成長したけど、五歳って何かしら起こるよね!
とりあえず、目が覚めた日を[覚醒した日]として、あれから、三年が経った。
三年の間、魔法について、何も進展していない。
あの誕生会のあと、もう一度ステータスを表示しようとした……が、結果は察しの通り、失敗だ。
なぜ失敗したのだろうか、最初の一年はそれを知ろうと、強欲の書を探した。しかし見つからなかった。
両親に、それとなーく聞いてみても、そんな本は見ていないと言われ、自力で探すことにした。
幸い、自分の足で歩けるようになったので、家の中をひたすら歩いていた。本は見つからなかったが、分かった事がある。この家、広い! 確かに子供の体だけども、一階の部屋を見て回るのに、二十日間もかかった。
朝食を食べたら探索するのだが、昼食の時に一度部屋まで戻され、昼寝をして、三時位から夕食まで、それの繰り返しだ。
二階があると知ったのは、運がいいのか悪いのか、二十日目に見終わったと思い、自分の部屋に戻ろうとした時、まだ見ていない廊下があったので行ってみれば、案の定、階段があった。ちなみに、二階には行けていない。階段を上ってみると扉があるのだが、鍵が掛かっていて入れなかった。
頭の中で家の中の地図を作ると、廊下がコの字になっていて、左右に部屋がある、そんな感じだ。左右に出ている方が裏庭、反対側に玄関がある。小学校を半分にしたような感じだな。
とにかく、することが無かった。そんな毎日の繰り返しだったが、ある日、ステータスが使えないのは、魔力が感じ取れない事が原因なんじゃないのかと思い、瞑想まがいの訓練をするようになった。
最初は何も感じなかったが、続けるうちに、心臓の鼓動が聞こえるようになり、血液が流れる感覚が感じ取れるようになり、血液と同じように体を巡っている感覚を見つけ……。
最近になってようやくそれっぽいものを扱えるようになった。魔法とまではいかないが、手に集中すると握力が上がる位は出来るようになった結構頑張ったと、自分では思っている。
そして、今日。それが根底から覆る事になる……。
「レト~おはよう! お誕生日おめでとう」
母さんのフワッとした声に目を覚ます。
「おはよう、母さん。そっか今日誕生日なんだったっけ?」
未だに前の世界での自分を引きずって、こっちの世界に慣れない。一年間の日数とか一週間も、同じようにあるのだが、そのせいでこんがらがるのだ。
「そうよ、レトも五歳になったのよ! 早いわね~とっても嬉しいわ。着替えたら、朝ごはんを食べてそれから……」
「それから?」
「初めてのお出掛けよ!」
そう、なんだかんだ、家から出た記憶はない。念のために言っておくが、外に出ていないわけではない。流石に二度目の人生でも引きこもりライフを堪能するのは止めたい。元々はしたくてしてたわけでも……って本当、誰に言い訳してるんだよ。
ともかく、初の異世界社会楽しみにしておいて、損はないだろう。
「うん、分かった!」
俺は着替えを済ませ、ダイニングルームに向かう。そこには父さんがいて、パンを片手に書類を見事にさばいていた。俺が入ってきたのが分かると、手を止めた。
「おお! レト! 五歳の誕生日、おめでとう。そうか……もう五歳か、早いものだな」
と、ニヤリしながらしみじみと言った。器用なものだ。
「それ、母さんにも言われたよ。そうだ、出掛けるってどこに……?」
「それはだな……」
「ご飯、出来たわよー」
「お楽しみだ」
隣にあるキッチンから声がして、皿を運ぶのを手伝うために俺と父さんは向かう。キッチンとは扉を挟んでいるが、いつも空いたままなので、特に不便はない。普通の部屋を往き来する感覚で、皿を運び、並べる。
「よし、食うか」
と、父さんの合図で、食事は始まる。
母さんの料理は、どれも一級だけど、飛び抜けているのが、このサラダだ。野菜は、庭で取れた新鮮なレタス等の葉菜をメインに、根菜が入っていて、どれもシャキシャキしていて、うっすらと甘い。しかし、何よりも美味しい、いや、全ての味を引き出している。それが、このドレッシングだ。ドレッシングは日によって味が変わり、いろんな味が楽しめて飽きない。
そして、このドレッシングが、俺を悩ませていた。……どうしても再現出来ないのだ! たまに料理を手伝うのだが、いつも量が適当なのだ! だから、もう諦める事にした。……あれ? 諦め案件が他にも山のようにあった気がしてきた……。
いつの間にか食べ終わってしまっていて、呆然とした表情の俺と父さんを見て、母さんが、ふふっと笑って、皿を片付ける。
「じゃあ、行きましょうか。まぁ、出掛けると言ってもって感じですけどね。レト、いらっしゃい」
「気を付けて行ってこい! お前の未来が決まる日だからな」
「行ってきます……どこに?」
最後まで疑問を抱えたまま、母さんの後をついていく。
着いた先は外にある馬小屋……ではなく、例の二階だった。そもそも馬小屋なんて無かった気がする。
母さんは、一度扉に手をかざし、それから普通のドアのようにノブをひねり、開く。そこには、壁が一切無く、ただただ、おびただしい量の魔方陣が床に敷き詰められていた。
「さあ、こっちよ……多分」
「あ、うん」
不安極まりない案内でたどり着いたのは、緑色に光っている魔方陣。
「えぇっとね、これは転移陣って言うんだけど、あ、周りのもね。で、これは王都につながってるの。この中に入って手を繋いで。……うん、それでいい。じゃあ行くよ?『転移』」
指示に従い、俺が転移した所は、教会だった。
それなりに広く、壁は石のレンガでできており趣のある内装だが、人がまばらに居て、その人たちの話し声で雰囲気は台無しだ。
あ、奥から神父さんらしき人が出て来た。雑談している人達も静かになる。
「これより! 本日、めでたく資格を獲得した君たちに……」
「ステータスを授与する!!」
「は?」