『愛し子』vs『星屑』
今回は早かったです。なんだかとても書きやすかったので。でも次の話はいつになるやら・・・
第二試合が始まった瞬間、第一試合とは打って変わって二人は互いに距離をとるために後一歩で場外という場所まで後ろに下がった。距離をとる理由は簡単だ。魔法使い同士の戦いは遠距離戦になるため、少しでも魔法に当たらないようにするために下がっている。しかし、二人の場合は少し違う。当たらないようにしている魔法には自らの魔法も含まれているのだ。
単純に二人の魔法は強力だ。近距離で魔法を発動すれば確実に相手に攻撃は当たるだろう。しかし、二人の魔法は威力も高ければ範囲も広い。もし近距離で発動すれば確実に自らをも巻き込むのだ。だからこそ二人は下がった。
直径20メートルの舞台上の端に佇む二人にとって、この距離は狭すぎる。舞台を覆う結界の外にまで魔法の被害が出てしまう。つまりどういうことか。二人は全力で魔法を放つことが出来ないということを意味する。だから二人は互いに最大限手加減しながら本気で相手に勝つために戦わなければならないのだ。
使う魔法を決めた二人は、舞台上にいる限り死ぬことはないとはいえ相手を殺す覚悟で魔法を放つ。全ては勝つためだけに。勝ってあの男にリーダーの、かつて兄と慕っていた人のことを聞くために。
「お願い、精霊さん・・・『火よ』・・・!」
「ん・・・『流星』」
リラから膨大な熱量が込められたであろう小さな赤い炎がスピカに向かって一直線に向かう。その炎をスピカは自分の上空2メートル程に展開した小さな魔法陣から流れ落ちた隕石で迎え撃つ。
ドオオォォォォォォォンン!!!!!!
とても魔法がぶつかったとは思えない音を発して二つの魔法は丁度舞台の中央で相殺しあった。魔法が消えた後に残ったのは中央が大きく擂鉢状に陥没した舞台のみとなった。原型が残っているのはリラとスピカの足元から1メートル程先を含む円周部分だけだ。
『な、なんとぉ!? お二人の魔法がぶつかりあったと思ったら、その影響で舞台が大きく抉れました! 折角舞台が直ったというのに!』
舞台を覆っている結界は結界内で起きたことをなかったことにするという特殊なもの。それは人に留まらず、物にまで効果は及ぶ。第一試合で穴だらけだった舞台は一度魔法具を停止してから再展開して舞台を直していた。たった今無駄になったが。
『これは・・・』
『ほっほっほ。中々に強いの。・・・成程。なかったことになるとはいえ、一度は友人を殺すのじゃ。生半可な覚悟では出し得ない威力の魔法じゃったの』
『そうか。彼女達は親友同士。結界内での戦闘は言わば高度なシミュレーション。実際に戦えば同じような結果が出るとは限らないが、殺す感触は本物にとても近いと聞く』
『ねえラナさん』
『ん? 何だいミーナ?』
『そもそもあたし、あの二人の魔法をよく知らないんだけど・・・。精霊魔法と星属性魔法、だっけ? どういうものなの?』
ミーナの疑問は尤もだ。世界でも稀有な魔法の使い手としてSランクに座しているリラとスピカだが、その戦闘はほとんどの人間が見たことがないのだ。見たことがないということは情報がないということ。
何故情報がないのか。理由としてはまず二人は戦闘があまり得意ではないということ。もう一つとして単純に行方が分からないからだ。何度も言うがSランク冒険者は武闘会以外は基本的に所在不明なのだ。
ミーナは何故か色々知っているラナに素直に聞くことにした。ギルドマスターであるラナに聞けば何か分かると思ったから。
『ふむ。そうか、ミーナは知らなかったか。・・・そうだな。精霊魔法は簡単に言えば精霊と呼ばれる存在に自らの魔力を渡すことで自分の代わりに精霊が魔法を発動してくれる、といった魔法だ。ただし精霊魔法を使うためには精霊と契約をしなければならないという絶対的な決まりがあるのだが、これが一番難しい』
『どうして?』
『ミーナは精霊がどこにいるのか分かるのかい?』
『どこって・・・あっ!』
