実験したけど、失敗するのは当然だよね!
「おっ! レト、どうだった?」
と俺が帰ってきて顔を見せると目を輝かせるのは、俺の父さんだ。
「色々としんどい体験だったよ……」
うるさい奴に絡まれるのはそれはもう面倒だった。言い返せば殴りかかって来て、黙っていても殴りかかって来て、いなす事に集中したのは初めてだったからな。
「だよな! 母さんはあの痛みを体験してないから共感してくれなかったんだよ。これで俺にも家族に仲間が……」
「え? 痛みってなんのこと?」
「ははは、意地を張らなくてもいいんだぞ。……それで、何分で目覚めたんだ? 俺か? 俺はなんと三分という国家記録を取った。その息子はそれを越えてくると俺は予想している。……で、何分だった?」
ステータス授与の時の胸の痛みのことか? あのせいで絡まれることになったからな……正直、気絶した方が楽だった気がする。
「ああ、あれか。倒れなかったよ?」
「そうか、倒れなかったのか流石は息子。俺の記録を三分も……はぁ? 今、倒れなかったっていったか?」
「ええ、レトちゃんともう一人以外はなんかぐったりしてたわよ? 流石はレトちゃんね」
と、二階から遅れて降りてきた母さんが言った。
「いやいやいや。レティアは向こうで育ったから経験してないのは知っているが、あれで気を失わないのは王族、しかも二、三代に一人くらいだぞ? 母さんの血を受け継いでいるとはいえ……いやしかし……」
考え込んでしまう父さんを尻目に母さんに気になっていたことを聞く。
「気になってたことがあるんだけどさ、家の家系ってどうなってるの?」
「家系? 言ってなかったかしら?」
「はぁ……聞いてないよ。わざと……じゃないよね、そうだよね」
母さん、たまに天然だからな。
「えっと、まず私とお父さんからレトが生まれました」
「それは知ってる」
「お父さんの方はよく知らないから分からないけど、貴族っていう家柄らしいの。私はハーフエルフで、私のお母さんがエルフでお父さんが人間なの。エルフの里で暮らしてたけど、お父さんと結婚することになって、こっちに来たの」
つまりはハーフのハーフで俺はクォーターってことか、耳が尖ってる覚えは無いんだけどな。
その日は疲れていたので、夕食を食べるとすぐに眠りについた。
「んっ……うん? 今は何時だ?」
目が覚めて背伸びをする。窓から入って来る光は弱々しく、まだ日は昇っていない事を告げている。
少しずつ目が覚めて来たのか視野が広がり、少しの寒さを感じる。
じっくりと見ていなかったステータスと、そこに記されてあった本についてどうにかしようと思い、ベッドに座り込む。
「『強欲の書』ってどこに……わっ!? ビックリした」
急に膝に重みが掛かったので心臓が跳ねたがそこにあった懐かしき本を見て納得する。
「お前なぁ、どんだけ探したと思ってんだよ。『強欲の書』としてステータスに埋め込まれてたとか、俺の苦労が水の泡じゃないか。……はぁ、まあいいんだけどね。それよりも、だ。『ステータス』」
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名:レト 性:アルトレア 年齢 5
HP 300/300 MP 50/50
体力 70
筋力 60
魔力 130
敏捷 40
技能 80
物理耐性 240
魔法耐性 20
スキル 自動HP回復(小)・痛覚軽減(大)
固有魔法 魔力操作(使用魔力量軽減(特大)・パワー・レジスト)・強欲の書・討伐の書
称号 転生者
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「いろいろと調べるか……。まずは、『討伐の書』……これってどっかで見た気がするけど……ああ! 神様からのプレゼントみたいな奴か。討伐の書について」
本を開く。
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討伐の書――――
種別=本
神、 からレト・アルトレアに向けて創られ、贈られた本。
主に討伐した魔物の数を記すが、一定の種類、数の討伐を記録すると、ステータスにボーナスが掛かる。
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「ふむ、なるほど。とりあえず見てみるか……」
と、討伐の書を開いてみてみるが、そこには白い紙のページがあるだけで、何も書かれていなかった。
ま、当然か……魔物の魔の字も見たこと無いからな。今は封印か……あれ? これってどうやって戻すんだ? と、自力でなんとかしようと、頑張ったのだが、ふと目線を落とし膝の上を見て気づいた。
「そういえば、調べれるようになってたっけ……」
調べたところ、本を閉じて、手から離せばいいだけだった。
気づけば、窓から入っているライトがわりの光は、強くなっていて、辺りも白んで来ていた。その柔らかい光に当たり、眠くなって、二度寝してしまっていた事を知ったのは昼前の事だった。
「ごめんねー、レト、昨日は疲れてたみたいだったから、起こさない方がいいかなーって。あ、お腹すいてるでしょ? もうお昼だから、ちょっと待っててね、お父さん呼んでくるから」
その言葉を聞いたとき、俺は軽い絶望を感じた。もう昼……つまりは朝ご飯を逃したということか……いやいやいや、気持ちを切り替えて行こう。腹を宥めながら椅子に座り、父さんを待つ。
やがて、「お、やっと起きたか」と言いながら父さんが入ってきて食べ始める。
旨い料理で腹を満たしていると、父さんが唐突に、
「レト、お前も五歳になったんだ、魔法とかに興味はあるか?」
と、聞いてきた。答えはもちろんイエスだ。
「興味ある! 何かくれるの?」
「ああ、誕生日プレゼント……にはならないかもしれないがな、レトの家庭教師を頼んで置いた。いろいろと、勉強してほしいからな」
「ありがとう、頑張るよ!」
ちゃんとした魔法について学べると思うと、わくわくしてきた。
俺は一気に味わいながら残っているものを平らげて部屋に戻った。理由は家庭教師が来るまでに、自分の実力を測る為だ。
準備をして、許可を取って、向かうは家の外、俺の部屋から見える平原だ。家の周り何百メートルは結界が張ってあり(二階に掛かっているものより強力らしい)魔物は入ってこれないらしく、安全なのだが母さんは心配して、五歳になるまでダメと言って家の周りの柵からは出れなかったが、ようやく自由になれたので、ステータスにあった、パワー・レジストというものを試したいと思う。
昨日はやって無かったが、訓練のお陰か、魔力操作というスキルを手に入れていてその中にあるという事は魔力を集中させるあれが当てはまるのではないだろうか。
早速、息を整えて体の中にある魔力を手に集中させる……。変化はすぐに分かった。
「はは、なにこれ。魔力が無くならないじゃん!」
前は五秒位のチャージが限界だったが、今は余裕で一分を越えている。これがステータスの力か……と思いつつ、構えて拳を前につき出す。次の瞬間にはもう……。
「え?」
爆風とともにつき出した方向に地面がえぐられて、土が宙に舞っていた。