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『織田式人という人間』

「さて早速だけどシキトのことについて聞こうかな。ほら早く早く」


 普段食事のときに使う机の上に置かれた紅茶を飲みユキカは式人の方を向く。その目は少しだけ輝いてるようにも見える。


「そんな楽しいもんじゃないけど・・・」


「いいんだよ。シキトが自分から話そうとしてくれたんだから。私がようやく信頼された気がして嬉しいだけ。さ、早く早く」


「それは、まあ、うん。そうだな。何から話そうかな」


 と少しだけ考えて式人は話し始める。


「まずは・・・そうだな。俺の生まれについて話そうか。多分気づいてはいると思うけど、俺はこの世界の生まれじゃない」


「まあ、それはあれだけ何も知らなければね」


 ユキカが思い起こすのは初めて会った日。式人は剣や魔法は知っているのに使い方を知らず、場所を聞いても国名を全く知らなかったという出来事があった。そのときに式人は言ったのだ。いつか絶対に話すと。


「ここじゃない世界。ここじゃない星で普通の家に俺は生まれた。別に特段金持ちって訳じゃないし貧乏でもなかった。本当に普通の家だった。両親もいたし兄妹もいた」


 それだけ聞くと何もおかしなところはないし、別に隠す必要もない話だ。いたって普通の家に生まれたようにしか思えない。


「別に俺もこのままの家庭で育ってたら隠してなかったさ。でも違うんだ。そんな単純に済まなかった。様子が変わったのは妹の才能が開花したときだ。あいつはなんでもできた。誰よりも頭が良かったし誰よりも運動ができた。そしてなにより、誰からも好かれた。子供のころから異常にあいつは好かれた」


「・・・」


「妹がなんでもできるなら、兄妹である俺も何かできるんじゃないかと周りは勝手に期待した。俺も何かできる事があるんじゃないかと自分でも期待したよ。結果は・・・言わなくても分かるよな」


 それだけでユキカは察した。似たような話を冒険者の中でもよく聞くからだ。きっと式人はできなかったんだろう。それはどんな気持ちなのだろうか。想像するのは容易い。周りからの期待。それに応えられないときの気持ちの変化なんてひとつしかないから。


「失望、されたんだね?」


「そう。でもそれだけならまだ良かっただろうね」


「・・・え?」


「俺はなんにもできなかっただけじゃなく、誰よりもできなかったんだ。いや、少し違うか。俺は誰よりも平凡だった、というべきかな」


「・・・そんな! だって式人は一日で魔法が使えてるし、剣だって少しの素振りだけで様になってるじゃん!」


「いや事実だよ。いくら努力しようと俺は常に平均だった。俺には、なんの才能もなかったんだ。魔法も剣も多分俺は人並み程度にしか使えないと思う」


 これが式人が自分に絶望するきっかけになった事だった。全ての事柄を彼は人並み程度にしかこなせない。それはそれで才能だという人間もいるだろう。お前よりできない人間だっているんだと声を荒らげる者もいるだろう。だがそれを式人に告げる人間はいなかったし、そんなことは式人は知っていた。



 ()()()()()()()と式人は思う。



 それはあまりにも分かっていない。あまりにも知らなすぎる。全てを。ありとあらゆる事柄全てを人並み程度にしかこなせないという事実を甘く見すぎている。


 才能? 全てが平均程度で? 馬鹿にするのもいい加減にして欲しい。本当に才能があったなら何か一つぐらいできることはあった筈だ。一つぐらい誰かより抜きんでていることはあった筈だ。それでなくとも平均よりかは頭一つ分くらいはできてなくてはおかしいだろう。


 けれど式人には何も無い。人は何か一つは才能があるという。運動や勉強や楽器やゲームなど様々なジャンルこそ違いはあれど、一つぐらいは才能があるのだ。だが式人にはなんの才能も無かった。運動も勉強も楽器もゲームも全てが平均で全てが人並み程度なのだ。


 あらゆる事柄を経験してきた。何か一つぐらいはできるだろうと期待した。いずれそれは段々としなくなっていき、しまいには失望へと変わった。その頃にはもう経験していないことがあるのかすら分からない程だった。それくらいやってきた。


 その頃になってようやく式人は自分の周りに気づいたのだ。式人の周りにはもう誰もいなくなっていたことに。



 かつて親だった者は式人を早々に見放した。



 かつて友だった者は式人を見限った。



 かつて妹と呼んだ者はそんな兄を見下した。



 そんな式人を社会は嘲笑った。



 それでもまだ希望はあった。式人は自分に才能がないと気づいてからも諦めなかった。才能がないのはもういい。だったら才能がある人間を育てようと。自分を反面教師にして天才という人間を自分の手で育てようと思ったのだ。このときまだ式人は16歳、高校生になったばかりだった。


 式人は人に教えることが上手かった。自分が全て経験したことを噛み砕き、自分なりに解釈したことをただ伝えていただけだったが、その分だけ生徒達にはしっかりと伝わった。成果はあった。元々天才の片鱗はあった子供達だ。たちまち生徒達は成長した。


