二人の魔法少女 第四話
そこが市街地であったとは思えないほど、瓦礫の山と化していた。
ビルや家は崩れ去り、ただの瓦解した『何か』にその姿を変え、もくもくと黒煙が至るところから上がるその発生源は形ある頃は戦車や戦闘機であったのが、その残骸から察せられた。
そこはもう戦場であった事を指し示すものしか残されていない。
その戦場の中で蠢く物……それは、五機のロメルスだけであった。
ここに派遣された日本自衛軍は、この五機のロメルスによって、僅か一時間で壊滅させられた。
ここからでは見えないが、海上から直接浮遊要塞をミサイル攻撃していたイージス艦も撃破されており、被害は甚大なものとなっていた。
その五機は周囲を警戒するようにじっとと立ち止まっている。
ある程度の間隔を開け、ライフルを手にし、不測の事態に備えていた。
そのうちの一機の前に、黒点がポツンと出来た。その点は即座に広がり、大きな穴と化した。
そして、そこからゆっくりとした動作で鳳香と真希が顔を出し、穴からヒョイと飛んで地上に降り立った。
「ん?」
真希が目の前に立つロメルスを見上げて、真希の身長の十倍以上はあろうかと思えるその巨体をしげしげと眺めた。
「ねえ、鳳香。こいつら、弱そうだね」
ロメルスの足の装甲に触りながら、真希は鳳香の方を顧みた。
「どうでしょうか? 見た目から判断するのは早計ですわ」
鳳香も同じようにその巨躯を見上げる。鳳香もそうだが、真希も恐れというものがなかった。
「なんだ、お前達は」
外部スピーカーから男の声がした。
足下に二人にいる事に気づいたロメルスが動き、手にしていたライフルの銃口をその二人に向ける。
「女の子に銃を向けるなんてサイテーね」
そうされても、二人は全く動じなかった。
「なんだと訊いているのだ」
男の語気が強まった。
戦闘状態が続いていたからか、アドレナリンが分泌され続けていた。人を殺す『味』をしめてしまったのかも知れない。
「倒しにきたって言えば分かってもらえる?」
ばつが悪そうに頭をかきながら、ぶっきらぼうに呟いた。
「これ以上、暴れて欲しくはないということですわ。分かっていただけますでしょうか?」
真希では説明不足だと感じたようで、鳳香がしっかりと補足した。
「何を言ってやがるっ!」
ライフルの引き金を引こうと指が動くが、それよりも早く鳳香の手元が動いた。
胸元から一枚の赤い御札を取りだし、それを銃口目がけて投げつける。
御札が銃口にピタッと貼り付いた瞬間、爆ぜた。
ドンッという爆音と共に、黒と灰の煙をまき散らす爆風が起こる。
その風に合わせるように真希は地を蹴り、空へと舞い上がる。
ロメルスの頭がある位置まで行くや否や、蹴りの構えを取る。
そのまま、ギラギラと異様な輝きを見せる頭部分に蹴りを見舞った。
「な、何ぃぃっ?!」
その一撃だけで重装甲の巨躯の足が地面から離れ、緩やかに倒れていった。
「やっぱ何も付けないと蹴りの威力がしょぼいね」
真希は宙でくるりと一回転してから着地し、不満げに表情を曇らせた。
「でも、女の子にしては怪力な方だと思いますわ」
さらりと傷つくような事を口にする鳳香。
「……怪力? これくらい普通、普通」
拗ねたような目で鳳香の事を見やり、自分に対して肯定するよう口ずさむ。
「な、なんだってんだ、これは……」
そんな二人のやり取りとは関係なく、倒れたロメルスが緩慢な動作で起きあがった。
さきほどの蹴りの跡が頭部の歪みという形で残っており、その威力を雄弁に物語っていた。
その一機が吹っ飛ばされた事に気づいた他の四機もこちらに銃口を向け、戦闘態勢を取り出していた。
「本気で行く?」
「当然ですわ」
二人は見つめ合い、そして、頷き合った。
真希は黒い鉢がねを短パンのポケットから取り出し頭にサッと巻いた。
「来い! ボクの武御雷之装束!」
そう叫んだ後、真希の身体が金色に輝き始める。
その横で鳳香が、胸元より取り出した黒いお札を二つの指で挟み、顔の前に持って行く。そうして、目をつむり、言葉を放つ。
「天照らす御心よ、我が衣になりて、その志を我に伝えよ」
鳳香の身体が真希同様に光り始めた。
真希の方の輝きが段々と弱まっていた。
手から光が去ったかと思うと、そこには黒光りする腕と手の輪郭を崩していないで綺麗に形取った小手が、
足から光が明滅し、やがて収束すると、そこにはこれまた黒光りする脚絆が、胴から光が退くとそこには、これまた黒光りする鎖帷子が真希の身体を覆っていた。
「ボクの拳はすべてを打ち砕く! 鮮烈なる旋風の真希、ここに推参!」
真希は決めポーズを取りながら、そう言い放つ。
鳳香から発していた光は、段々と鳳香から離れ始めた。
だが、その光はその身体を守るようにその周りをゆっくりと旋回していく。
光はいつしか身体に密着し、衣服のような姿へと変化し始める。
そして、白と赤に彩られた巫女服へと変化した。
白い袖長白衣は普通の巫女が着ている物と変わりないが、巫女袴は通常のものよりも短く、太ももが少しだけ見えていた。
「御札に私の真心込めさせていただきますわ。静かなる霹靂の鳳香、参ります」
鳳香はそう言い、畏まりつつ一礼した。
古来より虚ろの民の間で伝えられてきた、己の能力を高める機能を備えた戦闘着であった。