第三章 対等なる者 第十二話
長門のブリッジのドアが開き、岡田三郎が颯爽と入ってきた。
「魔法少女って奴らは、見かけは美少女なのに中身はえげつないな」
そこにいたのは、三好秀吉と春日井さくらで、二人とも、三郎の顔をじっと見つめた。
「俺の顔に何かついてるのか?」
三郎にその視線の意味が分かるはずもなかった。
「よく生還できましたね」
さくらが不思議で仕方がないといった表情で言うと、
「俺がエースだからな」
白い歯を見せつけるようにニヤリとして見せてそう言い切った。
「答えになっていません」
「エースに理由などいらないんだよ」
「それでも答えになってませんから」
「……そうだな。エースというものは、どんな危機的状況でも諦めなければ、生き延びる事ができるものだ」
「……はぁ?」
要領の得ない返事をし、さくらはしきりに首をかしげた。
「次は勝てそうですか?」
今度は秀吉がそう訪ねると、
「機体の性能が上がったとしても無理だろう。今回は奴らが油断していたからなんとかなっただけだ。次は勝てる気がしない」
さっきまでの表情とはうってかわって、真剣な顔つきになって、三郎はそう答えた。
「それでも戦いますか?」
「ああ、俺はエースだからな。死ぬのならば、前のめりに死にたい」
「死ぬまでエースであり続けたいと?」
「その通りだぜ! マウンドを降りた俺の活躍の場所はコックピットの中なんだぜ」
「完敗であったとしてもですか?」
「そうはいかないぜ。確実に一矢報いる。やれる事はすべてやるつもりだぜ」
何か秘策ありげに、三郎は不敵に笑った。
「作戦でもあるのですか?」
秀吉が興味を示して、そう訊ねる。
「あの長い髪の巫女さんは御札に何かしらの力を込めてるな。取り出して、発動させるまでの間に隙ができる。狙うなら、そこだ」
「ほう」
聞いているだけであったさくらが目を見開き、驚いていた。三郎をただの熱血漢としか見ていなかったからだ。
「機動力さえあればなんとかなるな」
「さすがはエースですね」
「だが、もう一人がどんなのを使うかわからねぇからどうしようもないな」
エースの条件。
それは相手の弱点などを数回の対戦で見定め、そこから活路を見いだすことと言っても過言ではない。
三郎もそういった洞察力に長けている。
「それでしたら」
さくらはモニターに向き合い、真希にすべて撃墜された弾道ミサイル『大和二式』の先端に取り付けてあったカメラで撮られていた映像をブリッジにある大型モニターに映るよう操作した。
「この少女は風使いか」
カメラが機能しなくなる一歩手前までを見て、そういった答えを三郎が出した。
そう言った後も、モニターを見続け、考え事をしていた。
「言動がその人の能力を決定づけるのではないんですね」
「人は一長一短ですよ」
「これは先天的な判断力でしょうか?」
「戦うことに命をかけてきた男の執念でしょうね」
さくらと秀吉が話をしているが、三郎には全く聞こえていないようであった。
自分の話だというのに全く反応せずに、モニターにかじりついている。
「……バットだ」
しばらくしてから、三郎がモニターを見たままそう断言した。
「バット?」
「バットですか?」
さくらと秀吉はほぼ同時にオウム返した。
「この風、打てるはずだ」
自信満々の笑みを口元に刻み、モニターから目を離した。




