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あれっ?

「そうか、秀人くん貧乏神祓うのに成功したんだ。

敬称から逆さに読んだわけね。

よく思いついたね?」


「小学生のおかげです」


広い意味で言えばハニーランドに誘ってくれたあいつらのおかげなのかなぁ。


「でも…なんだか祓うのに成功したら俺寂しくって。

やたら自分の部屋が広く感じて」


「う…ん

今までずっと一緒に暮らしてきてたんでしょうからね。

でも大丈夫。

慣れるよ、そのうち」


「そうですかね…

どこに…行ったのかな。

美人貧乏神。

一年ごとに憑く人を変えてっていう俺の提案受け入れてくれるかな…」


なんとなく俺が淡い恋心を自分の貧乏神に感じていたのをひとみさんは察したようだ。


彼女は「お互い頑張って立ち直ろうね、失恋の痛手から」と言った。


失恋…


「私は秀人くんが育つのを待つよ」


え…

いや、待たないでください。

俺面食いなんで。


そう心の中で呟いたら軽くひとみさんに睨まれた。


あっ、ヤバこの人見える人だった。


お互いに顔を見合わせて「ひどいひどい」「すいませんすいません」と言い合った後ゲラゲラ笑った。

二人で涙が出るほど笑った。




「ひとつ訊いてもいいですか。

自分には貧乏神が本当にいる人のように見えたし触ることもできました。

ひとみさんにもそんな風に見えていたんですか?」


「へえ〜そうなの?

私には色のついた影のように見えるだけだよ?

秀人くんもともと能力あるんじゃない?」


「…そうかな。

あともう一つ。

なんで塩の入った風呂に入っただけで貧乏神は現れたんですか」


「んー

実はあれは何でも良かったんだよね。

あれは秀人くんの意識を開くため…というか。

その気にさせるためというか。


もちろん私や大田くんとやらの波長も少しは手伝ったんでしょうけど。

あれはどちらかというと催眠術にかける導入のためのセレモニーに近いかな。

一種の暗示だね。

秀人くん素直だから心の目があれで開いたんじゃないかな」


素直…




ん?そう言えば佳祐遅いな、と思ったところでスマホが鳴った。

佳祐からの電話だ。


「おう、佳祐どうした」


「いや、途中で自転車のチェーン外れちゃってさ。

今通りがかったおじさんに直してもらってる。

だからちょっと遅くなる」


「自分で直せないんだ?」


「え…だって初めての経験だもん」


へーそうなんだ。


「まあ焦らずゆっくり来なよ」




「ひとみさん、佳祐自転車調子悪くて来るの遅れるって」


「へー。

じゃ、チェスでもして待ってる?」


「ヤダ、打つ手読まれて絶対負ける」


「ハハハ、そんなことしないよー」と言いながらひとみさんはチェスを持ち出した。


「それにしても佳祐って運がいいな」


「うん?」


「だって俺の自転車、今のも前のもしょっちゅうパンクしたりチェーン外れてた。

あいつ今までそういう経験ないんだって。


それに…

転んだ女の子助けてその子が彼女になってくれる確率ってどのくらいなんだろう。

その前に女の子助けるなんて経験ができる男子高校生ってそうそういないと思う」


「確かに!」


そう言って二人でまた笑った。


電話があってから三十分後に佳祐は来た。

俺はひとみさんと一緒に玄関に佳祐を迎えに出た。


「いやー、まいったまいった」と言いながらドアを開けた佳祐を見てひとみさんは「あれっ?」と言った。


そして俺の方を見て佳祐の後方を指差し苦笑した。


え?

ああ、そうか。

そういうことか!


俺はひとみさんの様子を見てすべてを察した。


ククさん、運のいいやつに憑いたらどうかっていうあの時の提案きいてくれたんだ…


「ん、秀人、お前なにニマニマしてんの?」


「いや、何でもない」


俺はそう言って佳祐の背後に微笑みかけた。




な、佳祐。俺また三人で弁当持ってハニーランドに行きたいな。

お前が和子さんに作ってもらったシャケのおにぎりを頬張る姿を見たいから。















『美人貧乏神に憑かれた日々』おわり

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