朝の教室
ククさんは俺の自転車の後ろに乗って学校について来た。
登校した時、一年B組の教室は半数くらいの生徒がいた。
そこらへんのやつらに挨拶をして自分の席に座ったら、ククさんが俺の膝の上に座ろうとした。
「おいっ!」
思わず声が出た。
その声に驚いて教室にいた全員が俺の方を見た。
しまったやってしまった…
「林〜どうした?」
そう言いながらクラス一積極的な女子、大竹が近づいてくる。
「や、何でもない。
悪い悪い。
体操着忘れたかと思って自分にツッコミ入れたけどあったわ」とテキトーなことを言ったけど大竹は追及をやめなかった。
俺の前の席の椅子に逆さに座り「大丈夫かぁ〜林最近変じゃんね?
佳祐の彼女取ったり、捨てたり」と、言ってきた。
ああ、その問題もあった。
あの噂浸透してんだな。
「それは根も葉もない噂で嘘だ。
俺は和子さんと付き合ってもいないし捨ててもいない。
大竹、ちょうどいいや。
お前の宣伝力でその噂全力否定して」
「なに?人のことスピーカーみたいに言って」
だってそうじゃん。
俺は大竹の耳に口を近づけ「お前だけに言うけど、俺、面食いなの。だから和子さんと付き合うのはありえない」と囁いた。
「ハハハ」と大竹は笑う。
「林、意外に毒あるな〜」と俺をディスった後、彼女は元いた女子の輪の中に戻って行った。
あーあ、きっと今度は俺が和子さんのことブスッて言ったみたいな噂が広がる…
でも付き合ってもいないのに付き合っていたってみたいな噂よりまし。
佳祐に怒られるかな?
俺はふとこの噂、この前俺を好きだと言ってくれたC組のあの子の耳にも入ってるかもしれないと思った。
今は女の子と付き合う気とかないと言って断ったのに。
噂を耳にしたら嘘つきって俺のこと思うのかな。
「私、林くん好きだなあ」と言った後、真っ赤になってうろたえたあの子の姿を思い出して少し申し訳ない気持ちになる。
…
はぁ〜
なんだか朝から疲れる。
一時間目の授業が始まった。
ククさんは浅めに椅子に腰掛けた俺の後ろで、自転車二人乗りした時みたく俺と背もたれの間に入って俺の背中に寄りかかりくうくう寝始めた。
くそ、なんて気持ち良さそうに眠るんだ。
すうすうという規則正しい寝息の心地よさと背中の暖かさが眠気を誘う。
でもがんばってこの古文の授業と5時間目の倫理を乗り切りたい。
そして家に帰ってもう一度ククさんを説得だ。
そうはいかなくなったのは四時間目の体育の時間に顔面にハンドボールを食らって脳震盪起こし保健室に連れていかれちゃったからだ。
体操着着たククさんがよたよた俺の後をついて走っているのに気をとられ、ボールを受けそこなった。
あの…正直に言うと体操着の下で上下左右に大きく揺れる胸に気を取られてしまって…
体育館でへたり込んだ時はまだククさんの姿が見えた。
保健室に連れて行かれ寝かされた時も狭いベッドで半分体を俺の上に乗せククさんは寝てた。
俺はその後睡魔に襲われてうっかり寝てしまった。
俺を起こしたのは昼休み様子を見に来た佳祐と和子さんだった。
「おーい秀人大丈夫かー」
その声で目が覚めた。
あ、やばい、寝ちゃってた?
ククさん…
ククさん!
いない…
ベッドで右見て左見たけどククさんの姿は見えない。
あーもっと説得したかったのに。ククさんを。
ん、あれ?
佳祐、なんで和子さんと一緒にいるの?