自習だけど、教師が内容を決めるのは違うと思う!
自己紹介の後、俺達はそれぞれに別れて行動を始めた。行動と言っても、バラバラだ。俺と和樹、ロイルとドラヴィスの男子四人は寮内の探索へ。その他女子は「走りに行って来る!」と颯爽と教室を出て行ったキューテ以外教室に居るみたいだ。
「そういえば、レト君って入学試験の時見なかったけど、何か事情でもあったの?」
ロイルが聞いてくる。中々痛い所かもしれないが、正直に話す。
「ああ。入学式直前に入る事が決まってな。王様に言われて来たんだが、学園の事は何も知らないに等しい」
「それについては俺も同じだ」
と、和樹。
「ええ!? 二人とも陛下から言われてって事は陛下にお会いしたの? 良いなぁ……僕はお父さんに一人前になるまで、お会いするのも駄目って……いつかお父さんみたいに陛下にお仕えする予定なのにね」
はぁーと、ロイルはため息をつく。
「多分だが、それは君の事を思ってではないだろうか?」
先程から考えるような仕草で顎に手を当てていたドラヴィスがロイルに言った。
「それはどういう……?」
「君達庶民には分からないかもしれないが、初印象とは一番大事なものなのだよ。それだけで相手への対応、反応が決まるのだから……だからこそ今の君では駄目と判断されたのかも知れないな。加えて相手が王ともなればな」
そう言って遠い目をするドラヴィスを不思議に……いや、同じ思いで俺は疑問系で訊ねる。
「相手が王様だともなれば?」
フッと笑い、返してくる。
「プレッシャーだよ。圧とも言うのかな……幼少時代に大きな催しへ参加したことがあってね。父上に連れられ王の御前まで行ったのだ。僕はただ付いていただけなのに、特有のオーラに当てられて口を開こうとしても指の一本すらも動かなくて、それはもう畏怖したさ」
「確かにすごいプレッシャーだった」
俺とドラヴィスが苦笑いしているが、ロイルはそれを不思議に思ったようで、
「僕のお父さんの方が絶対怖いよ!」
と、反論してきた。
「確かに、俺が王様に会ったとき、一際強そうな人がいた覚えがある。だが、それより王様の方から凄い圧が掛かって来てたから……ま、一概には言えないかもしれないが」
俺が面会した時の事を思い出しながら話す。正直、殆ど覚えていない。昨日の事だが……。
その後も雑談しながら寮、教室を見て回ってから教室に戻った。すると教室では――。
「ふん! そんな態度だからグレイス家は横柄だと陰口を言われるの。お分かりですの?」
「なんだと!? あたしはただ、一緒に走らないかと誘っただけだ。なぜそこまで言われねばいけないのだ!?」
「自分の立場というのをわきまえたらいかがですの? 貴族の落ちこぼれの分際で誇り高きトランド家の令嬢であるこのレミル・トランドの前に立たないで頂けるとただそう言っているだけですの。矮小な脳ではこんなことも理解できないと言いたいのですの? ふふっ」
何故か二人だけで言い合いをしていた。ドッカーンと言う爆発音と黒煙が窓の外からモクモクと立ち上がっているのはこの二人の仕業だろうか?
「せ、先生こっちです……ひゃ!」
今の爆発に隣の職員室にいる先生を呼びに行っていたであろうアリスが廊下に出てきた途端、しゃがみこんでしまう。
「ん? なんだ? 男子諸君も廊下に出て……いや、散策に出て今帰ってきたのか。で、ロットは話せそうにないのだが、私は何故呼ばれたのだ? 決闘か? それとも喧嘩か? もしくは授業か?」
「多分喧嘩だと。えっと……キューテとトランドが」
俺が説明すると、先生は豪快に教室の扉を開けて言い放つ。
「くだらん事で喧嘩なんぞするな! ――するなら決闘だ」
え……。決闘って、事態を悪化させてるんじゃ……。
「おい、トランド。ハイデ姉妹はどこだ?」
「あ、あの二人なら寝るとか言って寮に降りて行きましたの……」
先程まで堂々とした態度だったレミルは突然話しかけられ、びっくりしてぎょっとしている。
「そうか。なら今日はあの二人抜きで今から外へ出て適当に組み合わせて決闘だ」
ん? 二人抜きって俺達も巻き込まれて……。
「何をしている? 早く行動しないか!」
『は、はい!』
俺達はそう答えるしか無かった。
「よし! 最初は……アルトレアとグレイス。時間は無制限。致命傷となる攻撃は禁止だ。範囲は要らないか?」
いきなり俺か……。てか、キューテの相手はレミルじゃ無かったっけ?