『そうだ。精霊は目に見えないんだ。そんな目に見えない存在と契約しろと言われてできる者はいない』
『じゃあどうすれば精霊と契約できるの?』
『精霊に愛される必要がある』
『愛される?』
『そう。精霊によって愛される条件は様々だが、それでも契約出来れば得られる恩恵は絶大だ。もし精霊から愛されているならば自然と精霊の方から姿を見せてくれるらしい。今も精霊に愛されようと躍起になって世界中を旅してる人もいると聞くぐらいだね』
『じゃあ、リラさんも精霊に愛されてるってさっき司会の人が紹介してたけど、それってどういうこと?』
『ああ。彼女は特別だよ』
『特別?』
『そうだね・・・。普通精霊と契約できるのは一人につき一体だ。・・・その筈だった。彼女が現れるまではね』
『一体じゃないってこと?』
『その通りだ。彼女が初めてギルドにやって来たときには既に基本属性と同じ数の精霊と契約していたのだよ。当時彼女は僅か7歳だったらしい』
当時リラが現れたときはギルドマスターの間で騒ぎになった。稀有な精霊魔法の使い手というだけで驚きなのに僅か7歳で七体もの精霊と既に契約していたとなれば、もう大混乱だ。あのときは大変だったと呟くラナと隣で話を聞いていたアックスは遠い目をしている。・・・ラナは一体いくつなのだろうとミーナは軽く疑問に思ったが、聞いてはいけない気がした。
多数の精霊に愛された精霊魔法の使い手。故に『愛し子』。それがリラ・スピリートという人物だ。
『・・・え、と、精霊魔法のことは分かったわ。それじゃあ星属性魔法っていうのは?』
『・・・ああ、それもかなり珍しい魔法だね。何と言えばいいかな・・・。そうだね・・・そもそもミーナは魔法の属性についてどれだけ知っているんだい?』
『七属性だけじゃないの?』
『それだけだったら態々基本属性と言わないだろう?』
『あっ!』
『魔法とはその基本属性以外にも特殊属性と呼ばれる属性があるんだ。星、空間、時の三つが今のところ確認されている特殊属性だね。精霊魔法は少し違うから特殊属性には含まれないがね』
例を挙げるとすれば式人の『収納袋』にかけられている『時間停止』と市販の『収納袋』にかけられている『時間遅延』、『収納袋』に必須の『空間拡張』は現在無属性魔法に分類されているが、厳密に言うなら『時間停止』、『時間遅延』は時属性、『空間拡張』は空間属性魔法なのだ。
何故無属性魔法に分類されているのか、それは唯一汎用的に使える魔法だったからだ。誰もが使える特殊属性など特殊ではないと言われたために現在無属性魔法として扱われている。尤も、『時間停止』を使える人間は式人以外には、もういないのだが。
『空間と時の魔法はそのままの意味だ。最早二つの魔法の使い手はもう何年も確認されていないがね。それで星属性だが・・・これは一言で言えば星に関係していることを全て魔法で再現することができるというすごく曖昧な魔法だ。それでもかなり強力だがね』
『星に関係すること?』
『それは・・・恐らく実際に見た方が早いだろう』
ラナが舞台を指で示す。そこには先程とは違い、リラの攻撃が直接スピカに向かい、スピカの攻撃はその攻撃を迎撃せずに真っ直ぐリラへと向かう、正しく魔法を撃ち合っている光景だった。だがお互いの攻撃は一つたりとも互いに届いていない。スピカへ向かう小さな赤い炎はスピカの目の前で全て地面にほぼ直角に落ちるか明後日の方向へ飛んでいき、リラへの攻撃は空から隕石が降ってくるが、リラに届く直前にまるで何かに斬られたかのように粉々になって消えていく。これが最初の迎撃以降ずっと続いている光景なのだ。
『もう何度目の攻防でしょうか! やはり互いの攻撃は届きません! しかしリラ選手もスピカ選手もどうやって攻撃を防いでいるのでしょうか!? 私には一切見えません! 一体どうなっているのでしょう!?』
『あれも星属性魔法と精霊魔法じゃよ』
『アックスさんは分かるのですか!?』
