第三章 対等なる者 第十一話
真希はビルの屋上から全方位を見回していた。
「ミサイルどこから飛んできてる?」
傍にいる紗理奈にそう訊ねると、あたふたと慌てながらも、とある方向を指さす。
「あっちか」
紗理奈の指し示す方を見て、不敵な笑みをこぼした。
「見えた!」
目を細めて、会心の笑みを浮かべる。
「すぐに片づけてくるから、ボクのと鳳香の分のアイス、買っておいて。もちろんバニラをね。ラクトアイスじゃ駄目だからね」
「は、はいっ!」
「行ってくる」
真希はグッとかがみ込み、地面に体重をかけていき、バネの要領で一気に空へと飛び立った。
真希の身体は打ち上げられたロケットであるかのような勢いで上空へと上がっていく。
ある程度の高さまで来たところで拳を前に突き出すと、波紋が広がるように大気が震え、ブレーキがかかった。
「風来斬。その五の風、旋風烈」
深呼吸をし、息を一気に吸い込んでから、呼吸とともに、その風をはき出す。
そのタイミングで拳を前へと繰り出すと、小さなトルネードがその拳の先にすっと生まれた。
「なぎ払え!」
空中にとどまったままの状態で、身体をクルッと一回転させて、トルネードをサッカーのボールを扱うように蹴り飛ばした。
小さなトルネードは本物のボールであるかのように飛んでいく。
その軌道に沿って、目で見えるほどの風のうねりが生じ、大型の竜巻へと変貌していった。
空に広がる白い雲を突っ切りながら、天へと一本の線となって竜巻は上昇していく。
大気圏に到達し、落下を開始しているミサイル群の辺りまで竜巻が達すると、その先頭が停止し、後から来る竜巻を飲み込みながら、大きな玉へとなっていく。
最後の風のうねりをも飲み込み、一つの風の固まりと変貌した。
「逝って」
そのタイミングを見透かしたように、真希はパチッと指を鳴らす。
すると、それに連動するように風の固まりが爆発を起こした。
周囲を飛んでいるすべてのミサイルを飲み込み、かまいたちのように切り刻む。
終いには、爆発が至るところで起こり、さらにその風を生み出していく。
「全部撃墜できたかな?」
ミサイルが一発も落ちてこないのを確認すると、真希は目を閉じて全身から力を抜いた。
真希は重力に従って下に吸い寄せられるようにして直下し始めた。
「バニラアイス、楽しみだな……」
幼さの残った表情で、頬をゆるませながらそう呟くと、真希の身体の落下速度が緩やかになっていった。
真希が体得している『風来斬』は、風を操る格闘技であった。風と友になり、風と共に戦うのを教義としている。虚ろの民の中でのみ代々受け継がれているものでもあり、神代の時代に生まれたものでもあった。
「今日は物足りなかったよ。鳳香がいいところ、持っていっちゃうんだもん」
すねたような表情を見せながら、ゆっくりと、ゆっくりと地上へと降りていった。




