誘われる
「大田、頼む。
何も言わずこの包みを三回振ってくれ」
汗臭いサッカー部の部室の片隅で俺は大田に頼んだ。
「これ、なに?」
「いいからいいから」と懇願する俺を眉間にシワを寄せて見ながら大田はシャッシャッシャッと包みを振ってくれた。
「なんか最近変だよ秀人?
深刻な悩みでも抱えてんじゃないの」
「や、そんなことはない。
な、今日は俺に満月屋でたこ焼きおごらせて?」
「はあ…
なんかしらんけど、小遣い前で金欠だからありがたくおごってもらうわ」
大田は首をかしげながらそう言った。
大田よ、ありがとう。
俺お前以外に霊感強い奴って知らないから助かった。
たこ焼きくらいおごらせてくれ。
あ、もちろんコーラも付けさせてもらう。
さて、薬は手に入れた。
後はどうやってククさんを説得するかだ。
もしくは祓う方法を見つけるか。
次は必ず成功させたい。
でなければ俺はこのままククさんを受け入れてしまいそうだ。
それだけは避けたい。
これから先の自分の人生を考えたら、もう少し運のいい人間になりたい。
もう11月も半ばか。
朝晩は随分冷え込む日がある。
ああそうだ、今度の新月の夜はトレーナーを着て風呂に入ろう。
俺が考えられるのってそれぐらいだった。
見えないけど、今もそばにいるんだよな。
ククさん。
いつの間にか寝る時、ベッドの半分を空けるのが習慣になってしまった。
あと、コンビニでおにぎり買うときはシャケを選んだりして…
今まで断然ツナマヨ派だったのに。
この今のククさんへの複雑な気持ちをなんて表現したらいいかわからない。
俺の気持ちを逆なでするようにうちの学年の話題の妙なカップル佳祐と和子さんは昼休み俺の教室に遊びに来ていた。
最初のうちは冷やかしていたうちのクラスのやつらも、この頃は飽きてこの二人をスルーするようになった。
「今日和子さんが弁当作って来てくれたんだよ。
そういうの憧れだったんだよね」
はあ、そうですか。
「ねえ、林くん。
今週の日曜ハニーランドに行くんだけど林くんも一緒に行かない?」
行きたくないです。
ハニーランドっていうのは町のはずれにある小さい山のふもとにあるさびれた小遊園地だ。
電動の乗り物がほんの少しと巨大滑り台、やぎや小動物がいるミニ動物園がある。
「秀人、10時に現地集合な」
「いやいいよ俺は。
なんでお前らのデートについてかなきゃなんないんだよ」
「だって…秀人最近変だよ?
きゃおりんの話もしなくなっちゃったし。
…大田がなんか部活でも変だって言ってたぞ。
急に沈み込んじゃう時があるって」
きゃおりんの話をしなくなったのはお前がしなくなったから。
それと俺はもともとなんか沈んでる?って言われやすいたちなの。
「佳祐君が林くんを元気づけたいって。
ほんと…優しいよね」と和子さんはもじもじし始めた。
佳祐も黙り込んじゃってなんか変な空気が漂ってる。
おえっ。
なに見せられてるんだ俺。
うんざりしていたら和子さんが「そういえば林くん、俺面食いだから和子さんみたいなブスと付き合うわけないじゃんって言って私との噂否定したらしいね?」と急に冷たい目つきになる。
…はあ〜大竹、きっちり仕事をするやつだな〜お前は。
俺は女子の輪の中で大声で笑っている大竹の背中を睨みつけた。
「一緒にハニーランドに行くなら許してあげるけど?」
そう言うと和子さんは何かの勝負の勝者のように俺を見た。