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始まり

「さて、約束通り話そうと思うんだがその前に、何でいるんですか?」


 帰りはリンティアの転移により王都のギルドへ帰ってきた式人達Sランク冒険者は、そのまま真っ直ぐ式人の泊まっている宿へと向かった。式人の部屋に全員入るか不安だったが何とか押し込み、さて話そうという段階で二人ほど人数が多いことに気がついたのだ。


「何でって言われたらそれは気になったからとしか言いようがないね。それに私達もここに泊まっている訳だからね。隣で気になる話をしているならいっそ聞いてやろうとここに来た訳さ」


「まあラナさんがSランクに詳しいのはそれなりに助かっているので丁度良かったですよ。それでミーナも同じ理由で?」


「ええそうよ。あたしも気になったし、なにより折角Sランクが集まってるんだもの。来ない筈がないでしょ」


「・・・まあいいか。誰に話そうと変わらないし」


「「よし!」」


「・・・おい」


 思わず眉間に皺を寄せ目を細めて(所謂ジト目)二人を見てしまう式人だったが、そのやり取りに驚いているのは他のSランク達だった。彼らの知る限りでは式人はこんな反応を返してくれた覚えがなく、いつもどこか焦っている雰囲気があったのだ。しかし今は比較的落ち着いており、なにより楽しそうに会話する式人を九人のSランク冒険者達は初めて見た。


「楽しそう・・・ですね、リーダー」


「そう、見えるか?」


「はい。あの頃よりもずっと・・・」


「そうか・・・。楽しそう、か。そんなことを言われたのはいつ以来だったか」


 その言葉に皆複雑な気持ちを抱くしかなかった。それほど昔なら、自分達と一緒にいた間はまるで楽しくなかったようにも聞こえるから。


「まあいいか。さて、どこから話そうか」


 気づけば話を考えている式人に一番気になっていることをリンティアは尋ねた。それは式人についての根本的なもの。彼らが式人を追いかけるきっかけとなったものだった。


「リーダー。一つ聞きたいことがあるのですが」


「なんだ?」


「あのとき、転移する前に言っていた言葉はなんだったんですか? 何かを言っているのは分かってましたが転移の影響で聞き取れなかったものでずっと気になっていたんです」


 それはリンティアだけが気になっていたことではなく『ヴェンガドル』のメンバー全員が気になっていたことだ。


「あのとき俺は『俺はもうお前らの強さについていくことが出来ないみたいだ。だからここでお別れだ』と言ったんだ」


「それは何故ですか? リーダーはまだまだ全然強かった。とてもついていけないとは思えないのですが・・・」


「簡単だ。俺はもうこれ以上強くはならないだろう。そしてお前達に引き離されていくと感じたからだ」


 それはとても納得のいく答えではなかった。試合で見せた圧倒的な破壊力は未だに彼らの中に残っている。だからこそ余計にそう感じるのだ。式人が言っていることはただの妄言なのではないかと。


「・・・そう、だな。まずはそこから話そうか。ドランとルークとクレスには一度話したよな。俺がこっちに来たのは今から6年、いや、7年前だって」


「確かに聞いたな。初めに寄った国で冒険者登録をしたと言っていたが」


「良く覚えてたなクレス」


「お前はもう少し覚えておけドラン」


 頭痛がするのか頭を抱えるクレスに肩を組むドランと同じように頭を抱えるルーク。そしてその三人を見て大丈夫かな、という表情をする式人と笑いを堪えるリンティアとクーリア。中々にカオスな空間と化している。


「まあ落ち着け。じゃあ話はそこからだな。7年前、俺が初めてこの大陸に来たとき俺はある女冒険者と会ったんだ」


「冒険者、ですか?」


「ああ」


「女、ですか」


「ん? あ、ああ」


「へえ」


「リンティアさん?」


「いえ、別にどうもしてませんよ? それより続きをどうぞ」


「あ、はい。ええと、まあその人が俺の剣の師匠になったんだ」


 初めての情報に驚いたのは『ヴェンガドル』だけではなく『トワイライト』の四人もだった。ミーナとラナも驚いている。今まで聞いたことがなかった情報に全員が驚いたのだ。

 けれど考えてみれば当然の話だ。独学で最強に至るには余程の才能がない限り不可能だ。ましてやこの世界では無理だと言ってもいい。そうでないなら式人に剣の師匠がいてもおかしくはなかったのだ。誰もがその結果を無意識に無視していたのだ。式人ならおかしくはないと全員が思ってしまっていた。


