第三章 対等なる者 第五話
十階建てのビルの屋上が青い炎で包まれた。
風が吹いているというのに、その炎は揺らぎもしない。それどころか、広がりさえしていた。最後とばかりにひときわ燃えさかった後、青い炎は収縮するように消滅した。
そして、そこに三人の少女が降り立った。
転送魔法でここまで来た鳳香、真希、紗理奈だ。
「さてさて、敵は……っと」
真希が屋上にある柵の方へと進んでいき、周囲に目を配った。
「煙が上がってるし、建物がところどころ破壊されてる……大暴れしたって感じよね……」
鳳香も真希に倣い、眼下に広がる風景を目を細めて眺めた。
町並みはもう見ていられないくらいに破壊されていて、人が住めるとは思えないくらいになっていた。
「煙が上がっているのは一カ所ではありませんわね。時間稼ぎをしていてくれたのかも知れません。退却しても良かったのに……そう命令が出ていたはずのなのに……」
平静を装うが、鳳香の目が悲しみの色に染まる。
「……その思いに応えるためには、ロメルスを倒しかない。そうでしょ、鳳香?」
真希は悲しみを堪え、肩を振るわせていた。
戦場で死ぬことも、誰かが死ぬのも、誰かを殺すのも、もうとっくの昔に覚悟していた。
だが、自分たちのために誰かが命を張ってくれるのだけは想定していなかっただけに複雑な思いが去来している。
鳳香はそんな真希の表情を見て、思いを共感してるのを知り、心強く思った。
「……ええ、その通りですわ」
鳳香も真希もまだ子供だ。
感情に流れてしまう事も間々ある。
それは二人とも十分に理解しているものの、抑制の手だてを知りはしなかった。
「紗理奈、自衛軍で誰か残ってない? 通信したいの」
真希は紗理奈の方を顧みて言った。
「分かりましたっ! 出てきてっ! 祝詞を記し旋律」
喜々として紗理奈は本を虚空より出現させ、
「我が想いし人と場所と時を超え、我と交信させ給え」
紗理奈が手にしていた本が破裂するように光を四散させながらはじけ飛んだ。
拡散した光の粒は四方八方に飛び立っていった。どこまでもどこまでも飛んでいき、次第に光自体が見えなくなるほど小さくなっていく。
飛んでいった光の粒子が自衛軍の隊員を捜し出す。誰かを見つけるとその隊員に付着し、通信できるようになるのだ。
魔法少女であれば誰でも使える物ではあるが、戦闘の前に無駄なマナを消費するわけにもいかず、紗理奈にやってもらったのだ。
「三十数名生き残ってるみたいですよっ」
紗理奈がホッと胸をなで下ろしつつ、安堵の息をついた。
鳳香も安心したようで、ふぅっと息を吐いた。
「なら、伝えて。ボク達がロメルスと戦闘し始めたら、全員この場所から離れて、って。じゃないと、戦いに巻き込まれる」
さきほどわき上がっていた怒りなど微塵も感じさせない表情を見せ、ニカッと笑って見せた。
「暴れる気なんですの?」
という鳳香の問いに、
「当然」
さらりと答えた。
「!!」
不意に紗理奈の顔が険しくなった。
「敵が来ますっ。大阪ジャガースっぽい塗装をしたロメルスだそうです」
真希があからさまに不思議そうな顔をした。
「何それ?」
「でもでも、立花大尉という人からそういう報告があったんですよっ」
と、困った顔をして紗理奈が答える。
「外見は見れば分かるそうです」
二人の間に割って入り、鳳香が女神のような微笑んだ。そういった報告が来ているのであれば事実に違いない、と冷静に思っている。
「……それもそうだね」
納得した様子で、何度も首を縦に振る真希。
鳳香は目をクリクリと動かして、敵の姿を探し始める。キラリと輝いているのをとある方向で確認するまで、あまり時間はかからなかった。
「真希さん、来てみたいですわ。あちらの方に光が!」
鳳香がその方向を指さした。
何かが高速で近づいてきている。空を飛んでいるのではなく、道路を高速で移動していた。かかとにあるキャタピラをフル稼働させて、鳳香達の方へと迫ってきている。




