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金の斧と銀の斧とカエル

作者: Chitto=Chatto

ある森にリタというきこりの女の子が住んでいました。

希少なフロストウッド探しが趣味の、ちょっぴりおちゃめな16才です。

リタは今日もフロストウッドを探して木を切りまくっていました。


「ヘイヘイホー♪」


16才とは思えないかけ声と共に、丸太の山が築かれています。

しばらく近くの木を切りましたが、残念ながらフロストウッドは見つかりませんでした。


その上、今日はちょっとした災難がありました。

いつものように木ばかり見ていたので、近くにある池に気づかなかったのです。

気がついたのは池の縁で滑ったときでした。


「うひゃー!」

情けない悲鳴と共に腕を振り回すリタ。


そのとき、うっかりと愛用の斧を落としてしまいました。


「あたしの命中+15%、武器ダメージ+50%、速度30%の斧が!」


動かない木を相手にすごい攻撃力ですよ。


斧は深い池の中にどんどん沈んで見えなくなりました。


「今日はラマ座の運勢良くなかったかも」


占いの結果で諦めがつくのは可憐な乙女のポリシーです。


仕方ない、オークでも襲って斧を手に入れるか、と考えた矢先。

池の真ん中がごぼこぼと泡立ったかと思うと、くぐもった悲鳴が聞こえてきました。

近くにモンスターがいるのかしらとリタは辺りを見回します。


すると、池の真ん中にでかいたんこぶをこしらえた大蛇が浮かんできました。


いったい何であんなところに、と不思議に思っていると、続けて池の中から小さなカエルが現れました。

カエルはゼイゼイと荒い息をし、池の縁にへばりついています。


リタは気の毒に思い、カエルを引き上げてやりました。


「す、ストローは、ストローだけはやめて……」


ストローに何か苦い記憶があるようです。

リタはカエルの背をさすりながらヒールの呪文を唱えました。


「ああ、リフレッシュ」

カエルはしみじみと言いました。くすんだ緑の体色が可愛い黄緑になっていきます。


「あなたが私を救ってくれた勇者様ですね!」

「へっ?」

「いやー、実に素晴らしい腕前でした。すごいスピードで飛んできた斧が、私にかぶりつこうとしていた大蛇の頭にがつん!ですよ。おかげでこうして生きています。感謝です」


どうやらリタが落とした斧は性能通りの働きをしたようです。

否定するのもアレなのでリタは何も言いませんでした。

しかしカエルはそれを謙虚だからと受け止めたようです。


「お礼をしなくては!」


そう言って、どこから取り出したのか、金の斧を差し出しました。


「落としたのはこの金の斧ですよね?」


リタは金の斧をしげしげと見つめました。

刃から柄まで、キンキラリンと光る高そうな斧です。しかも柄のところに『24金製』と書かれています。


リタは思いました。


柔らかい金で作った斧で木が切れるかい!


売れば最大ストレージの家が建つほどの品ですが、木が切れない斧はリタにとって価値がないのでした。

だからいいえと首を横に振りました。


カエルはふむんと頷くと、一度池に潜り、今度は銀色に輝く斧を持ってきました。


「それではこの銀の斧ですよね?」


リタは銀の斧をじろじろと見つめました。

全体がピカピカ光る銀で作られています。複雑な彫刻がなされた美しい斧です。よく見ると刃の近くに『純銀製』とあります。


リタは思いました。


純銀なんて酸化してすぐに錆びちゃうわ!