 だがそこまでだ。式人が知っているのはそこまでだった。そこから先を式人が知ることは許されていなかった。己の人生に苦悩し、逆境に足掻き、現状に抗い、必死に生きようと踠きながら生きてきた。



 ――そんな式人を地球という惑星が棄てたのだ。



 あらゆる経験を積み、それでも尚平凡でしかなかった人間。そんな人間を世間ではこう呼ぶのだ。




 ――――『無能』、と




「何も持たず、何も与えられることもなく、見放され、見限られ、嘲笑われ、そして最後に世界からも棄てられた空っぽの人間。それが俺なんだ。俺という人間なんだ」


「・・・・・・」


 言葉が、出なかった。かける言葉などあろう筈もない。壮絶な過去だ。軽くしか聞いていないがそれでも悲惨と呼ぶしかできない過去を式人は持っていた。


 ユキカは軽々しく聞いてしまったことを今になって後悔した。それだけの経験。それだけの人生を送ってきたという。それはいくらなんでも早すぎる。式人はまだ16歳だった筈だ。あまりにも酷としかユキカは言えない。


 ユキカが初めて式人と会ったあの日に式人は気づいたらそこに立っていたと言った。ならあのとき式人はどう思っていたんだろう。何を思って立ち尽くしていたんだろうか。その答えを、ユキカは聞きたくなかった。それでも式人は語る。ユキカの様子には気がついていても。それが話す者の義務だからと。


「俺はねユキカ。感謝してるんだ」


「・・・え?」


「初めて会ったあの日。俺には全てが灰色に見えていたんだ。なんてことはない。自分が見えている現実を認めたくなかっただけだ。ここまで世界が俺を徹底的に排除すると思ってなかった俺は自分で立てた誓いを破ろうとした。そのときだよ。ユキカが空から降ってきたのは」


 今でも思い出せる。あんな衝撃的な出会いは漫画や小説の中だけだと思っていた。事実は小説よりも奇なり、なんて信じていなかったが本当にあるものらしい。ユキカにとってはあの出会い方は黒歴史らしいのだが。


「え、あ、いや、あれは、その」


「魔法に失敗したってことはもちろん知ってる。でもあの出会いは俺の視界に初めて色が現れたように見えたんだ。あの瞬間俺はユキカに会わなかったら恐らく、いや確実に死んでいた。だからありがとう。俺に生を与えてくれて。俺がまだ生きようと思えているのはユキカのお陰だよ」


「シキト・・・・・・」


「俺には剣も魔法も人並み程度にしかこなせないだろう。でもいいんだ。それだけが生きていく方法じゃないし、何よりユキカのサポートができれば俺はそれでいい」


「・・・うん。そうだね」


 そうだ。式人は全てが人並み程度なのだ。ユキカは頷いて式人の生き方の一つを肯定する。ユキカが抱えている問題は到底式人じゃ解決できないことだ。まだ剣も魔法も使い始めたばかりの人間に私と一緒に()()()()()なんてどの口が言えるのだ。


 ユキカは式人の過去を聞いた。ならば話すしかないだろう。お互いの為に今自分が抱えている問題をさらけ出した方がまだ式人がこの先生きていく確率が高いからだ。ユキカはしっかりと式人の顔を見つめる。


「シキト。話してくれてありがとう。正直こんな軽々しく聞いて後悔したよ。自分の後先考えない行動が本当に嫌になるよ。でも、それでも式人は話してくれた。本当にありがとう。そしてごめん。式人の過去を何も知らずに聞いちゃって・・・」


「謝るなよ。いつか絶対に話すって言ったのは俺の方なんだから。約束を守っただけだよ」


「・・・うん。そっか。ごめん。・・・・・・それじゃ次は私の番だね! といってもそんなに面白くない話だけど、聞いてくれる?」


「おいおい。俺の話も大して面白くなかっただろ。そんなことを話したんだからユキカも話せって」


 気を取り直したのかわざとユキカは大きな声で話す。それを察することができない式人ではない。だから式人もせめて雰囲気を壊さない為に少しだけ笑いながら返す。


「・・・ありがとう。じゃあ何から話そうかな」


 これから語られるのはユキカの状況の話。何故ここに住んでいるのか。何故彼女が最強の冒険者と呼ばれているのか。


 ――後に式人はこのとき聞いておいてよかったと思うと同時に憤怒する。この話を聞いておきながらお前は何をしていたんだと。だから己の誓いを全て変える結末になるのだと。


 これはそんなユキカにまつわる話。式人がこれから先の人生を決めてしまった切っ掛けの話だ。

本日で拙作『最強のSランク冒険者は失踪しました』は2周年を迎えました。正確には今日の夜中2時なのでもう過ぎてはいるのですが細かいことは気にしません。

というか2年かけて50話と少ししかないのはどういうことだと本気で思いますけど。


いつも読んでいただきありがとうございます(最後まで読んでくださってる方がいるのかは知りませんが)。

去年ほとんど更新できませんでしたが、今年は去年よりも多く更新していきたいと思っています。


感想や質問などございましたらいつでもどうぞ。後は要望もあればコメントに。一応更新情報はTwitterの方に上げておりますので気軽にフォローください。IDは活動報告に載ってたと思います。


それではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです。

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