地に立つ者 第六話
「博士、大変ですよ」
オペレーターの席に腰掛けていたさくらは同室にいる新高山博士にそうのんびりとした口調で言った。
「ん? なんじゃ?」
机の上に足を投げ出すようにして椅子に腰掛けていた新高山博士は、鼻をほじりながら投げやりに返した。
「秀吉さん、死んじゃいました」
プロトタイプに取り付けてあった生体反応を感知する装置がその事を告げていた。それを淡々と報告したのであった。
「……失敗かのう。仕方ない事じゃ。このクーデターは失敗じゃな」
新高山博士はそれを聞いても顔色一つ変えなかったが、机の上の足を下ろして、正しい姿勢で座り直した。
「その通りですね。失敗です」
さくらはもう一度明確に言い切った。
「わしの復讐は終わったのじゃな。心残りはロメルスで、わしを見捨てた奴らを踏みつぶす事じゃったのだが……」
博士は立ち上がり、衣服を見える範囲で正した。無駄のない規則正しい手つきで机の引き出しから、ハンドガンを取りだし、
「わしが科学力は偉大であった。さらば、わしの明晰な頭脳よ!」
新高山博士は自らの頭に銃口を向け、ためらいもなく引き金を引いた。頭が半ば損壊し、新高山博士の身体はそのままバタリと床に倒れた。
「……新高山博士。潔かったですよ」
その様子をしかと目に焼き付けたさくらは手を合わせてから、すぐに自分の業務を遂行することにした。
「あ、あ、連絡します。このクーデターは失敗しました。命が惜しい人は二分以内に退避してください。私は抵抗しますから、長門は撃沈されますよ。逃げたくない人は残っていても別に構いません。以上、放送終わりです」
と、艦内放送で流した。
さくらは長門と心中するつもりでいる。逃げる気もなければ、魔法少女に勝とうなどと意気込む気もさらさらなかった。
「来ましたね」
モニターの一つが風に乗って高速で飛んでくる魔法少女の姿を捉えた。
「長門、起動しますよ」
さくらは無感動そうに変形のためのスイッチを押した。




