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戦士以上、魔法少女未満の少女達  作者: 佐久間零式改
第三章 対等なる者
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第三章 対等なる者 第八話

「……さて」


 鳳香はまだしっかりとその形を残している四車線ある道路に降り立った。


 背中の翼が光の粒となって消え去る。


「本気で行かせてもらいますわ」


 赤の御札の束を左手に、黒の御札の束を右手に掲げると、その束が一気に燃え上がり、消え去った。


 余裕など見せてはいられないとの思いがことのほか強い。


「本気だと! 舐められたものだ!」


 ロメルスが足の裏のキャタピラを使い、鳳香との距離を狭めていく。


 その様子を鳳香はいつもと変わらぬ調子で眺めていた。


「せっかちさん」


 朗らかな笑みを見せ、構えなどせず、三郎の機体が迫ってくるのを他人事のように傍観していた。


「恨みっこ無しだ!」


 眼前まで来てからの一閃。


 寸前のところまで振り下ろした時、刀の刃から炎が発生し、ナイフ自体が紅蓮の炎に包まれる。


「な、なにっ!!」


 三郎の狼狽がスピーカーより垂れ流された次の瞬間、ナイフがドンッという音と共に爆発した。


「どうかしましたか?」


 鳳香の口元に残酷な笑みが垣間見えた。


「ちっ」


 舌打ちし、三郎は飛び退き、鳳香との距離を再び取った。


「私に攻撃すればするほど、痛い目を見ると思いますわ」


 一変の曇りもない純真な目で三郎の事を射すくめる。


「面妖な技を使うな。見えない機雷の障壁のようなものか。だとしたら、やり方はある!」


 三郎の分析は当たっていた。


 鳳香が作り出したのは、触れると炎上し爆発する結界のようなものだ。


 守りと攻撃の魔力を込めた御札を多用するとできる技でもある。


「そこまで言うのでしたら、やって見せていただきたいですわ」


 赤い御札の束をまた取り出し、


「花鳥風月」


 緑と赤の混在した炎がその束を燃やし尽くし、炎が鳥の姿に変化して空へと飛び立った。


「女ッ! 面白い手品だな!」


 三郎は壊れたナイフを捨てた。残っているもう一本のナイフを内部に終い、背負っているショットガンを抜いた。


「九鬼鳳香という名がありますの。死にゆく貴方が記憶にとどめておく必要はないのかもしれませんが」


 炎の鳥が三郎目がけ、炎の粉を周囲にまき散らしながら向かっていた。


 三郎は正面を鳳香に向けたまま、キャタピラのみで後退し始めた。


 ショットガンを炎の鳥に向け、引き金を引く。


 鳥を撃ち抜くが、炎の粒が四散するだけであった。そして、もう一発。これもまた着弾したが効果はなかった。


「手品ではありませんわ」


 背中にまたしも翼を生やし、空から逃げていく三郎を追いかけた。


「だが、コントロールが甘い!」


 三郎は一戸建ての家々を押しつぶしながら、後退し始めた。その先には、ビル群がある。


 敵も考えて行動していると分かり、鳳香は焦った。魔力を増強して炎の鳥の速度を上げさせるが、それでもまだ追いつけない。


「この駆け引き、俺の勝ちだな」


 とうとうビル群の中へと入る事が出来た三郎は、そう高らかに宣言した。


「くぅ……」


 炎の鳥が一直線に向かった先には三郎がいたが、大型のビルの影にサッと身を隠す。


 そのせいか、炎の鳥はビルに激突し、爆砕した。


 その爆発に耐えきれなくなったビルがガラガラと崩れだし、辺りに埃をまき散らした。


「九鬼と言ったか。強いのは分かる。だが、それが本気か?」


 砂埃が立ち上る中からゆっくりとその姿を現した。


「今までの雑魚とは違う……そう言いたいのかしら?」


 鳳香はここまで苦戦するとは思ってもいなかった。


 本気を出すと思いながらも、心のどこかで相手の事を侮っていたのかも知れない。


 もし、そうだとするのならば、それは私自身の心の弱さだと感じた。だが、最後の切り札でもある神器を使うのは禁じられており、出すに出せなかった。


「他のパイロットを雑魚だと言っている時点でお前は負けている。力の差が歴然だとしてもだ!」


「……そうかも知れませんわね。私があなたの事を軽く見ていたとしたら、それは失礼に当たりましたわね」


 鳳香は目をそっと閉じ、胸元より一枚の御札を取り出す。それは、金色に輝く不思議な御札であった。


「これはあまり使いたくないのですが……」


 それは本心だった。


 見た目があまりにも破廉恥すぎた。


 一度鏡で見た事があるのだが、自分ではないように見えた。


 それ以来、この御札を使う事はなかった。それに、この御札に生命力を込めると、丸一日寝込んでしまうから、あまり作りたくはないというのが本音だ。


「それで本気が出せるのなら使え。エースにエースをぶつけてこないのは臆病者のすることだ」


「そこまで言うのでしたら……」


 鳳香は覚悟を決めて、その金色に輝く御札を銀色の炎で燃やした。


 銀色の炎は御札を燃やした後も大気中に残り、鳳香にまとわりつき始める。


「その昔、天之岩屋戸にこもった天照大神の興味をひくために、アメノウズメが裸になり舞ったと言われております。これはその装飾のようなもの……」


 銀の炎はやがて巫女服を焼いていき、すべてを焼き尽くした。だが、銀の炎は胸などといった大事な部分だけを隠すように留まり、燃え続けている。


「ここからが本番ですわ。御札を使った手品はもう終わりという事で」


 この姿でいる事自体恥ずかしい。


 立っているだけで頬が紅潮してくるが、今はそういった事を気にしてる時ではない。


 どれだけ動こうとも、銀の炎は同じ位置にあり続ける。それが分かっているだけにある程度は安心できる。


「……美しい。惚れそうだぜ、お嬢ちゃん!」


 間を置いて、三郎が歓声を上げた。女からいつのまにか『お嬢ちゃん』に変わっているのが珍妙だった。


「お褒めの言葉、ありがとうございますわ。ですが、この姿を見たからには死んでもらいますわ」


 鳳香はいつもと変わらない明朗な笑みを浮かべると、その姿が残映であるかのように消えていった。


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