乗った林くんが追い越した。


げっ。

今まで朝会ったことなんかなかったのに〜〜〜


きいぃ〜

神様意地悪過ぎる!


私の少し前で林くんは自転車を停めた。

そして振り返り「小林さん、おはよう」と言った後林くんはまた自転車を走らせた。


え、どうして…

どうして後ろ姿で私だってわかったの。


昨日バッサリ髪を切ったのに…




林くんは廊下ですれ違うときとか小さく手を上げてくれるようになった。


私の事認識してくれてる…


嬉しいなあ。

優しいなあ。

アフターフォローが誠実。

なんていい人なの?

私、見る目あるよね。


少し恥をかいちゃった気もするけど、挨拶できる仲になれたことは喜んでいいんだよね。


うん、今はそれで良しとする。


良しとする。









お読みいただきありがとうございました。

途中投稿の順番を間違えてしまい申し訳ありませんでした。

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