戦士達の休息 第一話
『大阪ジャガースの試合が六連戦あるため、クーデター行為は一時休止いたします』
そういった内容がしばらくの間、テレビやラジオなどで流された。
一連のクーデターで被害を被っている人たちはその報道を見た瞬間、怒濤のごとく怒り、政府に抗議などをし始めた。遊びか何かか! そう怒鳴った者は少なくはない。
「こいつら、何がしたいんだろ?」
涼城真希は松島紗理奈がさきほど持ってきた学校の制服を着たまま、ソファーで横になりながらそうぶっきらぼうに言った。
見ていたテレビでそう報道されたから、当然の疑問といえた。
「さあ、分かりかねます」
九鬼鳳香はこれまた制服にその身を包み、その姿を鏡で確認しつつ、真希を見ずにそう答えた。
二日前、国会で真希と鳳香をこのクーデターを鎮圧するまで日本国民として迎え入れる法案が成立した。
その成立が通ったことで、二人が日本人としての義務を負うことになったのである。
そこで一時的に学校に通うことになったのであった。
国立御鏡学院という名門中の名門に通うことも決まった。
しかしながら、神器の使用に関しては上層部への許可を取り付けるという制約が付いており、まだ信用はされてはいない。
「大義なんてものはないのかもね」
「おそらくはそうでしょう。理想などはありはしない、強大な力を手に入れた者の暴走といったところでしょうね」
「そんなんで人がたくさん死んでる。やりきれない話だよね」
「何かしらの感情はあるかもしれませんけど、私には想像できません」
鳳香は鏡と向き合い続け、制服姿を何度も確かめている。
スカートの裾が短すぎるような気がして神経質になっていた。
一方、真希は制服に皺ができたりすることや、スカートの中が見えてしまっていることなど気にせずにテレビを見ている。
「この制服、似合ってますでしょうか?」
不安げな表情を見せながら、そう訊ねるが、真希はチラッと見ただけで、
「それでいいんじゃないの?」
と、投げやりに答える。
「真希さん、身だしなみに気を遣った方が……」
「いいの、いいの。ボクは着る物だとか気にしないから。風来斬の理いわく、風を我が衣となせ。風こそが最上の衣服って事だよ」
風こそが最高の衣服であり、最強の防具であり、最強の矛でもある、と真希が体得している武術ではそう教えている。
衣服などは風の流れを阻害することもあり、身につけるのをよしとさえしない。
「それは分かりますけど、私たちは女の子ですし」
それに対して、鳳香が体得している『御紙之魁』は、すべての物に己の生命力を注入することができるためか、衣服などは極力気を遣うべきだと教えている。
その衣服が己の命を守ることがあるからだ。
色分けしている御札を使っているのは方術を単純化するためであって、それしかできないというわけでもない。
「戦いに男か女かなんて関係ある?」
「……ないような、あるような」
と、鳳香は言葉を濁す。
守人四十七士になるための修行では、性別などで区別された事などなかった。
「でしょ? ボク達は任務を遂行することだけに専念してればいいんだよ」
真希はそう言って上半身を起こし、ソファーの上であぐらをかいた。
「お姉様! 早く学校に行かないと遅刻しちゃいますよ」
これまた制服を着た紗理奈がドタドタと部屋に入ってきて、ぜえぜえと肩で息をしながら、そう訴えかけた。
「遅刻してもいいじゃない」
「遅れると何か問題でも?」
真希と鳳香は別段問題視する様子もなく、のんびりと受け答える。
「今日が初日ですから、えっと……遅刻しない方がいいかなって思って……」
紗理奈の言葉は歯切れが悪い。
「いいの、いいの、どうせ一時的なものでしょ? あのクーデター軍を倒したら、うちらはまた空母生活に逆戻りでしょ? まじめにやる必要はないって」
「そうですわ。空母生活へと逆戻りするかもしれませんから、優等生に振る舞う必要はありませんわ」
真希も鳳香も、学園生活を満喫する気はサラサラなかった。法律を勝手に押しつけられる筋合いはないのだが、長より政府より命じられた事は守るようにと言われている。二人は律儀にもその命を守ろうとしているに過ぎない。
「じゃ、飛ばしますから、準備はいいですか?」
そう確認してきたので、真希はソファーから離れ、鳳香も鏡から離れ、紗理奈の側に立った。
「いいよ」
「何も問題はありません」
二人がそう言うと、
「祝詞を記し旋律、出てきて」
そう言って右手を差し出すと、紗理奈の手のひらに一冊の黒い本がのっかった。その本を開き、ページをめくっていった。
「ここよっ!」
とあるページで止め、
「我の代わりに言霊となりて、その意義を示せ。時は時であり、場は場である。その法則を言霊によって改革する。我の時と場所を願う場、願う時へと誘え!」
と、唱えた。
手にしている本がパッと砕け、周囲に青い炎がほとばしった。その炎は三人を包み込み、そして、炎が消えると同時にその姿も消えた。