 そして誰もが行き着く答えの果てにあることをリンティアは聞いた。


「その人は今、どうなさっているのですか?」


「もう、いないよ」


「え?」


「ある愚か者のせいで彼女は死んだんだ」


 リンティアは聞いてしまったことを深く後悔した。よく考えれば分かる筈なのに。今式人がここにいる時点で、寂しそうな表情をしている時点で気づくべきだったのだ。少なくとも件の人間にはもう会えない場所にいるのだと。


 そのときの式人の表情は誰にも見えなかった。俯いて前髪で隠れてしまったその顔はどんな表情をしていたのか誰にも分からなかった。式人の目の前に座って聞いていたリラとスピカにさえ分からなかった。比較的付き合いの長かった弟子のエルレアですら。


「その、ごめんなさい」


「別に謝ることじゃない。もう乗り越えたと思ってたけど、やっぱりまだだったか」


「その、一体何があったんですか?」


「・・・・・・」


 式人は脳裏に彼女の姿を思い浮かべながら話し始める。全ての始まりは7年前。式人が彼女と出会って、式人の中で景色に色がついた日からだった。






 ――7年前



 草木が生い茂っているわけでも枯れきってるわけでもない、ところどころに申し訳程度には生えていると表現するべきであろう程にまで荒れ果てた荒野に、少年が一人でポツンと立っていた。寧ろ立ち尽くしていると言ってもいい姿で、少年はここがどこだか分からないのか頻りに辺りを見回しては首を傾げている。


「どこだ、ここ?」


 少年が辺りを見回しても見えるのはどこまでも続く荒野。右を見ても左を見ても荒野、荒野、荒野。


「いやいや、なんだこれ。夢?」


 いや、分かっている。分かってはいるのだが頭が現実を否定している。認めたくないと叫んでいる。これは夢ではなく紛れもなく現実なのだと。試しに少し自分の頬を抓ってみる。


「・・・痛い」


 痛みがある。ならばこれは認めようのない現実なのだ。



「は、ははは、ははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」



 もう嗤うしかなかった。これ程か。これ程までに己は世界から嫌われていたのかと。限界だった。もう意味が分からなかった。死ぬほど努力して、必死になって得た答えの行き着く先を世界は見せることさえしない。そして気づいたのだ。見えている風景が今になってようやく全て灰色にしか見えないことに。


 少年の心はもうとっくに擦り切れてしまっていたのだ。ならばもう()()()()()()()()()()()。ここには誰もいない。ここがどこかは知らないが、あれだけ蔓延っていた天才も凡人も誰も今はいない。自分で育ててきた若葉と呼ぶべき天才の卵達もいないのだ。余計に生きている意味が分からなかった。


 問題はどうやって死ぬかだな、と物思いにふけっている少年の真下に突然影がさした。それに気づいた少年が地面を見るとどうやら少年の立っているところだけ影がさしているようで、しかも妙に変な形をしている。まるで大の字で上下に回転しながら落ちてくる人影のような・・・。

 不思議に思った少年は当然影の発生源であろう自分の上を見上げた。逆光でよく見えないがやはり人のように思えて仕方がなかった。気のせいだと思っていた。自分はこんな夢を見てしまう程に疲れているのだと。すると声が聞こえてきた。


「わ〜〜! 助けて〜〜〜〜!!」


「・・・・・・は?」


 人は予想外のことが起きたとき、即座に反応することが難しいと聞く。常識的にありえないことを目の当たりにすれば尚更である。つまり何が言いたいかというと、少年は呆けた声を出すことしかできずにそのまま謎の声の主にぐちゃりと押しつぶされた。


「痛たたた・・・。あっ! ごめん! 大丈夫だった!?」


「いや、大丈夫じゃない・・・」


「本当にごめんね! はい!」


「・・・・・・?」


「手を貸してあげるから、はい!」


「あ、ああ、どうも・・・」


「む〜」


 少年の反応が少し不満だったのか頬を膨らませる少女。何かいけないことだったのかと考えて、分からなかったので取り敢えずスルーした。


「そこはありがとう、でしょ?」


 結局答えは少女が教えてくれたが、そこで初めて少年はお礼を言うことを知った。だが原因が少女にあるような気がしたためどうにも釈然としなかったが、少年は素直にお礼を言うことにした。そこで初めて少年は少女の顔を見た。少女は雪のように白い肌と白い髪をしていた。ボブヘアーとでも言うべきふんわりした髪形をしており、腰には剣を携えている。


