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戦士以上、魔法少女未満の少女達  作者: 佐久間零式改
終章 地に立つ者
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地に立つ者 第四話



 先の作戦で使用した大阪方面行きの高速道路を疾走する人影が一つ。


 韋駄天(いだてん)の法術を発動させ、ひたすら走り続けているのは紗理奈であった。腰を落として空気抵抗を減らしながら、時速八十キロの速度で一路大阪を目指していた。祝詞を記し旋律を使えば、この程度の事は可能だった。この能力は禁則事項以外の事ならば、自分の思うがままにすることが可能であった。


(今はまだ見習いだけど、いつかきっとお姉様と一緒に立場になって、一緒に任務をこなしていくのが私の夢だよっ? そのためにも、これくらいの事できないとねっ)


 紗理奈は未来の事を思い描きながらも、迫りくる戦いの事を忘れはしなかった。


(そのためにも、私は役に立たないといけなんだよ。この戦いで。もう作戦は決めているからその通りに事を運ばせれば、きっと……)


 長距離から千里眼を頼りに槍を投げる事は可能だけど、その的が動いている場合は当てることは不可能に近い。相手が動いていなければ、的に命中させることは容易いという事を紗理奈は分かっていた。だからこそ、命中させやすくするための作戦をきちんと立てていたのだ。


(そろそろかなっ?)


 真希と鳳香は空から敵を狙う事にしていた。上空であれば、敵に見つかることはないだろうとの配慮からだ。


『例のロメルスをレーダーで捕捉したわ。後一分ほどで接触すると思われるわね』


 小型無線機から夏美の声が流れてきたのを聞き漏らさず、速度を落としていき、開けている場所で立ち止まった。周囲が平野となっていて、見通しがいい。ここならば遠くからでも見れるはずと思い、


「祝詞を記し旋律よ」


 と、すぐに己の能力を具現化する法具を取り出した。そして、とあるページを開いた。


「地よ、我が思う時に、我の思いに従いて、我が思い描く姿へと従え」


 そう詠唱しながら、高速道路の地面に触れた。すると、地面の上に四角形が光によって描かれたが、即座にその光は収縮し消えてしまった。


「これでよしっと」


 道路より手を離して、軽くガッツポーズをした。


「……」


 自然の風とは違う、乱暴な空気の流れが前の方からした。


(来たんだね)


 前方に大きな影ができ、上空より一機のロメルスが速度を緩めながら降下してくる。


「あの時、隠れていた小娘が相手ですか。舐められたものですね」


 上より浴びせかけられる失望にも似たため息混じりの一言。


「私で十分だって、お姉様方は言ってるんですよ」


 強がるようにそう言い放ち、手にしていた本のとあるページを開いた。


「我が脚は借り物になりて、我が脚を他の者の脚とする」


 そう唱えるなり、ロメルスに背を向けて、逃げるように走り出した。その速度は相当なものであった。


「鬼ごっこですか?」


 バックパックから球体を数十個放出し、アンチマジカルシールドを展開させるだけには留まらず、右手のロケットパンチをも撃ち出してきた。


「遅いよ~」


 腰を落とし、重心を低くし、ドリフトをさせながらユーターンし、向かってくるロケットパンチを追い抜き、本のページをめくる。


「雷よ、無より生じ、我が意志に従いて槍となりて、我の敵を撃て!」


 紗理奈の周囲に光の槍がいくつも出現し、ロメルスに向けて一斉に飛んでいった。だが、アンチシールドの前にすべて打ち消され、傷一つつけることができなかった。


「甘いですよ!」


 左手のロケットパンチが紗理奈の詠唱の直後に発射されていた。詠唱のために周囲力散漫になっていた紗理奈の事を捉えた。


「うっ?!」


 俊足であっても、逃げ切ることはできなかった。片腕でガードはしたものの直撃を受け、紗理奈の幼い身体がきりきり舞いをしながら空へと打ち上げられた。


「どこが強いというのですか!」


 そんな紗理奈へ右手のロケットパンチが追い打ちをかけ、さらに上空へと放り上げられた。


「その身体でどこまで耐えきれますかね!」


 秀吉の機体が地を蹴り、空へと羽ばたいた。そして、まだ滞空している紗理奈のたたき落とすべく、肘打ちをその幼い身体にたたき付けた。


「ッ!」


 紗理奈はかはっと口から血を吐き、虚ろな目をしたまま、受け身すら取れずに地面へと真っ逆さまに落ちていった。高速道路に使われている鉄骨の層を露出させるほどの穴を作るほどの勢いで墜落した。


「まだまだ終わりではありませんよ」


 激痛のあまり身動きさえ取れない紗理奈に向かって、ロメルスの十数トンある機体の足が迫り、体重をかけるようにして踏み潰した。体重がかかり、さらに紗理奈の身体がさらに地面へとめり込んでいく。


「……」


 痛みのあまり声を上げることもできない紗理奈。


「これまでですか? 呆気なさすぎますよ」


 勝ちを意識してか、秀吉の態度は強気だった。


「ハァ……ハァ……ふふ……」


 紗理奈はとある事を知り、密かにほくそ笑んだ。


「何を笑っているんです?」


「あああああっ!!」


 踏みにじるようにグリグリと足を動かすと、紗理奈は悲鳴を上げた。


「負け犬が」


 さらに力を入れると、紗理奈は一瞬だけ白目になって、大量の血を吐き出した。だが、すぐにその目は光を取り戻した。


「……わ、私の……役目はこれで……終わりだねっ」


 紗理奈の口の端から一線の血が流れ続けていた。だが、全くその事を気にしている素振りは見せない。


「……ん?」


「……は、発動してっ」


 その言葉によって地面が光り出し、道路がせり上がりだした。それはまるで檻であった。ロメルスを取り囲むようにして、瞬時にできあがり、秀吉の機体を閉じこめた。


「なっ?!」


 狼狽する秀吉の様子を見て、紗理奈は安堵の笑みを浮かべるが、その顔からは血の気が引いていた。


「……お姉様」


 刹那、違う方向よりフルスピードで飛んできた二本の槍が、ロメルスが背負っているバックパックをほぼ同時に貫いた。その衝撃に機体が耐えきれず、ガクガクと揺れた。


「ちぃ!」


 すぐにバランスを取り、石でできた檻をぶんぶんと腕を振り回して壊していく。身動きが取れるようになり飛び上がろうとしたところで、秀吉の前に二つの人影が現れたのであった。

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