『いや、ワシにも目には見えぬよ。じゃが二人の防御方法は大凡予想がつく。リラ君は風の精霊が降ってくる隕石をバラバラに風で切り裂き、スピカ君は自分の周りの重力を操る『重力領域』じゃろう。重力を増やすことで炎弾を叩き落としたり、逆に重力を減らしたり、別の方向に重力をかけることで色々な方向に飛ばして防御しとるようじゃ。この年でここまでの魔法を繰り出せるとは・・・一体どれほどの努力を積み重ねたのかワシには分からぬ。流石と言うべきじゃの』
アックスは簡単に『天才』と二人を表現しなかった。分かっているのだ。天才と表現されるだけで今までの努力が『天才だから』の一言で片付けられてしまうことを。それは二人に対する侮辱でしかないのだから。事実彼女達は『天才』ではなかった。彼女達が今の力を手に入れたのは、全てはただ努力した結界でしかなく、全てはたった一人の恩人のため。敢えて彼女達を特別であるように表現するのであれば、『特殊な才能』を持ってしまった凡人だ。
「・・・だめ、これじゃあ決着がつかない・・・!」
「ん・・・」
先程から繰り返される展開に業を煮やしたのか、リラは少しだけ本気で魔法を撃つ。リラの言うことに同意するかのようにスピカも頷く。恐らく同じことを考えていたのだろう。スピカも少しだけ本気で魔法を防ぐ準備をする。
「・・・お願い、精霊さん・・・『火よ』・・・!」
呪文は何も変わっていない。が、それでも明らかに最初の攻撃よりも熱量が上がっていると分かる。――炎の色が変わっているのだ。青く青く、ただひたすらに青く透き通った炎がリラの眼前に浮いて燃え盛っている。破壊力を高めるためだろう。それは回転し始め、そして放たれた。
「ん・・・!」
時間にして1秒もないであろうという程の速度でスピカに迫る青の炎弾。迫りくる炎弾に対しスピカは両手を前に突き出し、魔力を更に込めた『重力領域』で受け止める。回転しながら貫通しようとする青の炎弾と、何倍にも増加された侵入するもの全てを叩き落とす重力の領域がせめぎ合う。
膠着は数秒。ゆっくり、ゆっくりと炎弾の威力が上昇し『重力領域』を押し進む。どうやらリラが魔力を上乗せしているようだ。このままではいずれ自分のところまで辿り着いてしまう。
今にも『重力領域』を破りそうな炎弾を見てスピカはリラの覚悟を侮っていたことに気付いた。・・・一体どれだけの魔力をリラは込めたのだろうか。どれほどの思いを込めて魔法を撃ったのだろうか。――どこまで真剣、なのだろうか。そんな益体もないことを考えて、すぐに首を振る。そんなのはリラの必死な顔を見れば、いや、スピカには見なくてもどんな顔をしているかも、それがどういう意味なのかもすぐに分かった。どこまでもだ。リラは本気でスピカに勝とうとしている。現にリラは精霊に更に魔力を譲渡して炎弾の威力を上げている。ならば自分もそれに答えねばなるまい。
スピカは今にも『重力領域』を貫きそうな炎弾を見つめる。ゆっくり進んでくる炎弾に『流星』を当てれば止まるかもしれない。いや、近すぎて自分を巻き込んでしまう。ならば直接リラを狙えば? 炎弾は消えるかもしれない。尚且つそのまま勝つこともできるかもしれない。いや、リラのことだ。きっと受け止める筈だ。魔法を同時展開することで。そしてトドメを刺しにくるだろう。精霊魔法は魔力を精霊に譲渡するだけでいいのだから、魔法の同時展開など簡単にできる。
けれどスピカに別々の魔法を同時に展開することは出来ない。まだそこまでの技量がないのだ。いくら練習しても同じ属性であるにも関わらず展開出来なかった。けれど、もし今出来たとすれば? チャンスになるだろう。この均衡の突破口になるかもしれない。けれど、もし失敗したらその時点で敗北は決まるだろう。『重力領域』が破られたら避ける時間などある筈もないのだ。
――ああ、いつ以来だろうか。こんなに失敗が恐いと思ったのは。こんなに何かに挑もうと思ったのは。・・・こんなに誰かに勝ちたいと願ったのは。
だから、今ここで自分を超える。自分が成長していることを仲間に、恩人に、そして親友に、示してみせる!
