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二度目の新月の夜

なんの対策も思い浮かばないまま新月の夜を迎えた。


しいて言えば、ククさんを冷静に説得できるように服を着て風呂に入ろうと考えついたぐらいだ。

そうすればククさんも服を着て出てくるだろう。




夜10時、両親が入った後の風呂をそ~っと抜く。

そして簡単に浴槽を洗いお湯を張りなおす。


自動で溜めるとめると台所にお風呂が沸きましたと音声が流れるから、蛇口からお湯を出して溜める。


Tシャツとスエットのズボンに着替えてひとみさんにもらった薬を入れた風呂に入る。


心臓がひどくドキドキしている。


あ…れ?


出てこない。

なんで?


この前は五分くらいで出てきたのに…

もう10分は入ってる。


服着て入っちゃダメだった?と思い肌に貼り付いたTシャツに視線を落とし顔を上げたら。


いた。

ククさんが。


この前と同じように俺と向かい合う形で。


失敗した…


Tシャツが胸にべったり貼り付いたククさん、この前以上に艶なまめかしい!


ああっ、もっと厚い服を着るべきだった!

もしくは姉ちゃんのおいていったブラジャーをつけて。


あれ?何変なこと考えてんだ、俺。


落ち着け…

落ち着け自分。


どんなに魅力的でもこの人は貧乏神なんだから。


何回か深呼吸をしてから呼びかける。


「ククさん」


「なあに」


ああ、風呂出たい。

出て乾いた服着てじっくり説得をしたい。

この風呂に入っていたら遅かれ早かれ湯あたりを起こす。


「あの、この風呂に入ってなければククさんの姿は見えなくなってしまうんですか?」


「一回眠るまでは秀人の脳が私の波長を捉えているから見えると思う」


え、そうなんだ。

じゃあ。


「ク、ククさんちょっと待ってて」


俺は湯船を出て着ていた服を脱ぎ、シャワーを浴びて、あわてて脱衣場で丸首の綿のパジャマを着た。


そして俺と同じパジャマを着ているククさんに「お話したいことがあります」と言ってククさんと二人で自分の部屋に向かった。


また灯りのついているリビングの扉の前を通る時はひどくヒヤヒヤした。

なんだからこっそり親に内緒で女の人を自分の部屋に連れ込むみたいで。


二階の部屋に行き扉を閉める。


ふう、やれやれ。


学習机の椅子を引き出しベットの方に向け、ククさんに「どうぞ」と声をかけた。

そして自分はベットに腰掛ける。

するとククさんは椅子には座らず、俺の隣に腰掛けた。


「秀人、どうして私を追い払おうとするの」


俺の顔を覗き込むように彼女は言った。


「だってククさん貧乏神でしょう?俺を不幸にする」


「…ククでいい。ククって呼んで。

私は貧乏神ではないの。

ただ人の世話にならないと存在できない弱い神であって…」


「神様なら余計呼び捨てになんかできませんよ」


と言ったら、ククさんは少しまゆをひそめた。

なぜか俺はこの表情が気になった。


「人の世話になるってどういうことですか?神様なのに?」


確かにククさんのたたずまいは神って呼ぶのがふさわしい気がする。


「ほんの少し人間が持っているエネルギーを貰っている。

それで存在を維持している」


「あの…ククさんはいつから俺に憑いているの?」


「秀人が生まれた時から。

それまでは他の人に世話になっていた。

前の人が亡くなったのと同時に偶然生まれてきた秀人に世話になることにした」


「え…

あの、その手の本には先祖の悪行が原因で悪いものに取り憑かれる…みたいなことが書いてあったけどそうじゃないの?」


「違う。たまたま」


ええ〜?!




「秀人第一病院で生まれたでしょ。前の人同じ病院で亡くなった。

私は秀人が好き。秀人はいい子。

秀人は私がいても不幸にならない。

私は秀人が死ぬまで一緒にいる」


少しうつむいて上目遣いでククさんはそう言った。


あ、佳祐が魂を持っていかれた必殺上目遣い!


あー

あー


なるほど…

これは威力がある。


いや、負けるな俺!


こういうのを悪い物に取り憑かれてるって言うんだ!!


俺は慎重に言葉を選び、失礼のない態度でククさんに接した。

だって怖い。

今はこんなに美しい姿をしているけど、怒らせたらすんごい迫力のある般若みたいな姿に変身なんかしたら。


「あの…ククさんは自分の意志では離れられないの?取り憑いた人間から」


「出来る」


あ…じゃあ説得して離れてもらう道がないわけではないな。

寝てしまわない限りなくこうしてククさんと話ができるなら。

この前ククさんの姿が見えなくなったのは脱衣場で気を失ってしまったからだろう。


よし、徹夜で説得だ。

その前にいろいろ聞きたいことがある。




「あの、ククさんって本当の名前…ですか?」


「私は嘘はつけない」


「あの…ククさんに触ることってできるの」


「脳が…秀人の脳の一部が覚醒して今は私の姿を見せている。きっと触る感覚も脳が作り出す。

私に触れてごらん」


そう言ってククさんは俺に両手を差し出してきた。


恐る恐るククさんの手を取る。


あ…


ちゃんと触れている。

ほんのり温かくて柔らかい。


これ、俺の脳が作り出した感覚なの…か?

どう見ても普通に存在している綺麗なお姉さんにしか思えない。


「あの、どうして私を祓おうとするのって言いましたよね?

どうして俺がククさんを祓おうとしたのに気づいたの?」


「秀人が私の名前を逆さに呼ぼうとしたのがわかった。

逆さに呼ばれたら私は秀人に憑いていられなくなる」


あ…ひとみさんの言っていた祓い方は本当に効果あるんだ…


「ククさんはいつも俺にくっついているの?」


「そう」


「えっと…じゃあトイレにもついてきてるの?」


「そう」


俺はなんだか顔が紅くなってきた。


「大丈夫、ついてはいるけどほとんど眠っている、私は。

体力ないから」


体力ないって…


思わずフッて笑ってしまった。

そういえばひとみさん、弱々しい貧乏神って言ってたな。


「なんでククさんは体力ないの?」


「…あんまり秀人のエネルギーを取らないようにしているから」


え…あ…

遠慮がちな貧乏神なんだなククさん。


「俺の…運が悪いのはククさんのせい?」


この核心の質問にククさんは黙り込んだ。


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