地に立つ者 第二話
真希が廊下に出ると、そこには夏美が待っていた。窓際に立ち、外をじっと眺めていた。
「槍でいいんですわね? 四メートルほどの長さのある槍を二本ほど用意させておきましたわ。すぐに自衛軍の方が持ってくると思いますの」
「ありがと」
行動が早いな、と思いながら、感謝の言葉を述べた。
「必ず勝ってきなさい。これは命令ですわ」
「そうだね。やるからには勝たないと。紗理奈が手伝ってくれるんだから、ミスはできないよ」
「あの子が手伝うって言わなくても勝機はあったのかしら? 正直に答えなさい」
「神器が使えれば必勝ではあったけど、使えなかったら五分五分だね」
「負ける可能性があるとでも言いたいの?」
「……負けはしないけど、被害は甚大かなってね」
「未知数な戦闘能力を持っているのね」
褒めたつもりで夏美は言ったのだが、
「そんなに凄くはないんだよ。神代の時代、ボク達の虚ろの民はたった一人の闘神の前に敗れ去ったんだ。限界は当然あるよ。でもね、人の造りし技術ならなんとかなるとは思ってるんだ」
と、返して真希は歩き出した。
「認めたくありませんのね、自分の弱さを」
そう言われて、真希は立ち止まった。
「己の強さを知ることも強さのうちだよ。神代の時代の生き残りの神様は結構いるけど、皆平均して強いが、滅多に世には出てこない。今は時代は人の時代だからね、干渉することを嫌っているんだよ。力は時には世を乱す元となるからね」
真希は後ろを顧みて、夏美に視線を投げかけたが、相変わらず窓際から外を眺めている。
「だから、手加減したとでも言いたいんですの?」
「違うよ。見下していただけだよ、人の技術を。それはボクの失敗だね」
「次は全力を出す事ね。そうすれば、勝てるんでしょう?」
「おそらくはね。で、訊きたいんだけど、どうしてボク達のサポートをしてくれているの?」
一瞬の沈黙。
「……気まぐれ。そう、気まぐれですわ」
夏美は真希の視線に気づいてか、顔を動かし、真希を見返した。そして、誤魔化すようにニヤリと笑い、また窓の外に視線を移した。
「さ、早く行きなさい。理想も何もない集団に待っているものは破滅ですわ。それは歴史が証明していますの。今回もそれを証明してみせなさい」
「ああ、分かってるよ」
真希はゆっくりとした調子で歩き出したが、挨拶の言葉を投げかける気は起きなかったので何も言わなかった。