「ん・・・『重力領域』、拡大・・・!」
感情を表現することが苦手なスピカが力強く魔法を唱える。まずは『重力領域』を拡大して少しでも炎弾を遠ざける。それでも炎弾は止まらずにゆっくりとスピカに迫ってくる。だが時間さえ稼げればそれでいい。
「――我、星の名を冠せし権能を持ちし者」
スピカは心を落ち着かせてゆっくりと、詠唱を破棄しても発動できる魔法を敢えて詠唱する。そうすることで、同時展開するために必要なイメージを固めていく。
「――其は、宙より降りそそぎし災い」
スピカの全身から魔力が吹き出し、上空に小さな魔法陣が浮かび上がる。その様子を見てリラはスピカの狙いに気付く。リラがスピカの顔を見るとそこにあったのは何かを必死に成し遂げようとしている者のそれだった。ならばきっとスピカは成功させるだろう。他でもない親友である自分が相手なのだ。確実に成功させる。その予感が、否、確信がリラにはあった。ならばリラのすることはただ一つ。その魔法を受け止めて、その上で炎弾を貫き通すだけだ。
「――其は、全てを破壊する一の弾丸」
ゆっくりと静かに、しかし力強くスピカは詠唱を続ける。上空に浮かんでいた魔法陣が増えていき、空に上がっていくに連れて大きい魔法陣が展開されていく。その数、およそ十。それらの魔法陣がまるでリラに狙いを定めるかのように一列に並び、その輝きを増していく。
『こ、これは、一体何が起きているのでしょう!? スピカ選手が何かしているのでしょうか!?』
『魔法の同時展開・・・! スピカ選手の狙いは互いの魔法が拮抗している間に魔法をリラ選手に当てるつもりなのだ・・・!』
ラナの解説によって漸く周りの冒険者もスピカの狙いに気付いた。
『その通りじゃ。恐らくじゃが、スピカ君は同時展開を成功させたことがないのじゃろう。そうでなければこのタイミングで展開などせず、何より詠唱などしない筈じゃ。・・・本気で勝つと決意したということじゃろう』
アックスの言葉通り、確かにスピカは真剣に戦ってはいた。けれど本気で勝ちたかったかと言われると実はそうでもなかった。スピカもリラも戦いが嫌いだ。争いが嫌いだ。力によって優劣がつくことが、嫌いだ。そんなリラが本気でスピカに、親友に力で勝とうとしている。勝てば恩人について何か分かるかもしれないから。その戦いで手を抜いてはもう二度とスピカは親友と胸を張って言うことは出来ないだろう。軽蔑すらされるかもしれない。だったら自分も本気で戦って勝つことが礼儀で、親友としての義務だろう。だからこの試合だけでも全霊を込めることにした。
「――我が名、スピカ・メテリットの名において命ずる」
魔法陣の奥、空から一つの火が魔法陣目掛けて降ってくるのが見える。否、それは火ではない。摩擦で燃えている隕石だ。実際に宇宙に浮いていた隕石を魔法で引き寄せたのだ。そのための十の魔法陣。今にも燃え尽きそうなそれは会場に辿り着くまでにかなり小さくなるだろう。丁度リラの立っている場所を吹き飛ばす程の大きさにまで。
「――我が道を阻みし者を、その破壊をもって切り開け」
今にも燃え尽きてしまいそうな隕石が全ての魔法陣を通ることで更に加速しながらリラへと迫る。
「――『隕石落とし』」
完璧に、発動した・・・!
