一つのミスが大きな事故になるのは、当然だろうか!
「あ、レト君。おはよう」
「おはようございます。ご苦労様です」
門に到着し、グラフィルさんに挨拶する。
「ひょっとしてあそこの人だかりに加わるのかい?」
指差された方角には十人程の人だかりが出来ている。
「あれがオークの討伐グループであるなら、そうです。ランク的には受けれない依頼なんですけど、ギルドマスターに頼まれて」
「へーガレッさんにねー」
ガレッさん? 知り合いなのか?
まあ、今は置いておくとしよう。
俺はグラフィルさんと別れて、人だかりに向かう。
結果から話すと、オーク討伐のグループではあり、参加もできることになったのだが……現在進行形で俺は討論の的になっていた。
男女のコンビらしいが、さっきから女のほうが俺を構いたいらしく、俺を連れて行ってもいいか男のほうに何とか許可を取ろうとしている。俺が決めることじゃないのか? それ。
「だから! さっきから言っているでしょ、この子はギルマスに指名されているのよ。もしもの事があったら大変じゃない!?あなたがどうこう決める事じゃないわ」
やっぱり俺が決める事であって、君が決める事じゃない気がする。確信した。
「いいや! 俺は反対だ。どうしてこんな誰とも知らない奴のお守りをしなくちゃなんねぇんだ! 付いてくるのは勝手だが、俺らにお守りをさせてもしもの時、誰が責任を取る?」
「そ、それは……」
「ギルマスか? お前か? ちがう、俺だ。俺とコンビを組んでいるなら最低限、マナーくらいは覚えろ」
なんかかっこいいけど、俺だよね? 責任取るのって。自分の責任は自分で持てって言うけど、普通にそれだよね!?
「もういいか? はぁ……すまなかったな」
終わった? いやー中々面白……勉強になった。
「いや、俺も見た目通りの子供でマナーには疎いのでな。勉強になった」
「ねぇ! 君もお姉さんと一緒に戦いたいよね?」
俺に振るのか……。
「いえ、別に」
「な……」
「じゃ、俺は行くんで」
特に一緒に戦う理由も無いしな。俺はその場を離れた。
しばらく、集まった人達を眺めていたが、「注目!」と、号令が掛かった。
「これより! オーク討伐を開始する! 普段なら各パーティー自由に動いてもらっていたところだが、今回! オークの上位種である、ツインヘッドオークが目撃されている。なので、一斉に討伐を開始する。くれぐれも蹴落とすような行為はしないように!」
と、近くの台から注意点等が説明された。
俺は聞いていたが、殆どのパーティーが号令を機に装備のチェックを初めていて、あまり気にしていないようだった。
「では……これより! オーク緊急討伐を! 開始する!」
開始の合図を聞いた冒険者達の行動は様々だった。勢いよく飛び出して行く者、武具のチェックを続ける者、待ちの方へ薬草などの調達に向かう者、余裕を持って歩いて行く者。
俺の場合は最後の歩いていくに分類されるだろう。余裕は無いのだが……。
「さて……どうしようか」
適当に歩いて向かっているが、問題は戦い方だ。
本気を出せばでかいのを連発して終了だが、絶対に他の冒険者を巻き込んでしまうし、いざというときのために切り札は残しておきたいし、派手に戦うわけにはいかない。
走って先行していた人達が戦っているのが見えてきた。とりあえず、目立たないように脚は強化しないで、腕にパワー・レジストを集中させる。
一体ずつ倒してすぐアイテムボックスに入れれば目立つことも無いだろう。
近付いて分かった、オークの数は百を越えているだろう。前で戦っているパーティーも、回り囲まれないように少しずつ後ろに下がっている。
俺は少し離れた所にある岩影に身を潜めて強欲の書を見る。
勿論、敵の数だ。地図を開いてオークを検索し、赤い印をつける。
すると、案の定ページが真っ赤に染まった。もう少し縮小して見ると、大きな集団の更に北に二、三匹だけ集団に置いていかれているオークを見つける。
ふと前線に目を戻すと、戦いは本格化して、少しずつオークを押していっているように見えた。
俺は一度、腕に掛けた強化を解いて脚に掛け直し、その場を後にした。
向かう先は勿論北。他人に影響が無いのなら、思う存分戦える。
本当はエアプロテクト・バーストで行きたいところだが、MPはできるだけ温存して置きたい為、消費が少ない魔力強化を使って自分の脚で走るしかない。
三、四分ほど走ったと思う。ようやく端に見える大群を過ぎた。
「ここ辺りか……? この下?」
そこは崖だった。が、これ以上北だとこの崖の下になると思い、見下ろす。が、地面は木々で覆われており、オークの姿は確認出来ない。オークは体長二、三メートルの巨体を持っている為、頭が出て無いのならいないのか? いや、強欲の書には確かに反応が有った。
仕方ないので、胃がキュッとなるのを我慢して飛び降りる。
下まで五十メートル位だと思う。下を見ると怖いと聞いたことがあるので俺は前を向いた。よく見ると崖の下は盆地のようで、四方を崖で囲まれている。確かに入ったら出れないな……。というか、俺はこのはぐれオーク達(仮)は群れから離れて、崖に落ちた奴と思っていたが、この高さ……落ちて無事なのだろうか……? 人も、オークも。
まぁ、俺は地面に近づけば一瞬だけフライを使って衝撃を柔らかくすれば問題はない。そもそも脚の強化にレジストも入っているので、そんなことをしなくてもいいのだが……ま、まぁ、念には念をって言うし、安全第一だし、何も無かったらすぐ戻れるし!? ぜんっぜん怖くないし!!
ふぅ……落ち着いて……冷静に……。
目を閉じて心を落ち着かせる。
先生は言っていた。心の乱れは魔力の乱れ。落ち着けば普段以上に力を出せ……。
「あ……」
目を開けると、もうそこは木々まで十センチの超低空だった。
「落ち着いてる時間、なかったぁぁぁぁぁ!!」
慌てて、腕を顔の前にクロスさせてビシバシと体に打ち付ける枝の猛威を耐える。
薄目を開けて下の光景を見る。驚愕……というより、感嘆に近かったかもしれない。
そして一つの疑問が解けた……。
「そりゃそうだよ……オークの数倍も木が高けりゃ、オークは見えないわな……」
そして俺は目を見張った……。
神様に警告された筈なのに、ミスは大きなことに繋がるって聞かされていたのに、自分でも気を付けようと思っていたのに。
ミスの代償は……大き過ぎる物だった。
俺はやがて地面に着く。三秒前までは落ちるのに精一杯だったけど、そんなちっぽけなことは忘れた。
グヂャ! という音と、脚にまとわりつくような感覚。訂正しよう。俺は、地面ではなく、オークの死体の山に落ちた。
俺はグロテスクに完全耐性を持っていると自負しているが、込み上げてくるものはある。
前を向いて状況を確認する。
俺のミスは……。
「普通のオークしかいないと思い込んでいたこと、オークは落ちたと思い込んでいたこと、上の集団が本隊だと思い込んでいたこと。さぁて……生きて帰れるかな?」
俺が落ちた所には死体の山。腕や脚が動いているのも見えるが、そんなことはどうでもいい。
上には枝の壁。すぐには抜けれない気がする。
後ろには切り立った崖の壁。上にいるオークはこの壁を登った。
そして、前。俺を完全に囲んでいるであろうオークの上位種、数百体――。




