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ひとみさん

夜、佳祐から電話があった。

俺は一日ベッドの中で過ごしていたので、佳祐からの電話もベッドの中で受けた。


「秀人、大丈夫か?

珍しいなお前が休むなんて」


「はは、お前はちょいちょいズル休みするけどな」


なんか佳祐の暢気な声が今の俺には救いに感じる。


「なんだよー心配してやってんのに。

明日は学校来れる?」


「ああ、行くよ」


「そうか…

じゃあ明日話そうかな」


「?なに、佳祐その言い方。気になる。今話して」


「あ、…うん、実は、ひとみさん、詐欺にあったんだよ」


えっ


「結婚詐欺。

今日の夕方ニュースでやってただろ。

キャリアのありそうな中年女性に結婚を匂わせて起業の資金を出させてた男が捕まったって。


なんか十数人被害者がいるみたいよ。

で、ひとみさんはその中の一人。

被害総額八千万円だって」


ひえ〜


「あ、でもひとみさんはマンション買ってお金なかったから五十万くらいの被害だったらしい。

けど冬のボーナス出たらそれも貢ぐつもりだっんだって」


あちゃー


「ウチの親は五十万くらいなら勉強料だって言ってる」


ひとみさんの人生に男の影はなかったんだ。やっぱり。

自分の霊視を信じればよかったのに。


「俺、今週末親からの差し入れ持ってひとみさんちに行くことになったの。

週末和子さん、塾の模試あるから会えないし」


「あ、じゃあ俺も行く」


ひとみさんには世話になったし。少しでも励ましたい。


「おう、そうか。

ひとみさん喜ぶよ。

秀人のこと気に入ってたし。

ひよこでもイケメンって」


「ひよこでもイケメン?

なんだ、それ」


「さあ?子供だけどイケメンって意味じゃない?

腐っても鯛的な?」


「ハハハ、ひでー」


「秀人、俺久々にお前の笑い声聞いたわ」



ああ、笑えるんだな俺、ククさんがいなくても。




佳祐とは10時半にひとみさんの部屋で落ち合うことにした。

けど俺は貧乏神を祓った話や、今までのお礼を言いたかったので三十分早くひとみさんの部屋を訪ねた。

コンビニで買ったシュークリーム3つ持って。


ガチャっとドアが開いた瞬間ひとみさんは玄関先で猛烈な速さで喋り始めた。


「慰めないで、慰めないで!

別に五十万くらい私にとって大したことないんだしっ、ホストクラブでドンペリ入れたら軽く使っちゃう金額だし。

むしろいい夢見たなって思ってる!高級クリームつけるよりよっぽどお肌ツヤツヤになったし一ヶ月で三キロ痩せたし。

エステ行ってジムに入会したと思えば全然オッケー

何より騙されている間はすごく幸せだったしっ」


ここでひとみさんは一息入れて「秀人くん上がって」と言った。


そう言えばククさんこの人嫌いだって言ってたなぁ。

ひとみさんが詐欺にあったことを知ったらククさんどう思うんだろう。

どこかでほくそ笑んだりするのかな?

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