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戦士以上、魔法少女未満の少女達  作者: 佐久間零式改
第五章 勝者は生者にあらず
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勝者は生者にあらず 第七話



 鳳香や真希達がいる部隊は高速道路を利用し、大阪への進軍を開始してから、もう二時間が経過していた。


 アパッチ四機が護衛する形で、戦車十数台、トラック十数台、通信用の車両二台での行軍となっていた。


 真希と鳳香、それに紗理奈は最後尾を行くトラックの荷台に、立花大尉他数名の自衛軍隊員とともにが乗っていた。


 アルミ製の壁に四方を囲まれた息苦しい場所だったが、誰も文句は言わなかった。


「ありがと」


「いただきます」


 鳳香と真希は紗理奈が煎れてくれたお茶を受け取り、飲み始めた。


 緊張感を終始維持している立花大尉とかとは違い、三人はのんびりとくつろいでいた。


「余裕があるのか?」


 その三人の様子をじっと見守っていた立花大尉がそう声をかけた。


「そうでもないよ。緊張はしてるけど、開き直ってるだけかな?」


 真希はお茶を一気に飲み干し、おかわりを紗理奈に要求しながらそう答えた。


「これが格の違いか。私など、先ほどから手が震えている」


 立花は手をかざして、鳳香達に手の震えを見せた。


 武者震いなのか、恐怖からなのか、手が震えてしまっていた。


「戦いは嫌いですか?」


 鳳香がその手を不憫そうな目で見ながら、そう訊ねた。


「好きと言えば嘘になる。だが、嫌いではない。同期の奴らや上官が次々と二階級特進していくのは見たくはない。ただそれだけなのかもしれない」


 手を引っ込め、悲哀に満ちた目を鳳香達に向けた。


「なら、今回の戦いで勝つしかないね」


 紗理奈からお茶を受け取った真希が、それをまた一気に飲み干してそうきっぱりと言い切った。


「勝利の鍵はあなた方だ。私達は支援しかできないのが歯がゆい」


「仕方ありませんよ。あの敵は科学だけでは打ち破れません」


 鳳香がそう断定すると、


「仮にそうだとしても、私たちは職務を全うしなければならない。尻尾を巻いて逃げるなんてできない。もし、そんな事をしたら、愛娘に顔向けできやしない」


 立花は胸のポケットからしわくちゃになっている一枚の写真を取りだし、鳳香に手渡した。


 その写真には、立花の他に今年三歳になった子供と立花の妻が写っていた。


「可愛いお子さんですね、名前はなんと言うんです?」


「真奈美っていう名前だ。真奈美のためにも、あんな無法者達を放っておく事はできないんだ。何の思慮もない未来図もない奴らが支配する日本を見せたくはない」


「だったら、今回の作戦で徹底的に叩きつぶすしかないよ」


 真希が賛同の意を示すると、


「今回で終わらせる……それがいい。親バカといわれるかもしれませんが、この戦いが終わったら真奈美と遊ぶって約束しているんだ」


「でしたら、今日終わらせるのがいいですわね。そうしたら、いっぱい遊べますよ」


「そうだな、そうなればいいんだが……」


 そう言いかけたところで、立花が隊員の一人に声をかけられた。


「立花大尉」


「どうした?」


 立花は上官としての態度に戻り、声をかけてきた者を見た。


「舞鶴港のイージス艦および、日本海に停泊していたはたかぜ、たちかぜのミサイル攻撃開始されました」


「……始まったか」


 立花はすぐに自衛軍としての顔に立ち戻った。


「その五分後に多連装ロケットミサイル部隊が攻撃予定です」


「陽動作戦か。ならば、急ぐしかあるまい。これより作戦通りに行動する。で、横田基地の部隊はいつ出撃予定だ?」


「横田基地の部隊は第一部隊、第二部隊が沈黙から十分後に出撃予定です」


「そうか、分かった」


 報告を聞き終えて、深いため息をついて目を閉じた。


「これってどういう事なの?」


 聞いていた作戦行動と違う内容であったので、真希が驚いて立花に訊ねた。


「作戦内容が事前に漏洩することを想定して、本当の作戦は口頭でなされていた。今回の作戦は、イージス艦、ロケットミサイル列車、空軍は長門の戦力を分散させるためだけのものだ。この部隊のアパッチなどもしかり。長門付近にいるロメルスを引きつけさせ、警護を手薄にさせるのが目的だ」


「そのような事をしなくても立ちふさがる者すべて撃破すれば……」


「それではダメだ。あの長門がただ浮いてるだけの要塞とは考えにくい。何か切り札を持っていると想定される。雑魚に手こずり、長門撃墜が遅れれば、その切り札を使われることにもなりかねんというのがトップの判断だ。空中浮遊要塞などというものは、クーデター軍以外開発した前例がないのだから当然の判断だ」


「だから、長門単体を狙うって事にしたんだね」


「短期決戦ですわね」


 鳳香も、真希もこの作戦の意味を理解した。


 窮鼠猫をかむの言葉通り、切り札を無差別に使用された場合、どれだけの被害が出るか分からないということなのだ。


 相手の戦力が未だに未知数であるため、どんな兵器を隠し持っているのか予想できない。


 そのために、切り札があるなしに関わらず、反撃のチャンスを与えずに攻撃をしかけるということだ。


「我が自衛軍はロメルスを撃破することさえままならん。だとしたら、時間稼ぎに徹するしかないのだよ。これが戦争という物だ」


 やりきれないといった表情をかいま見せたが、すぐに平生の顔に戻った。


「さて、私は任務に就くとしよう。あなた方はこれに乗ったまま進行してください。我々はこれより予定通りの作戦行動に移る」


 トラックが停車し、隊員達が下車し始めた。それに続くようにして、立花も降りようとする。


「立花さん、写真を」


 渡されたままになっていた写真を返そうと鳳香が差し出したが、立花は振り返りもせずに、


「私の代わりに持っていてくれ。私が持っているとなくしそうだ」


 と言って、トラックから降りてしまった。


「……」


 鳳香は手を引っ込め、改めて写真を見つめた。


「幸せそう……」


 その呟きを聞いて、真希と紗理奈が興味を示して、写真をのぞき込んだ。


「可愛いね、この子」


「家族っていいものですよね~」


 三人はしばらくその写真に見入っていた。トラックが発車したことに気づくこともなく……。




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