「あ、レト君さえよかったら欲しいのだが。いいだろうか?」
「ああ。別に俺はどっちでもいいからな」
範囲は三十メートル四方。テニスコートを三つ繋げた程の広さだ。先生が風魔法で結界を作ってくれたので衝撃は吸収される。もし吹っ飛んでも安心だ。
「お手柔らかに頼むぞ」
と、キューテが俺に言うのでこちらこそと、返す。
「準備はいいな? 始め!」
開始の合図で決闘が始まる。
俺はとりあえず『レジスト』で全身の防御を固め、攻撃に備える。
キューテは風と無属性を使うと言っていた。基本的には俺と同じような物理攻撃が中心だろう。
「『エア・ナイフ』……いくぞ!」
殴り込んで来るのは予想していたが手には風のナイフを握っている。
「『エア・プロテクト』……こい!」
俺は十二分に魔力を注ぎ込み鎧を厚く作る。
「はぁぁぁっ!!」
キューテが斬りかかってくる。俺は体を後ろに反らしてそれをかわす。と、同時に横からの足払いを受け、転ぶ。そこに振り上げられていたナイフが降ってくる。
俺は慌てて体を回転させ、横にかわす。
「ふぅ。危なかった……予想以上だな」
「あれ? 避けられたかー。結構このコンボで入学試験の時も上がれたんだけどなぁ。じゃ、もうちょっと本気、出すよ?」
と、詠唱省略しているのか黙る。
この隙に攻撃、というのもいいが、相手の切り札も見てみたい。ので、俺は無詠唱で自分の体にある仕込みをする。命綱の様なものだ。残念ながら起死回生の様な固有魔法ではないが。
「待っててもらって申し訳ない。が、次で仕留める」
「いや、こちらも準備中だ。気にするな」
まぁ、既に終わってはいるのだが。
「多分避けられないと思うけど、一応。行くよ?」
避けられない……か。ま、端から避けるつもりは無い。
「こい!」
刹那、キューテの詠唱した『トリプル・エア・カッター』で詠唱が終わり、見えない刃が現れる。
基本的に風魔法は蜃気楼のように透明だがある程度の大きさは近くだと分かる。
俺にその大きさが見えたときには数メートルの刃に逃げ場を無くされていた。
咄嗟にエア・プロテクトを更に強化した上で顔の前に腕を被せ、受け身の体制で斬撃に備える。
が、受けたのは精々薄皮を切るほどの風。つまり、大きさに惑わされ、防御に走らせる為の陽動。実際に受け、戸惑い、力を緩める今この瞬間こそ、本命の攻撃が来ると、そう理解し、いつの間にか懐に入って来ていたキューテが握るのは先程と同じくナイフ。
しかし、それに使われている魔力、もとい風の密度は段違い。はっきりと見えるその剣先は俺のエア・プロテクトに刺さる。しかし、その威力は衰えず、更に刺さって来る。
この時、キューテは勝利を確信したことだろう。
確かにエア・プロテクトが破られたのは想定外だ。でもまだ間に合う。俺の反撃条件は近ければそれだけで威力が増す。
「『バースト』」
俺が詠唱したのはエア・プロテクトの暴発。更に強化していて厚さは五センチ以上はある。この勢いで恐らく場外まで吹き飛ばせたであろう。
しかし、この厚さは仕込みの後、咄嗟に強化したものだ。しかし相手は風魔法を使う。空中で『フライ』を使い、その場に留まる筈だ……。
そう思い、俺が仕込んだ魔法。それは奇しくも相手と同じ、『エア・カッター』であった。
違う点があるとするならば、幅三センチ程の小型といった事、その分威力重視という事、そして数、これに関しては桁が違う。約五十本。それを腹部、脚部のエア・プロテクトに仕込んだのだ。
暴発した勢いでそれらは全て、それこそ目に見えない速度で飛んでいく。
それらは飛散するが、殆どの刃の前にはキューテ。
一瞬のうちに形勢は逆転し、俺の勝利となった。
幸いにも屈むのではなく、重心をそのまま立った状態で俺を刺そうとしていたキューテの顔、首には当たらず、致命傷はなく、先生と回復専門のロイルが治療し、無事、事なきを得た。
「ううっ、いててて」
意識こそ無かったが数分で目を覚まし、こちらを向いて一言。
「ズルいぞ! 何であたしが負けたのだ!? 一秒後には勝っていた筈だ!」
撤回。一言では無かった。
エア・ナイフ 風をナイフ状に形成する。鋭さ、大きさは使用する魔力に比例する。
エア・カッター 風を刃物状に形成する。鋭さ、大きさは使用する魔力に比例する。