「そうなのか。ならありがとう」


「なんか気になるけど、まあいいや。ところで君はこんなところで何をしてたの?」


「俺は・・・分からない。気づいたらここにいたから何もしてなかったよ。強いて言えばこれから行動するところだったって感じかな」


「気づいたらここに? う〜ん、よく分かんないや。なんだか不思議な話だね」


 聞かれて初めて自分の状況を認識した。押しつぶされたときにも痛みを感じたからこれは夢ではないと改めて確認できたのだ。なら、夢でなかった場合に自分のことを表現するのであれば自分はなんなのだろうかと考えて即座に答えに至った。


 自分は『異物』であると。


 地球にこんな荒野はあるのかもしれないが、自分の知る限り白髪に雪のような白い肌の人間と日本語で会話ができる場所は地球にはなかった筈だ。ならばここは地球ではないのかもしれない。そして自分は本来この世界にいない筈の人間なのではないかと。早急にいなくなるべきではないかと思ったのだ。


「お〜い! 君!」


「え?」


「『え?』じゃないよ。突然君の顔色が悪くなっていったからさ。声をかけたんだよ」


「あ、ああ、そうだったのか」


「それで? 何を考えてたの?」


「いや、なんでもないよ。それよりそっちこそ何をしてたんだ? なんか突然空中に現れたような気がしたんだが」


 少年は徐に話題をすり替えたのだが、少女はこれでもかと言う程慌てだした。その狼狽えようは少年も驚いた。だがその理由を聞いたとき、少年から表情が消えた。


「え? あ、えと、その」


「ど、どうした?」


「わ、私は、その、い、言わなきゃダメ?」


「まあ、こっちは押しつぶされたから一応知ってはおきたいんだけど」


「ええと、その、魔法を練習してたんだけど、失敗しちゃって・・・丁度君の真上に飛ばされた、んだけど・・・」


「へえ」


「・・・・・・」


「魔法の練習」


「・・・・・・」


「失敗したと」


「・・・・・・」


「へえ」


「ごめんなさい!」


 少年は淡々と原因をつぶやき続けるのが少女には恐怖に映ったのか良心を刺激したのか土下座して謝罪した。少年は分かっててやっているのか、ニヤニヤと笑いながら少女を見下ろしている。まるで少女の反応を楽しんでいるかのように。まるでもなにも実際にその通りなのだが。

 しばらく少女の反応を見て楽しんでいたが、少女は何かを思い出したように手を叩き少年に向き直る。


「そうだ! 君の名前は? そういえば聞いてなかったよ」


「名前? どうして急に」


「いや、ちょっとお礼とお詫びをしたくて・・・名前が分からないと不便でしょ? いつまでも君って呼ぶ訳にもいかないし」


「そう言われればそう、なのかな? 別に君でもよくないか?」


「よくないよ! だから名前教えて!」


「そうか・・・。名前か・・・」


「どうしたの? そんなに難しい質問だった?」


「いや、そうじゃないけど。・・・はあ。しょうがないか。俺は・・・式人。ただの式人」


「シキトね。なんだか少し変わった名前ね。私はユキカ。よろしくね」


「ああ、よろしく」


 ――これが地球から異世界へ捨てられ、後にドラゴン討伐を成し遂げる少年――織田式人と、そのきっかけとなる少女――ユキカとの出会いだった。

今回からはようやく文を長くしなくていいので、ひとまず解放された気分です。執筆から解放ってなんだ。

今月インフルにかかりまして、一週間出遅れたので卒業が危うくなってるんですけど皮肉にもそのお陰で?更新できました。次は恐らく2月になってしまうと思いますので気長にお待ちください。


追記:ユキカの風貌について記述していなかったので軽く追加しました。次話以降にしようかなと思ったんですが、最初に書いておいたほうがいいかなと思いました。作者が忘れないようにというのもありますが、それは内緒で。


更に追記:少し加筆修正しました(2020/03/21)。そこまで変更はしていませんが、描写を追加しないと分かりづらいかなと思ったので。あとは後の話に関係すると思ったからですね。

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