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運は悪くない

しばらくするとククさんは口を開いた。


「秀人?運が悪い?

秀人は運は悪くない」


え?俺の運が悪くない?


「秀人はみんなに大切にされている。

仲の良い常識的な両親の元に生まれてきた。

何不自由なく暮らしている。

みんなと違う方向を見ていてもちゃんと仲間に入れてもらえている。

秀人は自由に振る舞うことを許されている」


この前太田に言われたことと同じようなことをククさんは言った。


確かにそう言われればそうだけど俺が言いたいのは…


「努力は報われないけどね。

どうして俺をレギュラーにしてくれた監督は学校をやめてしまったの。

あの人だけが小学校のときからの俺の努力を認めてくれたのに。

俺には今までお前がどれだけ陰で自主トレをしてきたかわかるって言ってくれたのに。

なんで三年前の事件が今、発覚するんだ?

どうしてきゃおりんの握手会の日とばあちゃんの葬式が重なるの。

どうして子供の頃の家族旅行で巨大テーマパークに行く日は三回とも豪雨だったの」


この質問にククさんはまっすぐ俺の目を見て答えた。


「そのタイミングの悪さは秀人の持って生まれたもの、

そういう星のもとに秀人は生まれた」


「え…じゃあククさんが憑いているのは関係ないの?」


「…少しはあるかも」


!!じゃあ俺にとっては貧乏神だよ。やっぱり。


いや、貧乏なのは本人であって、この人の本質は疫病神って言った方がいいんじゃないか?


「ククさん、もともとタイミングが悪いなら余計貧乏神に憑いていてほしくはない。

もっと生まれ持ってタイミングのいい人に憑いたらどうだろう」


この提案に対してククさんは答えず


「私あの人嫌い。私を貧乏神扱いした。

だから秀人も私を貧乏神扱いする」と言った。


そして急に「疲れた、寝る」と言うと、パタンとベッドに横になりもそもそと掛け布団を自分にかけて、本当にすうすう寝てしまった。


神様寝るの?


俺は横たわったら寝てしまう、そしたらククさんの姿が見えなくなって説得が続けられないと思ったから朝まで椅子に座り過ごした。

起きていられる限り起きている。

何日でも。




翌朝、寝ているククさんを置いてパジャマのままダイニングに向かう。

着替えはいつも朝食を食べてからする。


母さんがフレンチトーストにはちみつをかけたのとトマトの切ったのとコーンポタージュスープを出してくれた。


朝はもう少し軽いものが食べたい…


ふと気づけばいつのまにかククさんもテーブルについている。

父さんの隣、姉ちゃんが東京に行くまで座っていた場所に。

ちゃんとククさんの前にもフレンチトーストやスープが置かれている。


どうなってんだ?

これも俺の脳が見せている映像なのか?


フレンチトーストを前にククさんはぽそり「シャケが食べたい…」と言った。


思わずコーンスープを吹き出す。


「ちょっ、ちょっと秀人!何してんのよっ」


「ご、ごめん」


俺は謝慌てて置いてあった台布巾で胸元とテーブルを拭った。


「秀人?最近おかしいよ?

ねえ、何かあった。

まさか…学校でいじめにあってたりするんじゃないでしょうね?

そのうさでこの前叫んでたの?」


いつも陽気な母さんが心配そうに俺の顔をのぞき込んできた。


「正直に話してごらん?」


「…」


実は貧乏神に取り憑かれてまして、なんて言えない。

おもわず口ごもる。


「お母さんあんたには悪いことしちゃったと思っているのよ。

ほら、お姉ちゃんが暴れん坊の問題児だったでしょ?

まあ、子育てが大変で大変で…

それに比べて秀人は小さい頃から手のからないお利口さんだった。だからついほったらかしにしちゃって。


ごめんね?

母さん油断してた。

あんたは大丈夫だって。

ね、困ったことがあるなら言って

一緒に問題解決しましょう!」


あー今、母さんのなかでは親に手をかけてもらえなかった末にいじめで苦しんでる高校生に見えてるんだ、俺。


「いや、なんでもないよ。

昨日クラスであったことを思い出し笑いして吹き出しちゃっただけ。

この前叫んでたのはばあちゃんのこと思い出して泣きそうになったから気を紛らわすため」


じっと母さんが俺を見た。


「本当?」


「ほんと、ほんと」


「あ、一つ言わせてもらえば…

明日は朝ごはんシャケが食べたい」


そう言ったら黙って俺たちの会話を聞いていた父さんが俺に向かって親指を立てた。


よく言った、と。

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