最後まで詠唱された『隕石落とし』は詠唱破棄したものよりも、高い威力と質量、速度をもって、たった一人のために落ちていく。最早人に向けて撃つ魔法ですらないものとなってしまっているそれは、スピカが本気で勝つために、対籠城戦にでも使うべき魔法は放たれた。ただ一人を殺すために、試合に勝つために、そして親友に勝つために。
だがスピカはまだ喜べない。今にも『重力領域』を破りそうな勢いで青い炎弾が迫っているのだ。苦悶に満ちた表情でそれでもスピカはなんとか炎弾を押しとどめる。だけどその目はまだ諦めていない。せめて、この魔法の結果だけは知りたい。そうでなければ負けても悔しくてやりきれない。その思いとともに見つめるは己で発動した魔法、『隕石落とし』。それに相対するは己の親友であるリラ・スピリート。
――これが、本当の星属性魔法。感嘆の思いとともにリラは魔法を見つめる。迫りくる5メートルもないそれは、しかし当たれば確実に死んでしまうだろう。避けることが出来れば良かったのだが、今は炎弾に魔力を上乗せしているため魔力不足による疲労で動けない。それでも残り全ての魔力を振り絞れば防げるかどうか、というところまではもって行ける筈だ。魔力不足はどうやらお互い様らしくスピカも疲労の色が濃いようだ。
これが最後の魔法だろう。まさか最後の魔法が防御だとは思わなかった。いや、考えないようにしていた、が正しいだろうか。こうなることは本当は分かっていた。自分とスピカが戦えば、決着がつかずに膠着するだろうということは分かっていた。それでも他にやりようがなかった。
他のSランク冒険者が相手ならどうだっただろう。手も足も出ないまま負けていただろうか。・・・恐らくそうだろう。偶々スピカが相手だったからここまで善戦出来ているだけで、本来ならとっくにやられている筈なのだ。スピカとの魔法の相性が良かったから善戦出来ているに過ぎない。
同じSランク冒険者である『魔女』が相手ならば圧倒的質量に押し切られるだろうし、
『要塞』には魔法が消され、
『聖女』には攻撃が全て避けられ、
『召喚者』には最速の召喚獣にやられ、
『結界師』には跳ね返され、
『音無』には姿を見ることなくやられ、
『瞬閃』には開始直後に斬り伏せられるだろう。
そして・・・『恩人』である彼には全ての魔法を引き出された上で斬り飛ばされるだろう。
――しかし『星屑』には、『愛し子』は引き分けにまでは持ち込むことができる。けれど、その後は自分の力でどうにかするしかない。余力はなく、余裕もなく、それでも虚勢を張るだけの思いを持ち、見栄を張るだけの闘志を燃やす。次のことは考えない。今ここでスピカに勝てればリラは満足だ。
――ああ、でも、せめて、『お兄ちゃん』のことは知りたかったな・・・
「・・・こ、これが、最後、だよ。スピカちゃん・・・!」
「ん・・・!」
「・・・お願い、精霊さん、これが最後だから・・・『風よ』・・・!」
リラの周りに目に見える程の鋭利な風が吹き荒れ始める。そして風と隕石がぶつかり合う。既に3メートル程の大きさになってしまった隕石は少しずつ風に切り裂かれながらリラへと向かい、リラは隕石を切り裂きながら炎弾に魔力を更に込めて『重力領域』を押し破ろうとする。互いに防御に魔力を回しながら、相手の防御を破ろうと魔法に魔力を込めていく。
「・・・す、スピカちゃん・・・!」
「リラ・・・!」
ゆっくりと二人の防御は互いの攻撃に押し切られていく。仲間達ですら見たことのないような、互いの名前を呼び合う程の二人の必死な表情。誰もがずっと見ていたいと思っていた二人の攻防は唐突に終わりを告げた。
