戦士達の休息 第三話
真希達が御鏡学院に初登校している頃、長門に一機のロメルスが納品された。
これまた大阪ジャガースのチームカラーに塗装された特注モデルだ。
新高山重工業大阪工場に幾人もの技術者が集い、わずか二日にして設計・開発したのであった。
日本のトップクラスの技術者が十数名集まり、大阪工場の技術力を総動員しての製作でもあるためか、突貫作業を感じさせない完成度を誇る機体が開発されたのであった。
「アンチマジカルコーティングが装甲にしてあります。この装甲である程度の魔法は防ぐことができると思われます」
開発部主任が格納された新型ロメルスを前にして、そう説明し始めた。
その説明を田中三郎、三好秀吉、春日井さくらが聞いていた。
新高山博士はアンチマジカルコーティングをさらに研究したいからと工場の研究室にこもりっきりになっている。
他の開発者も利益を出さなくてもいい研究を好き放題できるからと、新高山博士と一緒に研究室にこもっていた。
「その効力は?」
と、秀吉がそう質問した。
「アンチマジカルコーティングは、魔力というものを中和する作用がある『草薙の剣』という神器に施されていた技術を応用したもので、五秒程度の魔力の直撃でしたら回避できます。それ以上の直撃となると、コーティングがはがれてしまい、機能しなくなります」
「……草薙の剣ですか? 神代の技術なんですね?」
さくらがそう確認すると、
「ですね。おかしな話ですが、その辺りの技術は現代よりも遙かに優れていたようです。当時どういった科学が発達していたのか興味あるのですが、調査しようがありませんね」
開発部長は目をキラキラと輝かせ、そう口にした。技術者として興味があるのだろう。
「人知を越えた何かがあったのでしょうね。今の我々には、それが何であったのか全く想像できませんが」
「俺にゃ、どうでもいい」
三郎は耳を指でほじりながら、話を早く進めてくれと言いたげな態度であったが、
「アンチマジカルコーティングは、未知数ということですよね?」
と、さくらが突っ込んだ質問をする。
「ええ。我々は魔力なんてものを使えませんから。それに似せた物で、データ収集だけはしていますが」
「ギャンブル好きね」
「二日間で完成させましたし、百パーセント成功するはずはありません。これはあくまでもデータ収集用のプロトタイプです。得られたデータによって、百パーセントを目指すのです」
「……データは早めに欲しいのか?」
三郎は納品されたロメルスの前まで行き、その機体をなめ回すように見つめた。
「可能であれば。その方が次の段階に早く移れます」
「……そうか。なら、今日出るか。用意するように言っておいた武器はできるよな? できてないとは言わせないぜ」
「……魔法少女専用バットですか。それでしたら、できています。そちらにも、アンチマジカルコーティングが施してあります」
「ふふ、できてるか。甲子園が」
開発部主任に発注する際、
『ロメルスが持てるバットを作ってくれ。でっかく甲子園って書いてある奴をな』
と、言っておいたのだ。
「はい、発注通りに作ってあります。あれでしたら、魔法少女を場外ホームランできることでしょう」
冗談のつもりなのか分からない事を言うと、三郎は軽快に笑い出した。
「カッカッカッカッ、やってやろうじゃないか、場外ホームランって奴を! 甲子園球児としてエースで、三番打者だった実力、発揮してやるぜ!」
胸を張り、自信満々にそう叫んだ。
「すぐに出ますか?」
水を差すのをためらっていたさくらが、武者震いをしてロメルスを見上げたままで固まっている三郎にやっと声をかけた。
「当然だ!」
興奮しきってるようで、手までもが震えている。
「でしたら、首都決戦を提案しますよ」
「本丸か。やっと本丸を攻めるんだな!」
その言葉に興味を示して、三郎がさくらを真正面から見つめ出す。
「地上から進むと自衛軍の妨害を受けるので、空から行きましょう」
「空だと?!」
三郎はさくらの小さな肩を乱暴に掴んで、そう驚きながら叫んだ。
「はい」
「どんな方法なんだ?!」
さくらの言葉が待ちきれないようで、さくらの身体を力任せに揺すり始めた。
「弾道ミサイルを東京に向けて打ち上げます。そのミサイルにロメルスが乗ればいいんです」
身体を揺さぶられたまま、舌をかむことなく、さくらはその淡々と述べた。
「そんな作戦では……」
開発部主任が止めたそうな表情を見せるが、
「たとえ、ミサイルが撃墜されたとしても、ロメルスは傷一つつかないですよね?」
にっこりと微笑んだ顔のまま、主任を威嚇して有無を言わせなかった。
「首都東京を狙うにしてもどこを?」
「国立御鏡学院です」
さくらは情報をもう入手していたのだ。魔法少女がどこの学校に通っているのかを。




