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シャケ

「ククさん、明日の朝ごはんシャケだから。

それを食べたら俺から離れてくれませんか?」


部屋に戻ってパジャマから制服に着替えながらさらっと言ってみる。


「いや」とククさんは答える。


はぁ〜


「そういえば昨日秀人は私がいても不幸にならない…みたいなこと言ってたよね?

あれどういうこと?」


ちょっといらついてついため口になる。


「それはねえ、私がいるとちょっとタイミングがずれて、うまく行かないことが多くなるの」


やっぱ貧乏な疫病神。


「それでふてくされていろんな努力をやめてしまう人がいる。

学校を辞めてしまったり会社を辞めてしまったり。

その末にお酒に溺れたり犯罪を犯したりして、転落の人生を歩む人がいる。


秀人はサッカーの試合に出られなくても、サッカーをやめずに、机の下にサッカーボール置いて勉強しながらも足で常にボールを触っでる。

小学校のときから変わらず。


試験でヤマが当たることはないから博打を打たずちゃんと広範囲の試験勉強をする。

だから本当の実力がつく。


出先で急に雨に降られることも多いから、いつも折りたたみの傘を持ち歩いてる。

すごく準備周到な人間になった。

私がいることで人生が崩れない。


秀人から離れて他の人に憑いたら…

その人が不幸になる可能性がある。

だから私は秀人とずーと一緒にいる」


そう言って学ランを着たククさんは俺の方を見て微笑んだ。


その顔を見て俺は体の芯からゾッとした。

今まで見たククさんの一番かわいい顔だったけど。


ククさんは心優しき貧乏神なんだ。

人を不幸にしたくない。


でもだからって…


「あの…

提案なんだけど、一年ごとに憑く人変えたらどうでしょうか。

一年くらい調子の悪い年があってもそんなに人生のダメージにはなんないと思うんです。

あ、受験とか就活とか婚活とか人生の大事な勝負の時期じゃない人を選んで。


朝食にシャケが出てくる家の人なんかいいんじゃないかな」


この俺の提案を全く無視してククさんはドアに向かって歩きながら「秀人、学校に行きましょう」と言った。


この時俺はああ、ククさんの話し方には特徴があるなと思った。


スローペースで淡々と等間隔に抑揚なくしゃべる。

ただ語尾だけが上がったり下がったりする。


それがなんとも言えず…


「秀人?」


かわいい…

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