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戦士以上、魔法少女未満の少女達  作者: 佐久間零式改
第二章 二人の魔法少女
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二人の魔法少女 第五話

「……さて」


 状況判断を行っており、動こうとしていない五機のロメルスを尻目に真希がくっと背筋を伸ばす。


「ボクが三機受け持つけどいい?」


「では、私は残りの二機を」


 また見つめ合い、首を縦に振り合った。


「何をごちゃごちゃと!」


 さきほど蹴り飛ばされたロメルスがライフルを構え、引き金を引いた。


 銃声と共に無数の弾丸が二人へと向かっていく。


「そんなんじゃ、ボクは殺せないよ!」


 真希のいる場所に風が吹いた。


 刹那、二人の姿がかき消え、真希だけがライフルを乱射した機体の胴体部分の前へと一瞬のうちに出現し、一息吸い込み、一息吐き出し、その息と共に拳を繰り出した。


 ドン、という衝突音と共に胴体部分が一気にへしゃげ、ミシミシと金属をきしませながら、その巨躯が地面へと叩きつけられた。


 そして、止めとばかりにかかと落としを見舞い、頭からその機体が真っ二つに割った。


「次ぃっ!」


 次の獲物を狙うような目で他の機体を睨み付ける。


 直後、燃料に引火したためか、盛大な爆発が発生した。だが、真希がそこにはもう真希の姿はなかった。


 真希がまたその姿を見せたのは、立ち往生するばかりの機体の前であった。


 一息吸い、一息吐くその瞬間に横薙ぎのキックを出すなり、金属であるはずの機体がまるで紙のように避け、上半身と下半身とが分断された。


 蹴りの体勢のまま、クルッと身体を流れに任せて回転させた後、まだ落下し切れていない上半身の部分をまるでボールを扱うように蹴りあげた。


 打ち上げられた上半身と、地面にそのまま項垂れるように倒れた下半身とが同時に盛大に爆ぜる。


「これが神の遺産? そんなワケないかもね」


 次へとは向かわずに真希は悠然と地に足を着け、髪をかき上げた。


「……鳳香は?」


 どこに行ったのかと目で追い始めた矢先、ずっと向こうに立ち、じりじりと後ずさりを続けていた機体の真下から雷で出来た龍が現れ、機体を丸ごと飲み込み、天へと昇っていく。


「ああああっ!!」


 パイロットの絶叫が木霊した時に、龍の胴体がふくれあがり、そして、噛みついている機体を巻き込んだままはじけ飛んだ。


「お次は……?」


 最初真希達がいた場所に鳳香はいて、赤い御札の束を手にし、悩ましげな表情をして次の敵をどちらにすべきか吟味していた。


「こ、この……ば、化け物が!!」


 一機が手にしていたライフルを鳳香に向け、乱射し始めた。


「失礼な人ですわね」


 胸元より今度は黒い御札を取り出すと、赤い炎に包まれてすぐに燃え尽きた。


「私も真希さんも普通の乙女ですわ」


 鳳香の前に何かバリアーか何かがあるかのように弾丸が四方八方へとはじき飛ばされていった。


「じょ、常識が……通じない?」


 パイロットの声が震えていた。


「あなた方も十分に非常識だと思いますよ」


 ニッコリと純真な笑みを浮かべる鳳香。手にしていた御札の束が緑の炎に包まれ、すぐに消滅した。だが、その炎はそこに留まり、炎の鳥へと変貌した。


「花鳥風月」


 他人に見えるかどうか分からないほどの笑みを口元に刻んだ。


 それを合図としていたように炎の鳥が羽ばたき、さきほどまで鳳香を攻撃していた機体へと一直線で向かっていく。


「あぁぁ……ぁぁぁ……ぁぁぁぁぁっ!!」


 パイロットの言葉にならない声がスピーカーから漏れ出てきているが、鳳香は表情を変えなかった。


 炎の鳥に向かって、ライフルを撃ち続けているが、無駄であった。


 その身体にすべての弾丸が飲み込まれている。


 炎の鳥がロメルスの機体に直撃した。


 機体が爆炎に包まれ、その表面を黒く焦がすだけでなく、装甲までもドロリと溶かし始める。


 燃料に引火してか、もの凄い音を立てて赤い閃光となった。


「お、お前達は……あ、悪魔か!」


 残った一機のパイロットはあからさまに倒錯しきっている声でわめき立てる。


「悪魔? ボク達は違うよ」


 対照的に冷静な声で答える真希。


「……何かと訊ねられたらこう答えようと真希さんと決めていたんです。私たちは……」


 真希と鳳香は信頼しきった目で見つめ合った。


「魔法少女」


 二人は声を揃えて、そうしっかりと言葉にした。


「な、何バカな事を!」


 ライフルを構えてはいるが、引き金を引くに引けない状態になっていた。引いたら最後、一瞬にして撃破されてしまう事を畏怖している。


「もしかしなくても、怖じ気づいてる?」


 真希は嘲笑を浮かべたまま、つかつかとその機体の方へとゆっくりと近づいていく。


「その豆鉄砲で勝てる気がしないなら格闘で戦ってみたら? 一回くらいは攻撃させてあげるよ」


 ロメルスの方に手を伸ばし、人差し指を向け、そして、くいっ、くいっと指で誘うように挑発する。


「ふ、ふざけるな!」


 パイロットは思いっきり叫び、ライフルを投げ捨てた。


「お前に指図される覚えはない!」


 ロメルスのかかと付近にあるキャタピラを作動させ、瓦礫の山を崩しながら真希へと高速で迫ってくる。


「そうじゃないと」


 そんな呟きをもらしてる間に、目の前にまで機体が迫ってきていた。腕を振り上げ、一気に叩き潰そうと振り下ろした。


「巨大だから有利って事はないね」


 その一撃を余裕の顔をしたまま、片腕でガードし、


「ボクに言わせれば、信念のない一撃なんてそよ風みたいなものなんだよ」


 己の体重の何倍もあろうかと思える重装甲の腕をパッと払いのける。その間に目を閉じて息を吸い込み、地へと力を込めて前へと飛ぶ。息を吐く動作と足を前へと突き出し動きとを連動させた。


 真希の跳び蹴りが見事にロメルスの胴体に当たり、メキッ、と金属が脆くも砕け、そして、その機体にものの見事な風穴が開けた。


「張りぼてみたいだよ、ただの鉄の塊なんて」


 華麗に着地し、ツインテールが崩れていないか指で確認し、ふぅっと安堵の息をもらした。


「ば、化け物がぁぁぁぁっ!!」


 パイロットの断末魔の響きは爆裂音によってかき消されたが、鳳香も真希も聞き逃しはしなかった。


「失礼ですわ。まだ恋もした事のない乙女に向かって」


「負け犬はよく吼える。化け物だなんて言われる顔はしてないってボクは思ってるんだけど……」


 二人の表情は、もうすでに年頃の女の子のそれに戻っていた。



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