リタは木を切るのは好きでしたが執事の資質は皆無でしたので、銀製品を磨くようなことはしないのです。


同じく首を振ると、カエルは大きく溜め息を吐き、厳しい顔をして池に潜っていきました。

待つこと3分。

ようやく上がってきたカエルはリタに斧を差し出しました。


「お、重かった」


息絶え絶えでぱたりと倒れるカエル。

リタはカエルが持ってきた斧を見ました。


「これこれ!」


間違いなくリタの斧です。リタは嬉しくて斧に頬ずりしました。

カエルは心から満足そうに微笑みました。


「あなたはとても正直な人なので、金と銀の斧もあげましょう」


こう言って金と銀の斧を押しつけます。


「いりません」


リタは心から断りましたが、信じてもらえませんでした。


「謙虚なあなたにはコレもあげますよ」

そして腹肉の下から丸いものを出し斧につけました。

「これはカエルの贈り物です。何かあったときに壊してくださいね」


リタはカエルの贈り物を受け取りました。


---


それからしばらく時が過ぎました。


ある日、リタはちょっと欲を出して裏世界の森で木を切っていました。人殺しが合法の危険な裏世界ですが、その分伐採量が表世界の2倍。ざっくざっくと気持ちよく切れます。


しかし、ここはやっぱり裏世界でした。


「森林伐採は環境破壊!! おしおきだべー!」


どこからともなく強盗が現れ、リタに襲いかかってきたのです。

ああ、もうだめだ!

そう思ったとき、ふと、斧に目がいきました。


カエルが(勝手に)つけたなんだかよくわからない丸い物体。


そうだ、コレ使おう!

リタはカエルの贈り物を外し、力一杯踏みつけました。


ひょい~~~~ん!


粉々に砕けると同時に、妙な音が森に響きました。

音は木霊になって森に拡散していきます。


「な、なんだ?」

強盗は驚いて一瞬動きを止めました。


しかし、残念なことにリタのほうも戸惑いで固まっていたのです。


二人そろって我に返ったときには、何事もなかったように風が吹き抜けていました。


「脅かしやがって!」

強盗は再度、剣をリタの頭に振り下ろしました。

危ういところでよけましたが、剣はリタの腕を斬りつけ、斧を地に落としました。


今度こそ終わった!リタは目を閉じました。


そのときです。


遠くからぺったんぺったんと定期的な地響きが聞こえました。

それがどんどんリタ達に近づいてきます。


次の一撃を食らわせようとしていた強盗が振り返ったとき。

その顔に、ぬめっとしたものが落ちてきました。


カエルです!

そう、あのカエルが、どこからともなく現れ、強盗の顔に貼り付いているではありませんか!


「うわ、気持ち悪い!」

「気持ち悪くない!しっとりパック!毛穴が隠れるんじゃああ!」


そこか、そこなのか、とリタは思いました。


地響きはどんどん大きくなり、気がつくと、リタの周りはカエルだらけになっていました。


普段の強盗ならこの程度のカエル達など敵ではなかったでしょう。

しかし、ここは裏世界。

これだけのカエルに囲まれては、スタミナブロック(裏世界では人やモノを押しのけるときに一定の体力を使うのです)で歩くこともできません。

さらに、カエルが顔に貼り付くという情けなくもしょっぱい思いが強盗のやる気を6割ほど削り取っています。

「き、今日のところはコレで勘弁してやるぜ!」

そう叫ぶと、強盗は涙目で走り去っていきました。


「危なかったですね」


いつの間にかリタの前に来たカエルが言いました。その周りには色とりどりのカエル達がいて、つぶらな瞳でこっちを見ています。


「ありがとう。助けられちゃったね」


リタはにっこり笑い、お礼を言いました。


『でもこれだけいるとちょっと気持ち悪い』 と思ったのはヒミツ。



そうそう、カエルがくれた金と銀の斧は、鑑定大会で「銅製の斧を染めただけ」だとわかりました。

いわゆるバッタものでしたが、染色技術がすごかったので、そこそこいい値段が付いたとのことです。

リタがそれを売って新しい斧を買ったかどうかは別の話。



おしまい

昔やっていたオンラインゲームで書いたお話です。

世界設定関係ないよ、みたいな話だったので、専門用語部分だけ少し変えてみました。

カエル好きなので、またカエルが出てくるお話をアップしたいと思います

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