戦士達の休息 第五話
ドスン、という轟音と共に学院が縦に激しく揺れた。
机の上などに置かれていた花瓶や筆箱が揺れの激しさ故に落ちたりした。
それに加え、歩いていた者が幾人か突然の事に反応できず、尻餅をついたりした。
地震でも起こったのかと思い、皆が息を飲む。
教師はすぐさま机の下に隠れるよう指示を飛ばし、混乱は起きはしなかった。
「敵?」
適当に授業を聞き流していた涼城真希が、すぐさまこの異変を察知した。
九鬼鳳香を見やると、同じ事を感じたらしく、もう目つきが鋭くなっていた。
「おそらくは」
鳳香と真希以外、机の下に隠れているので、教室はシンと静まりかえっている。
窓の外で大きな影がヌッと動いたのを見逃しはしなかった。
「俺はクーデター軍のエース岡田三郎だ。下手に騒いだりしたら、人間程度なら一瞬で蒸発しちまうからな」
真希と鳳香は聞き覚えのあるその声にやれやれといった表情を見せた。
そんな三郎の声を聞いて、教室内がざわつき始めた。
「静かになさい!」
教室内に黒金夏美の声が響いた。
「クーデター軍程度で動揺するなど愚の骨頂ですわ」
そう言い放つと、教室のざわめきがピタリと止んだ。
「俺は要求する。魔法少女どもがここにいるんだろう? 出て来いよ。殺してやるから。出てこないようなら、この学校を破壊する。分かったか!」
真希と鳳香は見つめ合い、息を合わせたように同時に頷いた。
「あなた方は出る必要はありませんわ」
立ち上がろうとしたところを、夏美が手で制した。
「はい?」
「どうしてですの?」
出鼻をくじかれ、鳳香と真希はまた顔を見合わせた。
「あなた方が出ると死人が出過ぎますわ。引っ込んでなさい」
と、夏美は恨み辛みを込めたように嫌味ったらしく言った。
「な、なんだと!」
真希はさすがに癪に障って、椅子をガタっとさせて勢いよく立ち上がった。
「先生、裏口から皆を誘導してください。他の先生にも同じ指示を」
先生が夏美の指示に従い、教室からそっと出るよう言った。
それに従い、教室にいた生徒達が廊下へと出ていく。
「何を……」
真希が抗議しようとしたが、
「一分、私が時間が稼ぎますわ。あなた方も準備なさい」
と、真希と鳳香にとって信じられない事を言い出した。
「何を言ってますの? 私達が出ればそれで済むことでしょう?」
「お前こそ、逃げたらどうだ?」
そんな二人の抗議を夏美が鼻で笑い、
「戦うのを一分待っていろと言ってるんですのよ?」
まだ何か言い足そうな顔をしていると、ジャージ姿の男女が五人ほど教室に駆け込んできた。制服は着ていないようだが、ここの生徒であった。
「夏美さん、シェルターの方への誘導完了しました。地域住民の方はまだですが……」
「分かったわ。一分程度稼げば、その間に避難してくれているに違いないわ」
夏美は鳳香と真希をキッと睨み付け、
「私は反対したんですのよ。この学院にあなた方が来ることを。だって、ここをクーデター軍が襲撃してきたら、同級生がたくさん死んでしまいますもの」
夏美の傍に立った、同い年くらいの学生服を着た少女からハンドガンを受け取り、安全装置を外した。
「あの様子ですと、あなた方以外眼中にないようですから安心してますわ」
夏美は窓から見える機体の一部を忌々しげに見つめた後、教室を足早に出て行った。
「魔法少女! どこにいる! 隠れてないで出てこい!」
外からそんな大声がまた聞こえてきた。
「どうしましょう?」
鳳香が困った顔をして、真希に意見を求めてきた。
「勝手にやらしておけばいいんじゃない? やるって言ってるんだし」
「……ですけど」
「守りたいものがあるけど、ボク達が出ると守れなくなるのなら、彼女の言う通りにするしかないでしょ」
真希は時計に視線を固定させて、夏美が言っていた『一分』をはかり始めた。
「……あれ? どうして出ないんです?」
二人の会話が終わって、沈黙が支配しかけていたところで、松島紗理奈が入ってきて、不思議そうな顔をして二人を見つめた。
「事情があって、一分ほど待つことになってる」
真希がおおざっぱな説明をすると、
「事情があるんですね~」
何かあるんだろうと勘ぐった紗理奈は分かったような、分からないような、そんな顔をしたが、何かを思い出したようで、いつも通りの表情に立ち返り、
「あ、そういえば、朝、私達に突っかかってきた感じの悪かった黒金夏美さんなんですけど、お父さんがクーデター勃発時に死んじゃったそうです。それで、お兄さんが三人いたんですけど、三人とも二回の戦いで戦死しちゃってるそうで……」
それを聞いて、真希は時計から目を外し、鳳香に合図を送る。
「あいつら、死ぬ気だね。きっと他の奴らも同じ境遇だろう」
「……おそらくは」
「そう簡単に死なせてやるかよ。そうだろ、鳳香?」
「当然」
「夏美って言ったっけ? 性格悪いな、あいつは」
「ええ、悪すぎですわ」
真希と鳳香は同時に窓の外を見た。
そして、真希は鉢がねを、鳳香は御札を取り出した。