ふらり、と目眩が二人を襲う。魔力不足が本格的になって、とうとう立つことも困難になってきたのだ。まずい、と思ったときには既に遅かった。四つの魔法は二人の制御を離れ、暴発した。スピカは『重力領域』の影響で狂った重力により引っ張られ、リラは精霊魔法の風によって逸らされた隕石が堕ちた爆風の影響で吹き飛ばされた。
何の因果か、二人が落ちた場所は最初の攻撃で擂鉢状に窪んだ舞台の中心だった。倒れた二人は立ち上がろうと手足に力を込める。ただ自分の目の前にいる、親友でありライバルでもある彼女に勝つために。
誰もが言葉を発しない。司会も解説も観戦している冒険者も、今はただ必死な少女達を見つめている。互いに譲れないもののために戦っている二人はもう限界だった。なんとか立ち上がった二人は、視界が霞んで足元すら覚束無い。それでも絶対に負けられないと踏ん張って、一歩ずつ歩み寄って行く。
「・・・はぁ、はぁ、スピカ、ちゃん」
「・・・はぁ、リラ、はぁ、はぁ」
「・・・わ、私は、スピカちゃんに、勝ち、たい・・・!」
「ん・・・わ、私も、リラに、はぁ、勝ちたい・・・!」
互いに本音を零し、二人して笑い合う。二人にはもう魔法を放つだけの魔力は残っていない。
・・・きっと二人は心のどこかで思っていたのだ。いつか本気で戦ってみたいと。戦って勝ちたいと。・・・勝ってあの人に自慢してみたいと。あの人に二人のことを褒めて欲しいと、ずっとずっと願っていた。今はもう叶わない思いをきっとどこかで願っていたのだ。
「「・・・はぁ、はぁ、はぁ」」
手を伸ばせば相手の体に届く。そんな距離まで近付いた二人の頬には涙が伝っている。立ち止まった二人は徐に右手を振り上げ――
パァァン!!
乾いた音が会場に響く。右手を振り抜いた体勢で固まっている二人はそのままゆっくりと地面に倒れた。しん、と静まり返る会場。
『し、試合終了〜〜! 両者ダウンにより、引き分けです!』
5秒程経って我に返った司会のミルカが試合終了を告げる。途端に沸き出す歓声。舞台にエルレアとリンティアが降りて、リラとスピカの二人を担いで医務室に運ぶ。怪我は結界の影響でないが、精神的な疲労はとれない。その証拠に二人は眠ったままだ。取り敢えずベッドに寝かせてきたが、恐らくしばらくは起きてこないだろう。本当はリンティアが治療したら良いのだが、精神的な疲労は魔法では回復出来ないのだ。だからリラとスピカを寝かせて二人は会場に戻る。
「二人して無茶しすぎですよ」
「それでもかっこよかったですね」
「そうですね。二人のあんな表情を初めて見ました。リーダー失格ですね私は」
「そんなことありませんよ。あの子達は初めて勝ちたいと思ったんだと思いますよ。そうでなければ、あんなに必死になりませんよ。だからエルレアさんも、そう気張らなくていいんですよ」
「そう、ですね。これから二人のことを知っていくことにします。ありがとうございます、リンティアさん」
「いえ、それより次の試合が始まってしまいますよ。急ぎましょう」
エルレアとリンティアが走って戻ると、丁度修復された舞台の中央でクレスとイーラが既に向かいあっていた。
『皆さん揃いましたね! それでは第三試合、開始!』
恐らく今大会で一、二を争う程の相性が最悪であろう者同士の戦いが始まった。
相変わらず戦闘描写が下手くそですね。びっくりします。文字数はあるのに恐らく漫画とかで表すとすぐに終わるんですよね。どうしたらいいのか。
あ、先日初めて感想を頂きました。読んで下さり感謝でいっぱいです。他にもお待ちしております。批評は心が折れちゃうので軽めでお願いします。